ユーザー参加の「ブラよろ」英訳プロジェクト ニコ動でスタート | アニメ!アニメ!

ユーザー参加の「ブラよろ」英訳プロジェクト ニコ動でスタート

マンガ家佐藤秀峰さんの代表作『ブラックジャックによろしく』を、ユーザー参加で英訳するプロジェクトが、11月11日にニコニコ動画内の画像再生サービス「ニコニコ静画」でスタートした。

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 マンガ家佐藤秀峰さんの代表作『ブラックジャックによろしく』を、ユーザー参加で英訳するプロジェクトが、11月11日にニコニコ動画内の画像再生サービス「ニコニコ静画」でスタートした。
 このプロジェクトは原作者である佐藤秀峰さんがtwitter上で自身の作品について「誰か翻訳をしてください」と呼びかけたのがきっかけである。これを読んだニコニコ静画責任者が協力を申し出て、「ニコニコ静画」でプロジェクトが進められることになった。

 ニコニコ静画がサイトに持つユーザーコミュニティを活用した、多数のユーザーによる同時参加型の英訳プロジェクトを提案する。サイトでは作品をコマ分割で提示、コマごとの英訳が可能な仕組みを設ける。複数のユーザーが少しずつ作業をすることを念頭に置いている。さらに国内だけでなく、英語圏を中心に海外からも参加出来るように配慮する。
 またニコニコ静画は海外からのユーザーが参加可能な特設サイト「niconico.com」を立ち上げた。そこをベースに英訳を行うユーザーを募る。ここでは英語の翻訳だけでなく、翻訳された作品の鑑賞や感想の書き込みも出来る。マンガの英訳を通したコミュニティ形成を目指す。

 こうしたファン参加型のマンガ翻訳は、現在の日本マンガの海外展開を考えるうえで興味深い。ファンによるマンガ翻訳は、現在でも非合法なかたちで行われているからだ。
 海外のマンガ翻訳出版の翻訳作業は、通常はプロの翻訳家が行う。その一方でインターネット上には、スキャンレーションと呼ばれる海外ファンが権利者の許諾なしに自身で翻訳した作品の違法ファイルが溢れている。こうした違法ファイルが商業ビジネスに影響を与える一方で、違法な翻訳に対する情熱と能力をビジネスに転換出来ないかとの意見はこれまでにも出ていたからだ。

 今回の『ブラックジャックによろしく』英訳プロジェクトは、こうしたファンによる翻訳をビジネスに活かす可能性を試すものだ。ネット上のファン翻訳のプロジェクトはこれまでにもあり、現在も新たな構想がある。しかし、メジャータイトルが提供されないと翻訳する側のモチベーションが不足して、プロジェクトはうまく回らない。人気作品を生みだす佐藤秀峰さんの大ベストセラー『ブラックジャックによろしく』であれば、これがクリア―出来る。
 今回のプロジェクトは、原作者公認、佐藤秀峰さんの作品提供により初めて実現可能になった。自身の作品を通じて独自の作品販売プラットフォームを作るなど、積極的にネットを活用する佐藤秀峰さんだからこそ実現したともいえる。

 ただし、こうしたユーザー参加のボランティアプロジエクトに課題が多いことも事実だ。ひとつは勿論、翻訳のクオリティの問題だ。全てのユーザーが高い翻訳の技術を持っているわけでなく、むしろ高い能力を持つユーザーは数が少ない可能性がある。医療現場を舞台にした『ブラックジャックによろしく』は専門用語が多く、翻訳へのハードルは高い。また、単行本で13冊にも及ぶ作品を多くのユーザーが分断して翻訳することで、用語の統一、語調の統一といった問題も生れる。全てが平等のコミュニティで誰がそれをまとめ上げるかが問題になる。
 プロジェクトの念頭にはウィッキペディアの様なシステムがあると想像される。しかし、ボランティア行為に対する見返りが少ないことからウィッキペディアの執筆者が減っているともされるなか、英訳に対する見返りは何なのかかが鍵になる。アニメ、マンガの自主翻訳、その違法アップロードも翻訳作品には、翻訳者自身の名前(大抵はペンネーム)が大きく上書きされている。つまり、自尊心という精神的な見返りが得られる行為なのだ。
 『ブラックジャックによろしく』の中でユーザーが得られるのは、コミュニティ参加という満足感かもしれない。しかし、それをうまく回すためにはコミュニティに大きな求心力が求められる。むしろ、熱心なユーザーが多いとされるニコニコ動画だからこそ実現するプロジェクトなのかもしれない。今後の展開が注目される。

『ブラックジャックによろしく』英訳プロジェクト × ニコニコ静画
 開始日: 2010年11月11日(木)~
 英訳参加条件: 誰でも可(ニコニコ動画ID の登録が必要。※登録無料)
 視聴条件: 誰でも可
 特設URL: /http://niconico.com

ニコニコ動画 /http://www.nicovideo.jp/
《animeanime》
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