世界同時展開時代のアニメビジネス その課題と未来 -2- | アニメ!アニメ!

世界同時展開時代のアニメビジネス その課題と未来 -2-

レビュー そのほか

【同時展開のコストの問題】
 勿論、明るい側面ばかりでない。そこにはむしろ大きな問題が横たわっている。つまり、こうして作られた流通網の維持コストを誰が負担するのか、そこから果たして投資に見合う利益をどのように回収するか現在は不明確である。
 現実に、この新しく出来たこの映像流通インフラは、現在はほとんど新たな利益をもたらしていない。DVDやテレビ放映と競合する点では、むしろ既存の利益回収のシステムに影響を与えている可能性すらある。日本のアニメに関わる企業は、この新しく出来たシステムを維持し、さらにアニメ産業を維持し、そこからの収益化を実現する仕組みを必要としている。
 合法配信の導入が、違法配信の量を減らしたとしても、それが無料で配信されている限りにおいては、違法な視聴が合法的な視聴に入れ替わっただけで、何の利益ももたらさない。これが現在の最大のジレンマである。

 では、合法配信によって利益を生み出す方法はあるのだろうか。おそらく可能性は2つである。ひとつは、クランチロールが一部で導入している有料配信による収益である。導入から1ヶ月で1万人を超える有料会員化は評価に値する。
 しかし、問題はこれからだ。月およそ7ドル(およそ700円)の会費で、『NARUTO』から『銀魂』、『咲-Saki-』、『ハヤテのごとく!!』、『リストランテ・パラディーゾ』など、多数の最新作が見られるクランチロールは、ユーザーにとってはかなりお得なサービスである。
 しかし、現在のサービス価格と会員数、サービスタイトル数で、クランチロールのビジネスに十分な収益があがるとは考えられない。限られた収益は結局日本の有力アニメを大幅ディスカウントで海外に販売することになりかねない。

 既に海外で起きているアニメDVDの価格破壊が、日本の高価格のDVDの犠牲のうえに成り立っているとの意識が日本のファンに広がっている。こうした傾向がネットの世界でも広がれば、日本のファンによる国内のアニメ価格に対する不信感がさらに広がる可能性がある。
 しかし、無料の違法配信コンテンツが未だ存在するなかで、クランチロールのサービス料金の値上げは、現状では難しい選択であろう。クランチロールが収益化出来る方法は、会員数をさらに劇的に伸ばすか、あるいは法的手段を用いて、今では彼らのビジネス上のライバルになっている違法配信を強制的にインターネットから排除するかのいずれかである。

【同時展開はビジネスも同時展開が必要】
 もうひとつは、今回『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCAMIST』が取った方法である。配信とテレビ放映やDVDの販売、キャラクターグッズの展開を結びつけることだ。配信はあくまで関連商品の宣伝手段、ビジネスの利益は、関連商品の販売から回収する。これに不可欠なのは、同時配信の流通が、他のライセンス、放映権やビデオグラム化権、さらに商品化権を持つ企業に委ねられることである。インターネット配信(場合によってはテレビ放送も)自体は赤字の運営、利益は関連ビジネスから行う。
 ライセンスを持つ企業は、合法的な同時配信で違法配信を牽制しつつ、ベストなタイミングをみながら商品展開が可能になる。つまり、二次利用の市場組み合わせることで、利益を最大化する方法である。
 『鋼の錬金術師 FULLMETAL ALCAMIST』の北米とフランスの試みは、このやりかたである。北米のファニメーション(Funimation)、フランスのダイベックス(Dybex)は、いずれも現地の映像関連商品のラインセンスを有する企業である。彼らはインターネット配信で作品の認知度を高めたあと、関連商品のビジネスで利益の回収を行なうことになる。

 さらに世界同時展開で有利なのは、映像マスターやキャラクター商品、出版物を、世界同時に展開することで共有出来る可能性があることだ。これを実現すれば、二次利用のビジネスコストを大きく引き下がることが出来る。
 特にニッチな作品でこれは有効である。大衆的な作品に較べてマニア志向の高い作品は、国ごとのファンのテーストの違いが薄いからである。各国に数千人しか購買者のいない作品でも、何十カ国の市場を束ねることで、作品ごとの採算ラインを引き下げることが可能だ。

【日本のアニメ業界は革新的な産業】
 日本のアニメ業界に対する大きな誤解は、日本アニメ業界が保守的でなかなか変化したがらないという指摘である。これは、国内、海外のアニメ関連の企業やメディアからもしばしば指摘される。
 しかし、実際の日本アニメ産業は、驚くほど変化が早く、またビジネスについては変わり身が早い。例えば、テレビアニメ『鉄腕アトム』開始の際に生まれた二次利用権の展開で放映を維持するビジネスモデルは、『鉄腕アトム』の放映後数年で瞬く間に広がった。アニメ製作のための製作委員会方式の導入、セルの手塗り彩色からデジタル彩色への移行など、日本のアニメ業界はわずか数年で、ビジネス構造を劇的に変えてしまうことがこれまで何回も行なわれてきた。
 何よりも誰もが難しいと思っていた世界同時展開を短期間で実現させてしまったことが、それを証明している。

 日本のアニメ企業は、手探りでいろいろな方法を常に探し続けている。そして、一端、効果的な解をみつけると、驚くほど短期間に全て変ってしまう傾向がある。こうした柔軟さがある限り、日本のアニメの将来はまだまだ可能性がある。
 おそらく日本アニメ独自のシステムになりつつある映像作品の世界同時リリースの仕組み、この中から利益を生み出す方法が生まれる可能性は高い。それが築かれてしまえば、日本のアニメビジネスはおそらくまたあっという間に変ってしまうだろう。

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《animeanime》
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