5月19日に東京・池袋で「同人誌と表現を考えるシンポジウム」が、「同人誌と表現を考える会」の主催で開かれた。 今回のシンポジウムは、同人誌が表現問題で直面する様々な課題のなかで、特に性的表現の問題について取り上げている。 これは昨年12月に最終報告書が提出された警視庁の諮問機関「バーチャル社会のもたらす弊害から子供を守る研究会」に、同人誌が取り上げられたことによるものである。 報告書は、性的行為を扱ったコミックなどの自主規制を求める内容を盛り込んでおり、同人誌の性的な表現の問題が公の書類に大きく取り上げた初めてのケースである。一方で、報告書の内容には現在の同人活動についての誤解も見受けられる。 同人誌に関わる人たちが、もう一度こうした問題をきちんと取り上げたと考え、今回のシンポジウムが実現した。実際にシンポジウムの後援には、全国同人誌即売会連絡会や日本同人誌印刷業組合が加わっただけでなく、当日のシンポジウムには同人誌を頒布する小売店や評論家、法律関係者なども加わり、幅広い意見を交わす場となった。第1部 「今どうなっているのか?~現場からの発言~」 前半は、即売会主催者と同人誌印刷会社、小売店という直接同人誌に携わる現場からの現状報告となった。 一番興味深かったのは、同人誌の表現に対するのチェックが、現在でも何段階も厳しくが行われていることである。世間のイメージと裏腹に同人誌は、印刷から頒布、小売店への委託まで何重にもチェックが行われている。 例えば同人誌印刷の80%~85%を扱う日本同人誌印刷業組合は、独自の基準を設け印刷の前段階で表現チェックをしている。さらに印刷を拒否すればそれが他所に持ち込まれる可能性があるため、印刷が可能になる修正箇所の指摘なども行う。 また、即売会主催者も全同人誌をチェックし頒布出来るのかどうか、18禁については会場できちんと分別表示されているかを指導する。同様に小売店も独自の基準を設けて、販売前にチェックを行っている。 つまり、自由で、何でもありと思われがちな同人誌の性的表現は、実際には様々な段階で業界内でのチェック機能が存在している。 問題はシンポジウムのなかでもたびたび指摘されたが、関係者がこうした活動を外に向かって発信してこなかったことにある。 それはこれまでは、コミケや同人誌専門店といったファンの間だけの世界として外にアピールする必要性をあまり感じてこなかったことに理由があるだろう。 一方で気になるのはこうした自律的な表現のチェック体制を語る必要性がある一方で、問題をそれだけにで語ってしまうと逆に誤解を受ける可能性もあることだ。 表現を規制したいと思う人には、チェック機能の有無でなく、そもそも性的表現を持つ同人誌に対する拒否感が前提にあるかもしれないからだ。 第2部 「どうすべきなのか~有識者討論~」 性的表現と社会と関係については、有識者を中心とした第2部で多くが語られた。規制が守られているか以前に、規制する側に自分たちの見たくないものを排除したい欲望があるのでないかという伊藤剛氏の指摘は的外れではない。 そのうえで伊藤氏は、そうした人たちには同人誌側が良識とマナーを持っていることを示すことが効果的であるという。先の業界自身によるチェックも、そうした良識とマナーを持っていることのアピールであるというわけである。 これは藤本由香里氏も指摘しており、同人誌にネガティブな人には、自分達の責任をみせることが考え方を変えさせる力になるとする。 商業誌より厳しいとされるコミケの基準は責任感を示すものであり、こうした活動が、中長期的に表現の自由を守ることになると語った。 一方で、今回はあまり触れられなかった問題に、性的表現や暴力表現が社会に与える影響がある。斎藤環氏によれば、これまでメディアの暴力表現が暴力を助長したり、性的な表現が性的な行動を助長するという調査結果は存在しないし、今後も現れる見込みがないという。 実際の表現の規制とは別に、凶悪事件の要因をしばしば同人誌的な文化に求める一部のメディアについても何らかアピールをする必要があるだろう。こうした報道やその印象をもとに、同人誌表現の規制強化の考えが今後浮上しないとは言えないからである。 「同人誌と表現を考える会」2007年5月19日 みらい座いけぶくろ(豊島公会堂)主催:「同人誌と表現を考える会」後援:全国同人誌即売会連絡会 /http://sokubaikairenrakukai.com/COMIC1 /http://www.comic1.jp/日本同人誌印刷業組合 /http://www.doujin.gr.jp/パネラー第1部 今どうなっているのか?~現場からの発言~中村公彦 (コミティア実行委員会)武川優 (日本同人誌印刷業組合)鮎澤慎二郎 ((株)虎の穴)川島国喜 ((株)メロンブックス)市川孝一 (コミックマーケット準備会/COMIC1準備会)武田圭史 (赤ブーブー通信社)第2部 どうすべきなのか~有識者討論会~坂田文彦 (ガタケット事務局)斎藤環 (精神科医)永山薫 (マンガ評論家)藤本由香里 (編集者/評論家)三崎尚人 (ライター/同人誌生活文化総合研究所主宰)望月克也 (弁護士…松文館裁判弁護人)伊藤剛 (マンガ評論家/武蔵野美術大学芸術文化学科講師)(敬称略)
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