宮崎監督と富野監督の教育観の違いについて | アニメ!アニメ!

宮崎監督と富野監督の教育観の違いについて

 アニメや映像、ゲームについて述べているブログ『さて次の企画は』での、“Ζガンダム劇場版で見る富野と宮崎の教育観の違い”が面白い。記事の内容は若手育成に取り組まない宮崎監督と若手育成に熱心な富野監督の違いについて語っているのだが、僕自身も色々考えさせ

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 アニメや映像、ゲームについて述べているブログ『さて次の企画は』での、“Ζガンダム劇場版で見る富野と宮崎の教育観の違い”が面白い。記事の内容は若手育成に取り組まない宮崎監督と若手育成に熱心な富野監督の違いについて語っているのだが、僕自身も色々考えさせられた。内容については、実際のサイトの記事を読んでもらうとして、僕はこの記事を読んで両者の教育観の違いを日本的な宮崎監督とアメリカ的な富野監督と捉えた。あるいは、宮崎監督は伝統主義的で富野監督はベンチャー的とも言いかえることも出来る。
 つまり、宮崎監督はクリエーターにあるべき忠実な姿を望み、技術は職場の中で自然に育って行くものと考えており、富野監督は煽り、励まし、挑戦させるといったあらゆる手段の教育により若手の異なった才能の引き出すことを必要だと考えているのではないだろうか。

 富野監督のアメリカ的というのは、特に先の記事の中で
“富野にはかなり以前から『若者を育てなければいけない』という強迫観念があるようだ。”
といった言及が、名を成した米国人の多くが若手の発掘や後進育成のための異常とまでいえる情熱を注ぐのに相通じるものを感じるからだ。
 米国では不思議なことに名を成した人の多くが次に何をするかというと、ほとんどの場合が若手の育成なのである。つまり、これはいけると考えた若手を自分の力を使って引き上げるといったことが日常的に成されている。こうしたことは、音楽や芸術といった創造的な分野だけでなく、研究者や経営の現場も含めたあらゆる場所で行われている。それは、良し悪しを超えて成功した人間の義務と考える米国の革新性を育てる文化なのだ。
 
 話を戻すと、こうした両者の違いはどこから生まれて来るのだろうか。それは宮崎駿監督と富野監督のアニメ制作におけるポジションの違いである。宮崎監督は日本アニメーション制作の本流に位置し、アニメを越えた文化人としてもエスタブリッシュされた場所にいる。
 おそらく、宮崎監督にしてみれば、優れた才能は自分から育ち、自分で道を切り開いていくということであろう。また、アニメーション(敢えてアニメとは言わない)にはやはり優れた作画方法や演出方法がありそれは守られなければいけない。そうした漫画映画の伝統から外れたものは受け入れ難いといったことが想像できる。
 そうした人の元では伝統的な高い技術を持ったクリエーターは間違いなく育つに違いないが、はじけた個性が生まれ難い。むしろ、先達が優れていれば優れているほど、その様式を受け継いで行くことになる。そう考えれば、ジブリにおいてもおそらく人材は育っているに違いないが、そうした人達はあまりにも手堅すぎて外に向かって印象を残さないのだと想像される。

 一方、富野監督は絶大な人気を得た『機動戦士ガンダム』の生みの親でもあるが、それでも伝統的なアニメーションの本流からは外れており、サブカルチャー的な部分での成功である。宮崎監督が、アカデミー賞やビエンナーレで賞を取ることがあっても富野監督がそれを取ることはほぼありえない。富野監督は、しばしば宮崎作品のような国民的な作品や子供番組、ギャグアニメといったものを高く評価し、それに嫉妬するといった発言を行っている。それは、自分がそうした主流でない場所を歩んできている強い自覚を持っている現われである。
 こうしたサブカルチャーの目立った属性は、今までとは違うこと何か新しいものを良しとすることである。サブカルチャーの世界では物事は常に変動しており、他と異なる何かがその文化を発展させて行くのだ。富野監督は、そのことを十分理解しているからこそ自分の属する世界の発展のためには、これまでとは違う何かを持つ若手を育成することを必要としている。富野監督は常に出来るだけ若いクリエーター、自分と異なる世界のクリエーターと触れることで新しい何かを発見することを期待しているのだ。
 宮崎監督にとっては、自分の属する世界を発展させることは現在ある技術を守り、発展させて行くことであり、全く新しいものは必要としていないに違いない。だから、両者の教育観の違いは二人の個性の違いというよりも、アニメを超えた日本の保守的な文化と革新的な文化の違いの反映だといえる。

上記参考記事
さて次の企画は /Ζガンダム劇場版で見る富野と宮崎の教育観の違い
           /劇場版Ζガンダムでの富野と宮崎の教育観の違い(続き)
《animeanime》
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