自身が推している声優ラジオの“スポンサー”になれるシステムをご存知だろうか。多数のアニラジを配信するインターネットラジオステーション<音泉>は、2024年8月に「音泉チップ」という新サービスをローンチ。「音泉チップ」とは、リスナーが番組に支援金を送れるサービスで、消費税・決済手数料を除いた全額が対象番組の番組継続費として使用されるという。いわば、リスナーが番組の出資者=スポンサーになれると言っても過言ではないサービスだ。
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以前に「超!アニメディア」のラジオ番組運営にも関わり、今も複数の声優番組に関わっている筆者は、このサービスが色々な可能性を秘めていると感じる。
制作費がなければ運営もできない
ラジオ番組を運営していくうえで、制作費は必ず必要となる。もっと言えば、利益が多少でも出る番組でなければ、長期継続していくのは難しいだろう。制作費をまかなう方法として、個人的には主に“スポンサー型”と“ユーザー支援型”のふたつがあると考えている。
前者はその名の通り、各企業に番組をスポンサードしてもらうパターン。アニメやゲームなどの宣伝も兼ねたラジオ番組の多くも、宣伝予算から制作費を捻出しているという意味では、スポンサー型に近いスタイルだ。ちなみに声優ラジオの場合は広告効果だけでなく、番組やパーソナリティを応援したい企業または担当者がスポンサーになってくれるケースが多いようにも感じる。とはいえ、スポンサーになりたくてもなれない企業も多く、ハードルは高い。スポンサー型では、なかなか長期的な運用が厳しいのが現状だ。
一方のユーザー支援型は、いわゆる有料コンテンツの配信、イベント・グッズの展開、クラウドファンディングや投げ銭などによって制作費をまかなうパターンと、本稿では定義しようと思う。声優がパーソナリティを務めるオリジナル番組の場合は、こちらのスタイルが多いだろう。実際、私がこれまで担当してきた10ほどの番組はすべて、こちらのパターンで運営してきた。
こういったユーザー支援型の取り組みは、ただやればいいという訳ではない。有料コンテンツの場合は当然、それなりの対価を提供する必要がある。イベント・グッズ展開もとりあえず企画すればお客さんが集まったり、買ってくれたりするものではない。加えて、イベントをやるにしてもグッズを展開するにしても、パーソナリティ・スタッフ・会場などのスケジュール調整が必要となる。
都内会場は一年先まで埋まっている場合もあり、また供給が多くなればなるほど稀少価値が下がっていく。リスナーとしては番組を支えたいと思っていても、タイミングによってはイベントに参加できない、グッズを購入できないなんてこともあり得るだろう。実際、私自身が一ファンとしてラジオのイベントに参加していた2010年代前半は2、300人規模の会場が埋まるイベントもよく目にしていたが、最近は100~200人規模、もしくはもう少し小さい箱(会場)で開催するイベントも多く見られるようになってきた。
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さらにいえば、開催は都内近郊で行われることが多い。そうなると関東近辺に住んでいない方は、チケット代とは別に数万円近くの交通費を支払うことになる。コロナ禍で配信イベントなども広く普及したが、今は配信イベントを実施しても以前のような集客が見込めないという声も各所から聞いている。
なお、規模にもよるが、実は少なくとも数十万はかかるイベント・グッズの製作費を考えると、実際に番組制作費に回せる金額は決して多くはない。かといって年間に何度もイベントをしたり、チケット代を高額にしたりしてユーザーの満足度が下がってしまえば、結果的に番組継続は難しくなるだろう。
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運営をやっている立場の一人として、リスナーの方に楽しんでもらいたい、番組をできるだけ長く続けたいという思いはある。しかし、制作費がなければ番組を運営していけないというのが、厳しい現実だ。そんななかで私は、「音泉チップ」が新しい番組継続のカギとなる、またヒントになる可能性を感じている。
番組継続に加えてパーソナリティのやりたかったことが実現する可能性も
「音泉チップ」はリスナーが番組に支援金を送れる仕組みで、チップを贈った全員が金額に関係なく、パーソナリティの音声メッセージや直筆コメントなどがもらえるというもの。冒頭にも書いたが、つまりはリスナー自身がスポンサーになって番組を支えられるのだ。もっと言えば、先ほど挙げたスポンサー型とリスナー支援型の要素を両立したサービスと言えるだろう。
「音泉チップ」はすべてが番組制作費に使われるため、番組継続はもちろん、制作費の面で叶わなかったパーソナリティがやりたいこと、リスナーが番組でやって欲しいことを実現できる可能性もある。例えば、パーソナリティの地方での凱旋イベント、単価の高いグッズ制作、それなりに予算がかかる番組内企画などが叶うかもしれない。
クラウドファンディングに近しいところがあるが、集まらなければ実施できない、継続が決まらないという訳ではないし、インセンティブが金額に応じて変わらないという点にも違いがある。金額による差がないのは不平等と思う方もいるかもしれないが、だからこそ、自分自身の想いや判断で無理なく支援できるという点では、逆に平等と言えるのではないだろうか。
また、クラウドファンディングや投げ銭は、平均2割程度の手数料が番組とは関係のない企業に入る場合もある。例えば100万円集まった場合、20万円は手数料となる。自身が贈った金額のうち20万円近くが番組に入るわけではないことに関して、不満をもつリスナーも少なくないはずだ。「音泉チップ」は消費税・決済手数料を除いた全額が番組制作費となる点も特徴だろう。
とは言え、すべての番組が「音泉チップ」に適しているとも限らない。従来通りにイベントやグッズ展開を継続的にやったり、投げ銭などの仕組みの方が適していたりする番組もあるだろう。また、「音泉チップ」を贈ったからといって、番組が必ず継続するとは限らない。当然、金額が集まらなくて結局継続が難しいとなる場合もあるのは想像に難くない。それでも、「自分の推しのラジオをもっと聞きたい!」「何かしら協力したい!」という方にとっては、ひとつの可能性となる仕組みであることに間違いはないだろう。
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今回の「音泉チップ」は、基本的には、<音泉>で配信中の声優オリジナル番組で実施されている。先日放送がスタートした新番組「浅野真澄・堀江由衣のHappy Birthday わたしたち」でもこの「音泉チップ」のサービスを実施中だ。
本番組のパーソナリティふたりは、別のプラットフォームにて番組を配信していたものの、残念ながら番組は終了。しかし、パーソナリティのアピール活動が功を奏して、<音泉>で配信されることになったのだという。今回の「音泉チップ」のスタートが影響したかどうか不明ではあるが、同じように、リスナーに求められている・パーソナリティが求めているのに終了した番組が、復活する可能性もあるかもしれない。
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声優ラジオの運営を担当してきた筆者は、正直このサービスをオマージュしたいと思った。番組を続けたいのに続けられなかった悔しい過去があるからだ。しかし、企業としての体力やパーソナリティ・事務所の理解がないと、こういうサービスは始められない。そこは20年以上もアニラジと向き合ってきた<音泉>だからこそのサービスと言えるだろう。自身もこの仕組みが作れるのであれば、ぜひチャレンジしたい。<音泉>の新サービスは、ラジオ業界にどのような影響をもたらすのだろうか。今後の動向に注目したい。