「ベルセルク」2人の生き様を描く“黄金時代篇”― 人知を超えたグリフィスには何が見えているのか | アニメ!アニメ!

「ベルセルク」2人の生き様を描く“黄金時代篇”― 人知を超えたグリフィスには何が見えているのか

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第29弾は、『ベルセルク』よりグリフィスの魅力に迫ります。

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『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』第3弾ビジュアル(C)三浦建太郎・スタジオ我画/白泉社(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
  • 『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』第3弾ビジュアル(C)三浦建太郎・スタジオ我画/白泉社(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
  • 『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』特報カット(C)三浦建太郎・スタジオ我画/白泉社(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社 /BERSERK FILM PARTNERS
  • 『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』場面カット(C)三浦建太郎・スタジオ我画/白泉社(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
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  • 『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』(C)三浦建太郎・スタジオ我画/白泉社(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社 /BERSERK FILM PARTNERS
  • 『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』特報カット(C)三浦建太郎・スタジオ我画/白泉社(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社 /BERSERK FILM PARTNERS
  • 『ベルセルク』(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
  • (C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS
    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第29弾は、『ベルセルク』よりグリフィスの魅力に迫ります。

※『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』のネタバレがあります。

故・三浦建太郎が生み出した傑作『ベルセルク』。この作品の最重要エピソードは、主人公ガッツの青春時代を描いた「黄金時代篇」だろう。

なぜなら、ガッツが何を守ろうとして旅をしているのか、そして誰に復讐しようとしているのか、その理由も含めてこのエピソードで明かされるからだ。

その復習相手となるグリフィスとの出会いと友情、そしてすれ違いと絶望が容赦ない筆致で描かれる。宿敵にして最大の友であるグリフィスとガッツ、2人の生き方が決定的に分かれた瞬間、この物語は真の始まりを迎えたと言っていい。そして、2人の生き様を通して「人はどのようにして生きるべきか」という根源的な問いを投げかけているのだ。

『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』ビジュアル(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社/BERSERK FILM PARTNERS

■ガッツとグリフィスの悲しいすれ違い


グリフィスの初登場時、彼は一点の曇りない高潔な騎士に見える。少女漫画の世界で夢見られるような外見とカリスマ的な戦術能力いに剣の腕もたつ。鷹の団の部下からの信頼も厚く、1ミリの欠点も存在しないかのように輝いている。

対してガッツは、剣の強さ以外には何も持たない孤独な一匹狼だった。しかし、彼はグリフィスとの邂逅を経て、鷹の団に加わることになり、初めて仲間との絆を得ることになる。

グリフィスは、ガッツに安らぎや本当の人生の幸福感とは何かを教えた存在とも言える。彼との出会いがなければ、ガッツは一生、一匹狼のままで苦しく生き続けることになっただろう。そんなガッツは、グリフィスと「対等な友」になりたいと渇望するようになっていく。

しかし、ガッツはグリフィスをあまりにも理想的な存在として見すぎていた。グリフィスも貧しい出で、生まれながらの貴族ではない。自分の国を造るという野望のためには汚いことも辞さない面も持っている。そして、案外グリフィスは嫉妬や執着心が強い。

何よりグリフィスのガッツへの執着心は強い。グリフィスにとってガッツはもはや自分の半身と言っていいほど大切な存在だったのだが、ガッツは対等になれていないと思っていた。この哀しいすれ違いが後の大きな悲劇につながってしまう。

『ベルセルク 黄金時代篇 MEMORIAL EDITION』ビジュアル(C)三浦建太郎(スタジオ我画)・白泉社 /BERSERK FILM PARTNERS

■グリフィスはなぜ仲間を犠牲にできたのか


凄惨な拷問を受け再起不能状態となり、全てを失ったグリフィスは絶望する。そんな折に、特殊な儀式「蝕」によって超存在であるゴッド・ハンドに転生する機会を得た。鷹の団を生贄とすることで。

なぜ、彼は仲間を犠牲にすることができたのだろうか。「国を造る」という夢のためか、それともそれが彼の運命だったのだろうか。

そもそも、グリフィスにとって仲間はどういう存在なのだろう。彼は、友とは対等な存在だという。あまりにも秀ですぎているグリフィスは対等な存在を持たなかった。鷹の団の団員はあくまでも部下であり、対等な存在ではない。

その意味で、ガッツほど団員に対する思い入れはなかったのかもしれない。ガッツにとって鷹の団は、初めての安らげる場所であり、何よりも守りたい存在だ。なにより、思いを寄せたキャスカもいる。

『ベルセルク』には因果律という言葉がよく出てくる。全ての出来事には必ず要因があり、全ては決まっていることなのだという意味だ。グリフィスには、仲間を犠牲にしない選択肢もあったはずだが、彼は犠牲にする道を選んだ。それも全ては因果律によって決まっていたことなのだろうか。

ゴッド・ハンドに転生後、そして再び人間へと生まれ変わるグリフィスは、以前にも増して完璧な存在に見え、人間らしさを感じない。まるで、この世界の全てを見通しているかのようだ。

対して、「蝕」をかろうじて生き延びたガッツには呪いが刻まれ、過酷な運命に抗うように、人の身で超人的な使徒を倒し続ける。狂気に呑まれそうになりながらも、ガッツは出会いを通して人間らしい感情を失わずにいられている。2人の生き方は実に対照的に見える。

『ベルセルク』は究極の描写で人はどう生きるべきかを描いた作品だ。ガッツは、己の意思で生きる者を代表している。だとすれば、グリフィスが因果律に従って生きているということだろうか。人知の及ばない存在になっているため、彼の胸の内は計り知れない。

全てが決められているとしたら、それに逆らって生きる意味はないと思うだろうか。ガッツはそうは考えない。因果律だろうがなんだろうが、仲間を殺し、キャスカを壊した奴を許さない。『ベルセルク』はそういう人知を超えたものとの戦いを描いている。だからこそ、グリフィスのように人を超えた存在が敵役として必要なのだ。

この作品がどのように完結するかはわからない。しかし、人は人のまま超越した者を倒せるのかは問われることになるのだと思う。ガッツとグリフィスの2人がどんな結末を迎えるのだろう。どんな結末になっても、それは深く胸に刻まれるものになるだろう。

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