ピクサーといえば、海を舞台にした作品では『ファインディング・ニモ』も、リアルな水の描写で世界中を驚かせた。しかしエンリコ・カサローザ監督によると、北イタリアの海を舞台にした本作では、あえて“水のリアリティ”を追求しなかったそうだ。
詩的でファンタスティックな表現を得意とするカサローザ監督は、この物語にこれまでのピクサーと真逆の方法で「ファンタジーの雰囲気」を持ち込み、主人公ルカが巻き起こす「ひと夏の奇跡」を描き上げている。
■リアルな水を描かないことが逆に難しい!?
『あの夏のルカ』で描かれるのは、「海の世界」に生きるシー・モンスターの少年ルカと親友のアルベルトが、海の掟を破って「人間の世界」で冒険を繰り広げ、「ひと夏の奇跡」を巻き起こす物語だ。舞台となるのは北イタリアの港町ポルトロッソで、カサローザ監督の出身地であるイタリアのジェノアがそのまま作中に取り込まれた。
ピクサーの海を舞台にした作品としては、リアルな水のきらめきと奥行きを再現しアカデミー賞長編アニメーション賞に輝いた『ファインディング・ニモ』、そしてそこからさらに進化を見せた『ファインディング・ドリー』が代表的だろう。
しかし、本先ではこのリアルな“海”の表現を用いず、あえて完全なリアリティを求なかったとのこと。エフェクトチームのジョン・リシュは「僕たちはこの映画にファンタジーの雰囲気をもっと持ち込んでいます。」と明かしている。
リシュによれば、『ファインディング・ドリー』などで現実的な水の描写を追求してきたエフェクトチームは、リアルな水を描かないことが逆に難しかったそう。
「僕たちがこれまでに知っていることと違うのをやるのは、難しいことでした。エフェクトを担当する僕たちはリアルなディティールを作っていくことに慣れています。今までと全く違うことをやるので、ある意味、僕たちはルカみたいな気持ちを覚えました。過去の映画で正しかったことは、この映画では間違いになり得るのです」とコメントする。
常に最新のテクノロジーを取り入れて、最先端の映像を作り上げてきたピクサーにとって、本作における水の表現は大きな挑戦となったようだ。
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『あの夏のルカ』(C)2021 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
■なぜ「リアルな水を描かない」ことにしたのか?
では、なぜ「リアルな水を描かない」ことにしたのだろうか。カサローザ監督によると、本作は「映像をリッチにしたかったけど、きちんとデザインされていて、美しいと感じるものにもしたかった」とのこと。
「ディティールにも、喜びと感激のニュアンスを出したいと考えました」というカサローザ監督は、水の表現について「この作品は、子供たちが新しいことを初体験する物語なので。水も波も、感情を支える。だから僕たちは水をもっとコントロールし、最も感情が伝わるようにし、ちょっとだけリアリティが少なく感じるように仕上げました」と振り返る。
“あえて”の水の表現こそが、主人公ルカと親友アルベルトの自分自身が変わるきっかけとなった人生を変えるような友情を描いたストーリーにとって、重要な役割を担っているそうだ。
「海の世界」で生きるシー・モンスターとしての本当の姿を隠して紛れ込んだ、「人間の世界」でルカとアルベルトが巻き起こす「ひと夏の奇跡」を、水の表現にも注目しつつ見届けてみたい。
ディズニー&ピクサーの最新作『あの夏のルカ』は、2021年6月18日より「ディズニープラス」で独占配信中だ。
『あの夏のルカ』
6月18日(金)よりディズニープラスにて見放題で独占配信開始
監督:エンリコ・カサローザ
製作:アンドレア・ウォーレン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
6月18日(金)よりディズニープラスにて見放題で独占配信開始
監督:エンリコ・カサローザ
製作:アンドレア・ウォーレン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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