
2020年1月末から、「声優かつアーティストとして活躍できる原石」を発掘するオーディション「スマイルオーディション」の応募が始まっています。Digital Double(デジタルダブル)とジャストプロが共同で主催するこのオーディションは、グランプリ獲得者がサイバーエージェントのアニメレーベル「CAAnimation」による新作オリジナルアニメ&ゲーム企画(2021年公開予定)にて声優デビューできるというもの。さらに、両社の共同マネジメントによる事務所に所属し、声優としての活動を支援する予定です。
こうした声優が活躍する機会と育成する場所が、がっちりタッグを組んでプロデュースを行う新しい取り組みに注目が集まっています。今回は、主催者であるデジタルダブルの田中 宏幸氏とジャストプロの寺井 禎浩氏に、本オーディションの狙いやどんな人に応募してほしいのなどをお伺いました。[取材・構成:森元行]
――それでは、お二人の自己紹介をお願いします。
田中宏幸(以下、田中)サイバーエージェントでアニメのプロデューサーをしている田中です。アニメのプロデュースだけでなく、サイゲームスや他のグループ会社と連動も含めた、アニメとゲームのメディアミックス、AbemaTVのメディア活用をしながらアニメ制作を行っています。また、デジタルダブルという会社に今年からジョインしまして、声優やアーティストのマネージメントや音楽制作関係を今後やっていく予定です。
寺井禎浩(以下、寺井)ジャストプロという会社を立ち上げ、声優事務所と芸能事務所のプロダクションをやっています。大学の時にシャ乱Qのアマチュアのマネージャーをきっかけに芸能事務所をするようになりまして、つんく♂の事務所の社長として色々経験させてもらって、ジャストプロを設立しました。
その後、当時アイドルだった子をマネージメントしながら、声優の部署も作るようになり、そこから声優やアニメに携わるようになり、今は声優事務所と芸能事務所であるジャストプロをやっています。
――デジタルダブルの業態について、もう少し教えていただけますか?
田中デジタルダブルは、サイバーエージェントのグループ会社のうちの1社で、CCPRという会社とサイバーエージェントとサイゲームスが株主の会社です。アーティストマネジメント事業をこれからやっていくのと、音楽制作周りをやっていこうと考えています。1月15日からアニソンアーティストの鈴木このみさんが所属第1号になった新しい会社です。
――「スマイルオーディション」で声優のオーディションをされるとのことですが、どういった意図があってオーディションの実施に至ったのでしょうか?

田中サイバーエージェントで自分がプロデュースするアニメとゲームのメディアミックスプロジェクトであったり、まだ未発表のアニメ企画も複数ありまして、そろそろ声優さんを決めていく段階に入っています。こうした自分の関わっている作品の中で、声優さんも自分たちで育てて、作品と共に成功体験をしたいなという気持ちが強くありました。そして、プロダクションとしての現場も作れたので、次の段階として、所属してくれる声優さんを一般公募で募集したいなと思い、オーディションを実施するに至りました。
募集要項ではちょっと曖昧に書いてしまったんですが、グランプリ獲得者の方には次のアニメでメインの声優さんをやってもらい、ゲームも一緒に出てもらいます。そこには歌やキャラクターソングの活動もあるので、それらもできる方を探すオーディションです。将来的には声優アーティストとしての活動をしてもらったり、ライブ活動をするなど活躍の場を広げていけるような方を見つけたいと思っています。

――ジャストプロとはどういった形で合同で行うことになったのでしょうか?

田中声優のマネージメントでは、演技の指導、音響制作の方との連携、スケジュール管理など独自の習慣があったりするんですが、そこは僕たちは得意ではない。そのため、僕たちは作品を作ってそこに活躍の場を提供し、ベーシックな育成やマネジメント業務はお願いすることを前提には考えていました。なぜジャストプロさんになったかというと……なんででしたかね?(笑)
寺井その前にアニメの企画で接点があったんですよね。
田中そうだ(笑)。あとはジャストプロさんはアニメの企画部もあって、そんな中、二つ返事で「やります!」と秒速で返事をされて、その次の週には資料を作って持ってきてくれたんですよね。
――最初に話をもらった時はどんな感じでしたか?
寺井いやもう断る理由はないですよね。面白そう、みたいな。
――オーディションを一緒にやりましょうという形だったんですか?
寺井そうですね。
田中僕たちはタイアップを付けたり、ゲームやアニメの企画を作ったりと、声優さんが座るイスを用意していますが、誰が座るかは全部外部の事務所の声優さんなんですよね。なので、ひとりぐらいは自分たちでちゃんと育てていきたいなと。
――声優になるためのベーシックな方法やこういう人が向いているというのを教えて下さい。
寺井シャ乱Qの時は、無我夢中にオーディションを受けて、「どうやったら日本一になれるんだろう?」って考えていた時期がありました。その後、東京に来てつんく♂と一緒にオーディションをする立場で、逆に応募しに来る子をたくさん見る側になり、普通の女の子だった子がグランプリに選ばれて、華々しくデビューする様子を何人も見てきました。

そうした背景があるので、声優経験の有無に関係なく、誰でも受けられるオーディションを作りたいと思いました。アニメというコンテンツに協力できる方法として、オーディションをさせてもらって、夢を叶えたいというアツい子たちの中から、一緒にやれる子を見つけられたらいいなと思っています。
――単純に寺井さんがそういう人たちを応援したいというのがベースになるんですね。
寺井元々そういう側にいましたからね。
――オーディションを受ける側って怖いだとかいうイメージを持っていると思うんですが、そこをクリアにはできるのでしょうか
寺井オーディションには当落がありますが、その過程でどんな人と出会えるのかというのも大事な要素です。ハロー!プロジェクトにしても、全員が優勝者ではなく、例えばモーニング娘。に関しては落ちた子だけで作ったグループです。オーディションは出会えるきっかけだと思っていて、「5分や10分という限られた時間、ものすごく緊張している中で何をしてくれるんだろう?」という期待もあります。
――極端な話、素人の方でも書類選考は問題ないということですよね。
寺井もちろん。自薦でも他薦でもいいので出してみて!っていう気持ちです。
――最終的に何名ぐらい通したいというのはあるんでしょうか?
田中メインヒロインになる人をひとり探す、というのは決まっていますが、最終的には何人というのは決めてないです。いい才能とたくさん出会えればと思っています。
――声優のオーディションはたくさんありますが、このオーディションを受けた方がいいというアピールポイントを教えてください。

田中アニメを作る側の会社が、声優さんのプロダクション機能を持って一緒にやっていくというのは、通常の声優プロダクションさんとは違うと思います。声優プロダクションでは、所属する権利は得られるものの、それで出演できる権利が得られた訳ではありません。所属したあとも他のプロの方と横並びでオーディションを受ける必要があります。そのため、作品をヒットさせたいという人間と、声優プロダクションとしてこの人をスターにしたいという人間が同一であるというのは、通常の声優プロダクションさんのオーディションとは違いますし、そこは価値が高いと思います。
――今回はひとりを見つけ出すのが中心で、いい人がいれば別のオーディションでは書類選考をパスというようなのもあるということですか?
田中あります。
――今回のオーディションで見るポイントとして言えるところはありますか?
田中お芝居、演技力に関しては、ジャストプロさんと合格以降、育成を頑張っていくので経験は全く不問です。むしろ変な知識を持たずに、自分の持っている声質と読解力でそのまま表現してもらいたいです。むしろ何かのアニメのキャラクターのモノマネのようなことはしてほしくないですね。判断しにくくなってしまうので。
あとは今回キャラクターソングなどの歌唱がありますが、これも真剣に頑張れば未経験でもなんとかなると思ってます。声優の仕事の領域も広がっていますので、全ての仕事に興味をもって取り組める意欲のある人がいいですね。アニメやゲームなどのエンターテイメントが好きで、その仕事をやりたいと思っている人じゃないと長くは続きません。ただ目指したいだけよりは、広くエンターテイメントに興味を持って仕事にしたい人の方がいいと思います。
――合格後に指導があるとのことですが、きっちりと教えてもらえそうですね。

寺井本人の実力に応じた形で、サポートしたいと思っています。例えば、老舗の声優事務所さんはノウハウもたくさんお持ちですし、しっかりとした文化があります。しかし、僕らはまだ若い事務所なので深みはないかもしれませんが、だからこそサイバーエージェントさんと組んで、今までに出てこなかったような人を生み出せればと思っています。そういった意味で歴史ある声優界に少しでも貢献できれば嬉しいです。一緒に作品を作り上げていくという意識のある方にはいい結果が出るかなと思っています。
田中サイバーエージェントもアニメの部署としては新しくできた方で、僕自身はavexでやっていましたけど会社としては新参者という立場です。アニメの新参者とプロダクションの新参者ではありますが、一緒に成長するところに共鳴してもらえるとうれしいですね。
――オーディションの話に戻りますが、キラッと光るものとは何でしょうか?
田中容姿は成長と共に変わってくるので本当にわからないですね。声は、本人の地声がすごく特徴があったりすると「おっ」とは思いますね。あとは声量はある方がいいですね。
寺井お、受けちゃおうかな(笑)。
田中声量があれば、2行~3行あるセリフでも芝居は付けられます。芝居の勘所がよくても、肺活量がないと息切れしてしまうので。
――受ける方に向けて、自分の良さを見出すポイントとかはありますか?

田中難しい質問ですね……。お芝居や歌はプロの目で審査ができますが、パーソナリティは短い時間でなかなか分かりづらい。自己紹介などで、ひとつは「これが好き、得意です」というのを明確に伝えていただき、人となりを教えてほしいですね。
――人となりを見られているんですね。
田中絶対に見ます。むしろ人間と人間が向き合って仕事をしていくので、この人と一緒にお仕事をしたいなと思える人がいいです。プロダクションに入ってしまえば生徒と先生ではなく、プロの声優であり、ビジネスパートナーになります。お互いが仕事をしやすい間柄でありたいので、エピソードや意志などから、自分は他の人とはこう違いますよというのを伝えてください。
お芝居や歌は、持っているポテンシャルを確認させてもらうだけで、あとからアニメに合うようにプロの技術を学んでいけます。でも、先輩声優とアフレコをする状況で、いち社会人として会社の看板を背負っていける人間かどうかは間違いなく見ます。
アニメは共同制作作業なので、自分のエゴだけでは誰も成立しません。そういう意味では歌手とは違うと思うんです。与えられた役割(キャラクター)を次々とこなしていくのが声優なので、みんなとコミュニケーションを取り、人として正しく生きていかなければどれだけ演技がうまくても仕事は続かないと思っています。
――オーディションをたくさん見られた側としてはいかがですか?
寺井タレントオーディションと大きく違うのはそこだと思っています。関わる人数の多さが全然違う。僕は「同じポテンシャルがあるなら、真面目な人が勝つ」と思っています。人が見ていようがいまいが、真面目にコツコツとやる人が絶対に勝つと思っているんです。
田中例えばボイスを録って、音響監督さんから「もうちょっとこうしてほしい」と言われて演技を変えられる。これは自分自身のことだけを考えるのではなく、相手の演出を考えられる真面目さや人間性が必ず必要になってくる場面です。「この声かわいいでしょ?」だけだと絶対成功しないんですね。
――表現者でありながらも、自分の気持ちを表現するわけではないんですね。
田中自己主張だけじゃダメですね。オーディション対策でいうと、自己主張だけの人はダメですね。
――今回のオーディションでは素人も経験者も平等に見られるんですね。
田中はい。声優専門学校で本の読み方や発声の方法をわかっているメリットはありますが、反対に変な癖がついていることもあります。逆に、アニメを見てきただけの素人の子がすっと出した演技の方が、すっと心に入ってくるというのもあるので、どちらもメリットもデメリットの両方ありますね。
――今回、この記事を見てくれた方で、難しそうだからやめておこうという人もいますが、何かヒントとかはありますか?
寺井迷ったら受けてみたら?って思います。単純に出会いですからね。
田中何が当たるかわからないですからね。
寺井損することはないと思うんですよ。選ばれても辞退すればいいわけですし。
――こういうお作法があるかもしれない、っていうのもあると思うんですが、そういうのはないんですね?

田中ないですね。失敗することが恥ずかしいことはないですし、その人は誰にも知られているわけではないですから、本人が落ちたところで誰に対しても恥ずかしいことではないです。むしろアニメやゲームが好きで、そういう仕事を志したいのであれば、デメリットがないから受けるしかないと思います。やりたいから受けてみようという行動をできる人間が勝つし、業界に入ってからの仕事のスタンスで生きてくるところだと思います。
寺井声優になってからもオーディションを沢山受けて、落ちる時は落ちますからね。
――昨今、声優のお仕事が多彩になっているように見受けられますが、お二人は声優とはどういう仕事だと考えていますか?
田中プロデューサーを始めた当初は、声優さんはキャラクターの裏方仕事というイメージがありました。でも今はアニメ自体、日本や海外を問わずファン層が広がっていますし、SNSも発達して配信媒体も発達しています。作品数も多いので、僕たちプロデューサーや監督、そして表に出てきている声優さんたちもより多くの人に届けるためにプロモーションをする必要があると考えています。
色々な価値観はあると思いますが、少なくとも僕たちは声優さんにフロントで頑張ってもらって、プロモーションやキャラクターとして歌ってもらうことはどんどんやっていただきたいですね。
寺井だいたい同じです(笑)。色々なタレントやエンターテイメントに携わる方を見てきた中で、アニメは海外で非常に受け入れられやすいものだと思っています。声優さんが好きで日本語を覚えたという人も多いですし、日本という文化を普及させるために声優がすごく役立っているなというのは、今までにはなかった感覚です。
――最後に、この記事を読む読者に対してメッセージをお願いします。
寺井僕らもこの業界では浅い方なので、そんなに緊張せずに受けてもらえたらと思います。他薦でも気軽に受けてほしいと思っていますし、受かる人って案外他薦の方が多いです。友達と一緒に来ましたっていう子の方がいい場合が普通にあるので、とにかくまずは応募して受けに来てほしいです。
田中サイバーエージェントがアニメをやる、デジタルダブルもプロダクションをやるというのも新しいことなので、新しいもの同士が組み合わさることに共感して、一緒に頑張れる人と一緒にお仕事をしたいと思っています。僕たちは大手の事務所でもなければ、大手のアニメメーカーではないですが、新しい熱量はもっているので!このオーディションはアニメを作る側と出演する側が、一緒になって成長するプロジェクトで、所属後の出先が決定しているというのはすごく大きなアピールポイントだと思っています。
――ありがとうございました。
「スマイルオーディション」のエントリーは、2020年3月27日(金)23:59までとなっています。声優を目指している方は、この機会にぜひ応募してみてはいかがでしょうか。