新たな“選ばれし子どもたち”キャストとして選ばれた、片山福十郎(本宮大輔役)、朝井彩加(井ノ上京役)、山谷祥生(火田伊織役)。
幼少期に『デジモン』を見て育った彼らにとって、新キャストとしてバトンを受け継ぐのは容易ではなかった。とくに朝井は「当初はセリフを最後まで読めなかった」と苦労を口にする。
歴史ある作品に参加するハードルを、3人はどう乗り越えたのだろうか。新生『02』チームが絆を深めるまでの冒険を、片山、朝井、山谷にうかがった。
[取材=ハシビロコ、江崎大/文=ハシビロコ/撮影=小原聡太]

■オーディション結果が気になって仕方なかった
――オーディションで“選ばれし子ども”として選ばれたみなさんですが、役が決まるまでの心境はいかがでしたか?
片山:2018年の10月ごろにオーディションを受けて、結果を知ったのは年末。合否の連絡が来るまでの約2か月間はずっと気になっていました。

山谷:『デジモン』は特別な思い入れがある作品なので、僕も結果が気になって仕方なかったです。僕以外の人が選ばれていたとしたら「誰が選ばれたんだろう」と気になっていたと思います。
朝井:どんな作品でもオーディションの結果は気になりますが、『デジモン』は子どもの頃から見ていた作品だったので、結果を聞くまで頭から離れなかったです。
合格の連絡をもらった2018年の年末から、アフレコをした2019年初夏まで期間が空いていて、その間に顔合わせを兼ねた読み合わせもありました。収録は2日間でしたが、役と向き合った時間はかなり長かったように思います。

――アフレコの雰囲気はいかがでしたか?
片山:読み合わせから時間が少し経っていたこともあり、とても緊張しました。
僕はアフレコ初日にスケジュールの都合で参加できなかったので、一部のシーンは2日目に1人で収録したんです。それでも前日に収録した音声を聞きながら演技できたので、みなさんの声からパワーをもらえました。
朝井:片山さんが一人で不安なんじゃないかと現場に早めに来てくれた生身の(ランズベリー・)アーサーさん(一乗寺賢役)の力も借りて(笑)。

片山:ずっと見守っていてくれたのでとても心強かったです(笑)。アーサー君の収録はもっと後の時間だったのに、「今日はほかにやることがないから」と早めに来てくれて。賢ちゃんらしい優しさを感じました。
朝井:現場でも大輔と賢ちゃんの仲の良さが出ていました。アフレコ中、ずっと2人でイチャイチャしていたんです。
片山:イチャイチャって(笑)。
■キャラクターをつかむための冒険
――本作では『02』から成長した大輔たちが登場します。演技ではどのようなことを心がけましたか?

片山:ものまねになってはいけないと常に意識していました。
『02』を見返してみるとわかるのですが、木内レイコさんが演じていた大輔は声のトーンが低いんです。声を上に向かって出すのではなくて、喉の奥にこもらせて下に置くイメージ。『02』当時の声を大事にしつつ、僕自身が出せる声を模索していきました。

ただ、今回の映画における大輔の魅力は、元気で力強く、そしていい意味でバカであるところ。大輔の第一声で「『02』が来た!」と思わせるような、空気をガラっと変える元気さが求められました。
自分が思っていた以上に「もっと元気でいいよ」とディレクションがあったので、うるさいくらいの声量と熱量で演じています。
朝井:私もどうすればものまねではない演技になるのかは考えました。そもそも当初は作品への思い入れが強すぎて京のセリフを最後まで読めなかったんです。京になりきれていない自分に違和感があって……。
幼少期にTVシリーズは見ていたものの、大人になった私としてもう一度『02』を見なければいけないと思い、オーディションまでに『02』TVシリーズと、関連する劇場版をすべて見返しました。

そうすることで、人には大人になっても変わらない部分があると気づいたんです。声変りはしても、性格や話し方の癖といった本質的な部分はあまり変わらない。『02』を見返して、できるだけ京の癖を探しました。
京が経験した冒険をともにしたからこそ、京としてセリフを口にできるようになったと感じています。
片山:大輔と京は比較的特徴を探しやすいキャラクターだと思いますが、伊織はまた違った難しさがありそう。
山谷:見た目としてのわかりやすい特徴は、たしかにほかのキャラクターに比べると少ないかもしれません。言葉尻の特徴や、パッと出せる明るさや陽気さがあるわけでもない。
伊織君はいつも淡々としていて敬語を使うように厳しくしつけられた子ですが、感情がたかぶるとタメ口が出る瞬間があります。

ですが本作においては冷静なシーンが多くて、キャラクターとしての奥行きを見せるのが難しいとは感じました。
淡々としゃべると暗くなりがちですが、伊織君は暗い性格ではない。あくまでも生真面目なだけなんだと聞き手に伝えなければいけません。
暗さを取り除こうと意識しながら、伊織君と自分の声をすり合わせていきました。
――アフレコ中もすぐそばに『02』で伊織を演じていた浦和めぐみさん(アルマジモン役)がいらっしゃったと思いますが、心境はいかがでしたか?
山谷:実は心強さよりも、申し訳なさのほうが強くて……。アフレコ前に台本の読み合わせ会があり、そこで初めて浦和さんにお会いしました。
でも「当時どんな気持ちで演じていましたか」とは聞けませんし、聞いてはいけない。伊織として選ばれた以上、僕自身が責任を持って取り組むべきことです。
正解を聞くのではなく、先輩方の演技から盗む、という姿勢だったかもしれません。
演技に関して「これでいいんだ」と前向きな気持ちになれたのは、アフレコ終盤だったと思います。
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