■オリジナルアニメに求められる、脚本家の役割とは?
――ここからは具体的に関わった作品についてお聞きしていきたいのですが、脚本家としてアニメに関わったのは『ドラゴンボールZ』が最初ですか?
吉田:TVアニメではそうですね。ただ、それ以前にもアニメのCDドラマは書いたことがありました。
――そこから2000年に入るあたりまでで、特に印象に残っている作品を挙げるならどれですか?
吉田:『おじゃる丸』はオリジナル作品で、企画立ち上げの頃から関わっていたので印象に残っています。一から初めて作るというのが、自分の応募作品やラジオドラマ以外で初めてだったので。
――今では数々のオリジナル作品を手がけられていますが、初めてのオリジナルものの現場はいかがでしたか?
吉田:ゼロからものを作り出すのはこんなに大変なのか、という記憶しかないです(笑)。全てが手探りな状態でしたから。
原案者の犬丸りんさんがシリーズ構成も担当されていたんですが、「そうか、こうやってキャラクターを作って、こう組み合わせてお話を作るのか」と現場で勉強させてもらいました。
――脚本家のスタイルとして、吉田さんは監督やプロデューサーらスタッフと相談を重ねながら脚本を書くタイプですか?
吉田:基本的にはそうですね。まずシナリオライターが何か書かないとみんな何も言えないっていう状態が続いてしまうので、そこで脚本家は最初に走るという辛さがありますけど。
――実際に執筆する際はまず何から書き始めますか? 先にキャラクターを掘り下げたりするのか、頭から物語を書き始めるのか、吉田さん流の手順はありますか。
吉田:オリジナルのときは、まず自分なりのキャッチコピーとタイトル、あとは5行くらいで簡単にストーリーを書いたりします。
――タイトルやストーリーというのはわかりますが、キャッチコピーというのは?
吉田:オリジナルって、原作もないし、ほとんど認知されていない状況からスタートするので、「あ、これ面白そうだな」とまず興味を持ってもらわないと始まらない。そのために「あ、こういう話なんだ!」と一発で内容が的確に伝わるような引きとなるコピーです。
このキャッチコピーは、作品のコンセプトを維持するための柱にもなるかなぁと。小説やマンガのようにひとりで作るものに比べて、アニメはいろんな人が関わることもあり、いろいろ迷子になりやすいので。
■場の空気をリアリティを持って描く方法とは?
――吉田さんはいろんな監督とお仕事をされていますが、監督ごとに仕事のスタイルを変えたりしていますか?
吉田:そこまで変えているつもりはないです。「この現場で自分らしさを発揮するのはどういうところかな?」と考えるくらいでしょうか。それを求められて呼んでいただいているのだと思いますし。
――最新作『きみと、波にのれたら』の湯浅監督は、吉田さんがシリーズ構成を務めた『カスミン』で「一緒にお仕事をして楽しかった」とおしゃっています。
吉田:湯浅監督は“作画タイプの監督”で、つねに映像を思い浮かべられて、「どう表現しようかな?」「こう表現したら面白いかな」とイメージをつくっている。その才能が突出した方だと思います。湯浅監督が描かれるイメージイラストもとてもユニークで魅力的です。
――吉田さんご自身も、脚本を書くとき絵を思い浮かべながら書きますか?
吉田:映像作品の場合、常に絵をイメージして書きます。脚本は家の設計図と一緒で、映像の土台かなと思っています。どういう装飾をするか、どういう色を塗るかも大事ですが、まず設計図がしっかりしてないと家がグラついてしまうのと一緒かなぁと。
――『けいおん!』シリーズや『リズと青い鳥』の山田尚子監督は、「吉田さんのシナリオはその瞬間の匂いや色まで感じさせてくれる」と話されています。脚本には意識的にト書きをたくさん書かれたりしているのでしょうか?
吉田:そういうわけではなく、セリフやト書きの中に、場の空気みたいな、見えないものを書くことを意識しています。
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――場の空気?
吉田:はい。たとえば、こうやって今日初めて会ってお話を聞いていますっていう空気感だと、会話にちょっと間が空いたり、言葉遣いが変わったりしますよね。
そこにいる人々の関係によって、見えない空気が存在しますから、そのニュアンスをうまくセリフやト書きに織り込めたらいいなと。
――たとえば、今このインタビュー現場の空気を吉田さんが書くなら、どんなふうに書きます?
吉田:たとえば、人のクセを入れたり……。「何度も水を飲む」とか「身を乗り出す」とか。関係性によって、その人の行動そのものも変わってくると思うので。あんまり好きじゃない人と話すときだと「目線を外す」とか。
――たしかにそういう所作が添え書きしてあるとリアリティが一気に高まりますよね。吉田さんが日常ものを得意とされている所以な気がします。『ARIA』や『けいおん!』なんて、何も起こってないのになんでこんなにも瑞々しいのかって思うんです。
吉田:「何も起こってない」(笑)。
――すみません! 大きな事件が、というか……。
吉田:いえいえ、みなさん、そうおっしゃいます。
でも私的にはすごいことがいろいろ起こっているんです。そういう気持ちで書いています。
――なるほど……些細な出来事が吉田さんの目にはどんなふうに映っているのか気になります。
吉田:小さな経験や体験でも、当事者にとっては、世界を揺るがすような大きな出来事だ
ったりするところが面白いなぁと思います(笑)。
◆ ◆ ◆
インタビュー後編は、6月28日(金)公開予定!
映画『きみと、波にのれたら』
6月21日(金)全国ロードショー
──────────────────公式サイト:https://kimi-nami.com/ Twitter:https://twitter.com/kiminami_movieInstagram:https://www.instagram.com/kiminami_movie★ハッシュタグ★#きみ波──────────────────◇監督:湯浅政明
◇脚本:吉田玲子
◇音楽:大島ミチル
◇キャラクターデザイン・総作画監督:小島崇史
◇出演:片寄涼太、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
◇主題歌:「Brand New Story」GENERATIONS from EXILE TRIBE(rhythm zone)
◇アニメーション制作:サイエンス SARU
◇配給:東宝
6月21日(金)全国ロードショー
──────────────────公式サイト:https://kimi-nami.com/ Twitter:https://twitter.com/kiminami_movieInstagram:https://www.instagram.com/kiminami_movie★ハッシュタグ★#きみ波──────────────────◇監督:湯浅政明
◇脚本:吉田玲子
◇音楽:大島ミチル
◇キャラクターデザイン・総作画監督:小島崇史
◇出演:片寄涼太、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎
◇主題歌:「Brand New Story」GENERATIONS from EXILE TRIBE(rhythm zone)
◇アニメーション制作:サイエンス SARU
◇配給:東宝
(C)2019「きみと、波にのれたら」製作委員会