そんな本作で、野原しんのすけ役を担当しているのが小林由美子だ。
2018年7月放送分より約10カ月TVアニメシリーズのアフレコに参加し、劇場版は今回が初めてとなる。
長く愛され続ける作品の“顔”ともいえる主人公。彼女は、どのように向き合っているのだろうか――。
[取材・構成=松本まゆげ/撮影=小原聡太]
■しんのすけの声に対する子どものジャッジは「辛口」
――まずは、野原しんのすけに抜擢されてからの役作りを伺いたいです。どのように作り上げていったのでしょうか?
小林
やっぱり歴史がある作品の長く愛されているキャラクターなので、“イメージを壊したくない”ということが一番にありました。
先代の矢島(晶子)さんの声をひたすら聴いて、自分で同じように言ってみて、録音を聴き直してどのくらい違うか確認してもう一度録り直して……という、職人のようなことをしていました(笑)。
――継承するというのは、緻密な作業が必要なんですね。
小林
そうですね。ただ、そうしているとどうしても声にばかり囚われてしまって、芝居として自然な表現ができなくなってしまう。
なので、普段の家にいるときの会話をしんちゃんの声でやってみたりもしました(笑)。
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――日常生活に溶け込ませていると。
小林
子どもにもしんちゃんの声で接するので、戸惑う戸惑う(笑)!
けど、付き合ってくれるし、「お母さん、変なことやってるな」と喜んでくれたので良かったです。
――というと、普段とは違うアプローチで役を作っていったんですね。しかも、少年役を務めることが多い小林さんからするとしんのすけはちょっと違う少年ですし。
小林
そうなんですよね。私は熱血で元気いっぱいの少年役が多いので、それに比べるとしんのすけは淡々ひょうひょうとしていて。
「俺についてこい!」というより「ついてくればぁ?」という感じ。
なので、自分の得意だった部分を消して、ひょうひょうとした部分を意識していました。
そうして、矢島さんから引き継げるところは全部引き継ごうという気持ちです。
――なるほど。すでに自分の中にしんのすけは馴染んでいますか?
小林
いやー! それを言うとまだまだですけども(笑)!
でも、初回から先輩方やスタッフさんが本当に温かく迎えてくれたんですよ。
1回目から「こんなにやりやすくしていただいて良いのか」と思うくらい土台を固めてくださって、私はただ演じるだけでよかったくらいでした。
もちろん緊張したんですけど、しんちゃん愛があるからこそやりやすい環境を整えてくれたんだと思うとすごくありがたかったです。
馴染むかどうかは「時間よ解決してくれ!」という感じなんですけど、みなさんとお芝居したり台本を読んだりするのが、3・4回目くらいから楽しくなったのは確かですね。
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――最初の収録現場では、どんなディレクションを受けましたか?
小林
「もうちょっとマイペースで」とか「のらりくらりして」とか、「語尾の言い方をこんなふうにして」などいろいろあったんですけど、すごくありがたかったのが「あなたのしんちゃんをやってください」と言ってくださったこと。
そこで、「私が思う、みんなに愛されているしんちゃんを演じればいいんだ」という気持ちになって少し緊張がほぐれました。
――そうして、小林さんが演じるしんのすけは2018年7月に放送がはじまりました。家で発していたしんのすけの声がTVから流れることに、お子さんは不思議がっていたのでは?
小林
まだそこまで大きくないので完全にわかっているわけではなく、「半分くらいは理解しているのかな?」という感じです。
面白いことに、やたらと辛口なんです。
この前、私が「(しんのすけの声)どう?」って聞いたら、「うーん、ちょっとしつこいかな~」って返ってきました(笑)。
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――本当に辛口!
小林
私、周りに流されるタイプなので、なるべく周りの評判を聞かずにやっていこうと思っていたんですけど、辛口な子がすぐ隣にいました(笑)。
意見を求めなければ普通に楽しんで観ているんですけどね。
「いつもガミガミ言っているから仕返しされているのかな?」と、ここぞとばかりに言われます(笑)。
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