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「製作委員会方式に並ぶ選択肢がもっとあっていい」ヤオヨロズ福原Pが展望するアニメビジネスの未来像

『けものフレンズ』『ラブ米』を手掛けたアニメ制作スタジオ・ヤオヨロズの福原慶匡プロデューサーにインタビューを敢行。なぜアニメプロデューサーという仕事に注目するのか? その必要性とは? 昨今話題となっている製作委員会方式の是非や

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■アニメビジネスの新たな選択肢「パートナーシップ方式」とは?

――ではスタジオ側が権利を持ち、クリエイターに還元するという理想を実現するにあたって、どういったビジネススキームをお考えなのでしょうか?

福原P
最終的には海外と同じようなワンオーナー制が理想ですが、一足飛びに移行するのは難しいと思います。
実は『ラブ米』では権利を自社のみで運用し何もかも1社でやったのですがとても大変でした。特に宣伝は製作委員会方式であれば関係各社が各々どんどんやるので全体としては大きなものになります。1社のパワーは弱いと実感しました。ヤオヨロズのような中小スタジオがいきなり1社だけで権利を運用しても作品展開を最大化できないという良い例です。
ですので、まずは製作委員会方式とワンオーナー制の間くらいの形、パートナーシップ方式という形態を経るのがいいんじゃないかと考えています。

――それはどういったスキームなのでしょうか?

福原P
スタジオの方でクリエイティブとビジネスの両方を握り、出資では無く作品を二次利用したい会社にライセンスアウト(権利譲渡)する、またはMG(ミニマムギャランティ)をいただく、というのがパートナーシップ方式です。
海外の例で考えれば自然なんですが、仮に「『アベンジャーズ』のフィギュアを作って売りたい」と思った時に、普通ディズニー(権利者)に著作権使用料を払いますよね。ディズニーや作品に出資、とはならないと思います。それと同じです。
音楽なら音楽、ゲームならゲームの会社が作品パートナーとして使用料を払って製品を作り、それぞれ宣伝して製品を売る。売り切っていない権利がスタジオに残る部分以外は、組織的には製作委員会とあまり変わらないものになります。
一方、エンタメにはヒットするかしないか分からないというリスキーな部分があるので、それを補うための方法がプリセールです。現在だとAmazonやNetflixなどの海外配信サービスであれば1話分の制作費を全て払ってくれたりするので、もしそこで契約できれば最低限赤字にはなりません。
ただ、そのためには原作が売れているだとか手掛けているクリエイターが有名だとか、どこか強い部分が必要です。ですので、製作委員会方式で実力と実績が付いたスタジオがパートナーシップ方式でオリジナル企画にチャレンジし、最終的にはワンオーナーにスライド、という過程を経るのが一番かなと今は考えています。スタジオの成長のためにこういった取り組みにトライしていくのもまた、アニメプロデューサーの責務だと思います。

――すでにヤオヨロズから新作『ケムリクサ』が発表されていますが、この作品もパートナーシップ方式を採用されるのでしょうか?

福原P
そのプロトタイプになるように準備を進めています。

■人と人をつなげ、作品を生み出すのがアニメプロデューサー

――福原さんは歌手のマネージャーや芸能プロダクションの代表も経験されております。またお話を伺っているとアニメビジネス特有の困難や苦労も感じますが、それでも「アニメ」に注力されるのは何故なのでしょうか。

福原P
日本が少子化など様々な問題を抱え、車や電気製品などのハード産業が縮小していく一方、和食といった文化も含めたソフトの方ではまだまだできることがあります。そんな中、日本のエンターテインメントの分野で輸出ができるのはアニメぐらいしかありません。今日本人でエンタメをやるなら一番頑張るべきなのがアニメ。それが理由です。
ただ、今の世界的なアニメ人気は、先輩たちが作った素晴らしい作品が海賊版などの不本意な形で発信された結果であり、今の僕らの頑張りによる評価ではありません。先輩たちのおかげで世界的に人気があるうちに、次の成長のために必要なことをまとめないといけません。僕はそれについて学ぶために大学院に進学し、今回の本を書きました。4月からは博士課程に進み、これを研究として続けるつもりです。
今、アニメ産業でやるべきことは新たなビジネスの枠組みを生み出すことですが、そのためには優秀なアニメプロデューサーの力が必要です。クリエイターはすでにさんざん頑張って数多の素晴らしい作品を生み出しているので、やはり今頑張るべきはプロデューサーなんです。

――では、アニメプロデューサーに向いているのはどんな人なんでしょうか? アニメプロデューサーという仕事の醍醐味を、最後に教えてください。

福原P
アニメプロデューサーは、自分自身で絵を描いたりしなくてもアニメという今日本で一番ホットなクリエイティブに関われる仕事です。そして、アニメ作品の最初から最後までをひとりだけ全部知っている人でもあります。
アニメ制作ではいくつものセクションをまたぐので、関わる全員が一緒に働くことはありません。だけど僕だけは、飲み会の打ち上げの席で、アニメーター、撮影スタッフ、声優、音響……全員の名前を言えます。それを全部つないだな、というのが嬉しいですね。人と人をつなぐ仕事だと思います。

――それに魅力を感じる方は、まずは福原さんの本を手に取ってもらいたいですね。本日はありがとうございました。
《いしじまえいわ》
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