海賊版対策協議会のMAGPカウンシラーに西川貴教が就任、1年間海賊版撲滅の啓発を行う【AJ2017】 | アニメ!アニメ!

海賊版対策協議会のMAGPカウンシラーに西川貴教が就任、1年間海賊版撲滅の啓発を行う【AJ2017】

アーティストの西川貴教が「Manga-Anime Guardians Project 2017」のカウンシラーに就任した。その就任式の様子をレポートする。

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アーティストの西川貴教が「Manga-Anime Guardians Project 2017」のカウンシラーに就任した。
3月26日(日)、AnimeJapan 2017でMAGPカウンシラー就任式が行われた。モデレーターをダニー・チュー(MIRAI代表取締役/スマートドールクリエイター)が務め、『君の名は。』でエグゼクティブ・プロデューサーを務めた東宝の古澤佳寛、マンガ・アニメ海賊版対策協議会事務局長で弁護士の桶田大介、そして西川をゲストに迎え、ネットを中心に出回る海賊版対策について意見を交わした。

「Manga-Anime Gurdians Project (MAGP)」は経済産業省支援の下、日本のコミック出版社やアニメ関連企業により構成されるマンガ・アニメ海賊版対策協議会の取り組みで、デジタル海賊版へのさまざまな対策と、世界中のファンへ正規版を届ける仕組み作りを支援する戦略的プロジェクト。

就任式の冒頭では桶田事務局長からMAGPの活動方針や実績が語られた。平成28年度の実績としてはマンガの海賊版ファイルを168万ファイル(全体の約79%)、アニメの海賊版ファイルを72万ファイル(全体の約86%)を削除し、悪質な海賊版サイトの134サイト中、101サイトを閉鎖(内24サイトは一時的)したとのこと。

正規版流通と正規版の普及啓発活動として、MAGPでは3つの方針を打ち立てている。
(1)デジタル戦略WG(ワーキンググループ)の新設と運営
 海外に対するマンガ・アニメの正規コンテンツ流通拡大のための環境整備を目的とした情報・意見交換、共通の取り組みを行っていく。
(2)教育プログラム
 日本国内の小学校高学年、中学生を対象とした著作権教育プログラムを作成して、知識としても正しく学ぶ取り組みをしていく。
(3)広告出稿者・検索エンジン事業者等との協議
 検索エンジンなどで正規版を優先的に表示できるような取り組みを行う。

以上を、”独りよがりにならないよう” さまざまな人々の声を聞きながら推進している。
MAGPの活動説明が終わると、西川氏を招きMAGPカウンシラー就任式が正式に行われた。西川氏は2017年度を通じて、さまざまな場所で啓発活動を行う。西川氏はアニメに詳しいだけではなく、以前にもあにめたまごの前身であるアニメミライ2013で広報大使としても参加した実績をもつ。アニメミライから生まれたTVシリーズ『デスパレード』や『リトルウィッチアカデミア』などに言及しながら、コンテンツに対する愛情や現場に対するバックアップをし、海賊版から守っていきたいと語った。

■トークセッション

続いて西川氏、古澤氏、桶田氏、ダニー氏によるトークセッション。古澤氏は、海賊版を取り締まるだけではなく、アニメファンの「見たい」という純粋な思いに応えるために日本と同時に配信する環境を整えていくことが大事だと語った。また世界でリーチできていない地域に正規品を届ける環境作りと啓蒙を行っていきたいと述べた。

正規品ではなく海賊版が出回っている背景には現地のディストリビューター(流通業者/販売店)が日本の正規ルートを把握していない可能性もある。桶田氏からはJ-LOP(ジェイロップ)が挙げられた。「地域経済活性化に資する放送コンテンツ等海外展開支援事業費補助金(J-LOP)」では、海外翻訳費用、海外イベントの運用費等の金額補助を行っている。利用業者は海外窓口の情報を提供する。国はその情報をまとめてデータベース化する取り組みを行っているという。作品毎の窓口情報が現在揃いはじめており、今後も継続的な更新が行われるとのことだ。

イギリスで生まれ育ったダニー氏は日本のアニメを見始めた子ども時代、市場に出ていた正規品は『超時空要塞マクロス』くらいで、他は海賊版しか置いてなかったとふりかえった。悩ましいのは、海賊版を根絶することが、”見る/知る機会” そのものを失う可能性に繋がるということだ。古澤氏によると『君の名は。』が大ヒットを記録した中国では、新海誠監督の過去作品は非正規品が出回っていたという。しかし、それを見てファンになった人々が今回、劇場に大勢足を運んだ。市場に揃っている非正規品を正規品に入れ替える。品揃えを変えることなく、実行することが今後の課題といえる。古澤氏は “知られないことはないことと同じ” と言う。ここは非常に気をつけなくてはならない点だ。

アニメ・フェスティバル・アジア(AFA)をはじめ数多くのコンベンションにアーティストとして参加し、各国の事情を内側から目撃してきた西川氏は、「クールジャパン政策」に苦言を呈する。実際に出展されているブースを見ていくと、予算を得るために無理やり作っているようなブースにも出会うという。そういった経験から、官僚には ”予算を付けるものに対するリテラシー” をもっと上げてもらえたらいい、と話した。加えて、本当に必要な事業者へ予算が回るようになってほしいと訴えた。

それに対して桶田氏は、官僚も世代交代は進みアニメ文化に親しんでいる人は多いとしつつ、日頃多くの問題を対応し続けている官僚にとって ”分かりやすいもの” が予算になりやすいのだろうと解説した。事業者が抱える問題は多岐に渡るが、単独で立ち向かうのは困難だ。そのテーマに向かうため今年から「デジタル戦略WG」をスタートさせた事を紹介。「対応してもらいたいテーマ」を分かりやすく取りまとめて国に意見を出す活動を行っているという。

海外展開なくして業界の更なる発展はないと話す古澤氏はSVODの発展に関しても言及。AmazonプライムやNetflixでの配信が、今まで届いていなかったアジアの地域にもリーチしている。その中で ”どのプラットフォームが最も効果的に広められるのか” という研究を会社・事業者単位ではなく業界を挙げて取り組んでいきたいと語った。

最後に西川氏から「せっかく作品を届けるなら、クリエイターの皆さんが制作した思いがちゃんと入った、正規のものを手にしていただきたい。そういう応援の手助けになれば、と考えています。単にダメというだけではなく、みなさんの意識の中に『よりいいものを多くの人に届けよう』という気持ちが浸透して、日本のもの作りの思いがまっすぐに世界に伝わっていくようにご協力いただければと思います。よろしくお願いいたします」と挨拶があり、就任式は終了した。

■所感

明確で分かりやすい問題提起を続けていくこと。
海賊版対策だけでなく、国を巻き込んだ事業展開にはその行動のための協力と根気が要される。また西川氏が実感したような、”予算獲得のための施策” を打つ業者ではなく、現実的な困難に直面している事業者が、的確な提案をして予算を獲得できるよう、WGの動向にも引き続き注目したい。
個人単位でできることは何よりも海賊版・悪質なサイトを利用しないことだ。古澤氏も語るようにSVODでアーカイブされた名作へのアクセスも容易となってきている。権利者に還元される仕組みを使う、とことさら意識する必要はないが、海賊版を利用することはクリエイターや作品自体を悲しませることでもある。そのことを理解し、身の回りに利用している人がいれば、それとなく指摘していく。
優れたアーティストであり、アニメ・マンガのよき理解者でもある西川貴教氏のカウンシラー就任にはそういった身の丈感覚の意識を改めて持たせてもらえる意味も込められているのではないだろうか。

AnimeJapan 2017
ビジネスエリア:2017年3月23日(木)~3月24日(金)
メインエリア:2016年3月25日(土)~3月26日(日)
会場:東京ビッグサイト
《細川洋平》
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