『ひるね姫』で描かれる技術は、もう少し現実のものとして、手が届きそうだ。舞台になるのは2020年、東京オリンピック開催目前。私たちの生きる世界のすぐ隣にあるかもしれないような、近未来がリアルに描かれている。
この作品に登場する乗り物・ハーツを見れば、そのことがはっきりとわかる。
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ちょっぴりレトロな、丸みを帯びたデザインが特徴のサイドカー付きバイクであるハーツは、主人公のココネを地元岡山からはるかな大都会へと自動運転(!)で導く、頼りがいのある相棒だ。どことなく『攻殻機動隊』のタチコマを思わせるのもファンにはうれしいところ。
本作で少し先の未来を象徴するのが自動車の自動運転技術。自動運転といえば、現実の世界では目下開発中、その是非をめぐっての議論が専門家のあいだで熱く交わされている最新技術。実は『ひるね姫』の世界でも、ハーツという形で実現してはいるものの、社会の中で広く実用化されているわけではなく、まだまだ議論の余地があって……そのあたりの詳細は本編のストーリーとも密接に関わるところなので、ぜひ劇場に足を運んで確認していただきたいところ。
そうした現実の世界で実現まであと少しの新技術が、自然な形で作品世界に溶け込んでおり、今作に触れることで、現実に議論の一端に触れることができる。こうした現実とフィクションの相互作用は、現実と近すぎても遠すぎてもあまり上手く起こらない。絶妙な間合いが必要だ。
武道の達人ほど、紙一重で相手との距離を見切る。近未来という手強い題材との立ち会いにおいては、「一歩先」の間合いを見極めるのでも、十分に名人芸。それが「半歩先」ともなると、もはや達人の領域だ。『東のエデン』ほど現実に密着していないし、『攻殻機動隊S.A.C.』ほどには先を行ってない。ワクワクする感じと現実感のミックス具合が、これまでの神山作品と似て非なるところにあり、であるがゆえに、ある意味でもっとも神山イズムが「濃い」。
既に実用化されているガジェット類が丁寧に描写されるのもみどころの一つ。多機能を誇るタブレットやモリオがヘッドセット越しのARを使い友達と仮想空間を共有し、そこに浮かぶ様々なネットやSNSの情報をもとに会話するなど、私たちの日常に溶け込み始めた技術が、作品の中でさらりと活躍する。『東のエデン』ではノブレス携帯が活躍したように、『ひるね姫』ではこうしたガジェットがまた観るものの心をくすぐってくるから憎らしい。
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そしてもうひとつ、近未来の世界観を際立たせる、大きな仕掛けがある。テレビCMでもその姿を見せている、巨大ロボット「エンジンヘッド」だ。日本のアニメーションの伝統芸のひとつ、現実にはまず作られることはないであろう、二足歩行型巨大ロボットの大バトル。地に足のついた「半歩」の世界と、荒唐無稽、痛快無比なロボットバトルが対比的に存在することで、お互いの魅力を高め合う。またココネがいつも見る夢の世界で登場し、ハートランド王国を襲う謎の存在として登場する鬼も同様だ。旧態依然としたものへの象徴、揶揄がこうしたロボットや鬼など、そこかしこで登場するのも神山監督作品らしいところ。
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劇中で夢の世界・機械づくりの国ハートランドの姫君エンシェンは、無邪気な魔法使いとしてタブレットを使いこなし、鬼退治に奮闘する。SF作家アーサー・C・クラークの「十分に発達した科学は魔法と区別がつかない」という言葉がある。神山監督は、その言葉を念頭に置きながら、「現代の技術は若い人たちににどういう風に受け止められているだろうと考えながら作った」と語っている。神山イズム――「近未来」の魅力を輝かせるための仕込みは、どこをとっても万全だ。
神山監督の描き出す“すこし先の未来”をお楽しみに、ぜひ劇場へ足を運んでほしい。
映画『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』
3月18日(土)ロードショー
http://hirunehime.jp
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2017 ひるね姫製作委員会