ー本作を作るに当たって特にここは気をつけようとした部分はどういったところだったのでしょうか。
湯山
「あくまでも猫である」というところですね。擬人化されてはいるんだけど、そこから逸脱しないようにと思っていました。猫が字を覚えて知識を得る、それによってできることが増えていく。そこは「猫なのに?」という部分が出るといいなと思っていました。
榊原
ブッチーだけはカンフーをやったりすることがあったので2本足を許しましたけど、彼以外はみんな4本足というところも意識したところですね。
湯山
それから普通だと海外に売り出すことも考えて制作するのですが、この作品は「字を覚える」という設定上、日本語の文字を出さなくてはいけない。あくまで日本の物語ということにしなくては成立しない。字を覚える話なので看板などもちゃんと文字を書かなくてはいけないし、図書室は最たるものです。書架に並ぶ本の背表紙をごまかせない(笑)。こんなにちゃんと字を書いたものはないんじゃないかと思いますよ。
ーキャラクターの成長や変化も非常に丁寧に描かれていました。
湯山
最初に原作小説の1、2巻で1本の映画にしたいというのがあったんです。つまりルドルフが何も知らないところから徐々に世間を知って行く、その感情ラインが嘘のないようキレイに繋がって成長していくという部分を物語の軸に据えて考えていきました。
ーメインはやはりルドルフの感情だったわけですね。
湯山
そうです。そこに四季の移り変わり、要するに時間経過が成長を裏付けていて、と。微妙な変化もなるべく丁寧に追いかけて行こうと考えて作っていきました。
榊原
きっと気づかないと思いますが、物語の後半ではルドルフがイッパイアッテナのために立ち上がるシーンで、ルドルフの周りに自然ではありえない唐草模様のようなものを入れているんです。それはその直前でイッパイアッテナの周囲にもあった模様で、つまりイッパイアッテナの思いをルドルフが受け継いだ、という。
湯山
雲の形が猫になっているというのもありますね。
榊原
そうなんです、だから2度3度見ていただけるとうれしいですね。1回目には気づかないような、画面の端の方にまでいろんな小ネタが入っていますからね。
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■「日本のCGアニメはここまできた」
ーキャストのみなさんの演技も見事にハマっていました。ルドルフを演じる井上真央さん、イッパイアッテナを演じるのはアフレコ初挑戦の鈴木亮平さん。お2人はいかがでしたか?
湯山
キャラクターが少ないしルドルフとイッパイアッテナはほぼ出ずっぱりなので声の演技は重要だろうなと思ってはいたんですけど、井上さんは結構悩みながら何度かトライして役を作り上げて行っていました。鈴木さんはストレートに入ってこられていたのが印象的でした。
ーブッチー役の八嶋智人さんやデビル役の古田新太さんに関してはいかがだったでしょう。
湯山
八嶋さんは「下っ端で小物感を出してやってください」と伝えたら「得意です!」と(笑)。お二人はいろいろとやられているのでさすがの演技でしたね。古田さんの演じるデビルもすごく重要な役だったのですが、見事な演技をしていただきました。
ーそれでは最後にメッセージをお願いします。
榊原
約20年CGをやってきて、やっと作りたかった作品を作ることができました。僕はLAで「トイ・ストーリー」からはじまった、ピクサーやディズニーのCGアニメを目標としてきていただけに、「日本のCGアニメ」と言えるものを作る機会を与えてくれたプロデューサーには感謝をしています。エポックメイキングで歴史的な作品になってくれるといいなと思っています。技術的にも関わってきたハリウッドの映像技術を使って作ることができたことがうれしくて。やってきてよかったなと思っています。
湯山
日本のCGアニメはここまで来ました。これが1つのはじまりになればいいなと思っています。CGだから見に行くというものではないと思うんですけど、大人も子どもも楽しめるような、見る人によっていろんな解釈ができるような作品になったと思うので、ぜひ映画館で見ていただければと思います。別の表現で、そういう映画になっていると思いますので、楽しみにしていてください。
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