■ 豊永真美[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]フランス語に訳されたマンガに与えられる賞の一つ「マンガワ(MANGAWA)賞」については既に2012年に「アニメアニメ」で1回取り上げている。この賞は、フランスの1書店が発案したもので、地域の図書館や学校内図書館を経由して中高生が投票することによって選ばれる。中高生の読書意欲を高めること、中高生と教師や図書館司書などとの距離を縮めることなどが目的で、周囲から教育的効果が高いと理解されたこともあり、2005年の第1回から毎年1回開催され、2016年には第12回を迎えた。賞は少年、少女、青年の3カテゴリーに分かれており、2016年は少年が「聲の形」(大今良時)、少女が「orange」(高野苺)、青年が「さよならソルシエ」(穂積)が受賞した。受賞作に賞品・賞金が贈られるものでもなく、また参加者も特に表彰されるわけではないこの賞がなぜ12回も続いたのか。これは一書店の情熱と、フランスの学校現場が抱える問題解決がうまくマッチしたことが挙げられる。この賞の背景を知ることは、フランスのマンガ市場を理解する一助となるだろう。この賞について2回にわけて紹介する。第1回はマンガワ賞の受賞作品と候補作品について。■ マンガワ賞の作品の選び方マンガワ賞の候補作品は古城で知られるロワール地方の一書店「アンジュ・ブルー」の店主ティエリー・ルケンヌが妻で司書のマリー・ルケンヌと協力して選出している。2016年の場合、2014年9月1日から2015年8月31日までに第一巻がフランスで出版された作品から選ばれており、2016年の候補作は表のとおりだ。「聲の形」のように、日本での評判もよく、フランスでの売れ行きがよい作品もあれば、日本でもあまり知られていない作品もある。現実社会を描いた作品もあれば、ファンタジー作品もある。中国の作品もあり、様々な作品が選ばれているといえそうだ。さらに分類をみると、日本では別冊マーガレットから月刊アクションに連載の場を移した「orange」が少女に分類されるなど、分類についてはフランスの考えもあるようだ。また、フランスで人気のあるのは、虚構の世界を書くものであるが、受賞作は3分野とも現実社会を書いており、(「orange」はパラレルワールドではあるが)、フランスで人気のある作品とは若干傾向が異なっている。マンガにはいろいろな世界を描くものがあるという賞の趣旨を反映しているのかもしれない。フランスを舞台にした「さよならソルシエ」が受賞していることも新しい傾向といえるだろう。フランスを舞台にしたマンガは必ずしもフランスで人気とならなかった。それは、フランス人が感じるものと作品で書かれるフランスに距離感があるからだ。しかし、「さよならソルシエ」で書かれたゴッホ兄弟の話はフランス人にも納得ができるものだったようだ。余談だが、この作品は仏訳タイトルが「2人のゴッホ」となっている。日本で「さよならソルシエ」と書くと、「ソルシエ」という単語からフランスの話であることが推測されるが、フランス語でそのまま「さよならソルシエ」とすると、魔法ファンタジーのようなタイトルとなってしまう。「2人のゴッホ」とすることで、フランス人に作品のイメージを起こさせる秀逸な仏訳となっている。また、受賞作は完結した作品であることも注目される。フランスの図書館では、マンガを所蔵するにあたり、いつ終わるかがわからないというのが懸念材料となっている。特に50巻、100巻と続くシリーズは場所ふさぎとなり、また、人気が落ちてきても新刊を買う必要があるというリスクがある。シリーズが完結している作品は安心して購入することができ、図書館からの「うけ」がよいと考えらえる。■ 出版社には偏り?一方、出版社をみると、フランス側、日本側とも多少偏りがあるのが気になるところだ。フランス側をみると、マンガ大手出版社のKANA、PIKA、KUROKAWA、そして日系のKAZEの作品が入っていない。また日本側をみると集英社のタイトルが入っていない。MANGAWA賞の実施要領をみると、フランスの大手出版社も作品を候補の範囲とすることは同意しているようだ。しかし、個々のタイトルを候補作に入れていくとなると、いろいろな調整があるのかも知れない。特に、人気作品であればあるほど難しいと推測される。この中でフランスの独立系出版社のKi-oonの作品が受賞作を含み3作品入っていることは注目される。独立系のマンガ出版社のKi-oonは日本の作者との距離の近さでも知られることから、このような賞の候補となることの許諾がとりやすいのかもしれない。例えば、今回、少年部門を受賞した「聲の形」の作者の大今良時は2016年にKi-oonが開催する仏人向けのマンガコンクールの審査員となっている。次回はこのマンガワ賞のしくみについてご紹介する。
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