フランスの日本マンガ市場、最新事情第3回  多様化するフランスのマンガ市場 売り方の工夫で「プチ・ヒット」を狙え その2 | アニメ!アニメ!

フランスの日本マンガ市場、最新事情第3回  多様化するフランスのマンガ市場 売り方の工夫で「プチ・ヒット」を狙え その2

[豊永真美]■ 注目を浴びた「聲の形」と「有害都市」■ 子ども向け市場を開拓する■ 谷口ジロー作品はバンド・デシネのような扱い

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■ 豊永真美
[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]

2万部以上のプチ・ヒットを狙うことはフランスの出版社にとって手堅い戦略だ。ここでは日本の人気の度合いにあまり頼らず、フランス人向けにマーケティングを行い成功した事例を紹介する。(2万部以上のタイトルについては前回の図(初版2万部以上のタイトル一覧(2015年)を参照のこと:下記掲載)

■ 注目を浴びた「聲の形」と「有害都市」

マンガ出版社Ki-oonの創業社長であるアメッド・アニュは自身でマンガ出版社を起業した郊外出身のアフリカ系フランス人として注目を常に浴びている。2015年はパリの二つのテロの犯人が、フランスの郊外出身者だったこともあり、郊外出身者にも成功者がおり、差別してはいけないという文脈の中でとりわけ注目を浴びたようだ。

Ki-oonでは特に二つのタイトルが注目を浴びた。「聲の形」と筒井哲也の「有害都市」だ。「聲の形」は2015年1月にフランス語訳の第1巻が刊行され、全7巻のうち5巻、合計13万1千部が発行された。
「聲の形」は聴覚障碍者のいじめ問題を扱った作品である。フランスで人気のあるマンガは少年ジャンプに掲載されるような、冒険ファンタジーもので、次に人気があるのがKi-oonが得意とする青年向けダークファンタジーものである。日本の現実生活に即した、青春ドラマは少女マンガ「NANA」のような例外はあるものの、概して大きな成果を上げてこなかった。
この背景には、通常の学園生活は日本とフランスで差が大きすぎ、フランスの読者が共感できないことがある。例えば、フランスでは部活にあたる活動はほとんどない。思春期の男女の付き合いは日本よりオープンだ。

こうした背景の違いから、日常を描いたマンガは翻訳されはするもののヒットには結びついていない。「君に届け」、「アオハライド」などは日本の人気に遠くおよばない。それでも「NANA」がある程度ヒットしたのは、恵まれてない境遇にあるヒロイン像がフランスでリアリティを感じられるものだったからだ。「聲の形」が受け入れられたのも、障碍者へのいじめというテーマが普遍的な問題だったことが大きいだろう。
さらに、「聲の形」が全7巻で終了ということも大きかったのではないかと筆者は考える。日本のコミックは長く続くものが多いが、フランスから見ると、いつ終了するかわからないということは不安もある。7巻で終了するということが分かって翻訳出版をする場合、マーケティングの計画もより詳細に立てられる。

同じKi-oonからは「有害都市」全2巻が合計で5万部出版された。Ki-oon は作者の筒井哲也のエージェントでもあり、本作品は日本より早くフランスで単行本化された。言論の自由をテーマに扱ったこの作品は、2015年1月にシャルリ・エブドが襲撃され、言論の自由とは何かが人々の関心を集めたこともあり話題となった。2015年のフランスのACBDの「アジア賞(アジア発の作品に贈られる賞)」を受賞している。

■ 子ども向け市場を開拓する

フランスでは日本以上にマンガは子どものものというイメージがあるが、実際のマンガはあまり子ども向けではない。しかし、少子化を克服したフランスでは、日本以上に子ども向け市場は拡大している。こうした子ども向け市場を狙って、低年齢向け作品を投入し、成功する事例も出てきた。子ども向けとしてヒットしたのがこなみかなたの「チーズスイートホーム」で2015年では最終12巻の初版部数が42,500部と「暗殺教室」や「七つの大罪」より多い部数が刷られている。2015年は「チーズスイートホーム」の大型本が21,000部、作者がおなじ「ふくふくにゃーん」も20,000部刷られている。子ども向け市場の底堅さを物語っている。

■ 谷口ジロー作品はバンド・デシネのような扱い

谷口ジローの作品は毎年堅調に売れている。2014年はルーブル美術館より出版された「千年の翼、百年の夢」が4万部発行されたが、2015年は「とも路」がRue de Sevresより出版され、初版は35,000部刷られている。Rue de Sevresは子ども向け出版物を出すl'ecole des loisirs 社の大人向けバンド・デシネのレーベルである。欧州の作家と同じ扱いで出版されていることが特徴である。
谷口作品の多くは欧州の通常出版物と同じように左開きとなっている。芸術性の高さが評価されている谷口ジロー作品はバンド・デシネのような扱いとなっており、通常のマンガの読者とは異なる根強いファンがいるようだ。  

[アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.bizより転載]
《豊永真美@アニメ!アニメ!ビズ/www.animeanime.biz》
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