―― そうした指示が言わば「3D監督」の仕事だと思いますが、端的にどんなことをされるのでしょう。
柳野
3D監督と言ってもそれぞれの作品であったり、同じ社内でもやってる内容がまったく違います。自分の場合は、基本的にまず3Dのワークフローの設計から始めて、それを社内と外の会社、今回は(アニメーション制作の)アクタスさんであったり、協力会社さんであったり、そういったところとどう連携するのかを考えます。今回の『ガールズ&パンツァー』は2Dアニメと3Dアニメが融合している作品なので、「2Dアニメのワークフローありきの流れに3Dをどう落とし込むか」というところが大事ですね。
あとはその中から枝分かれして、戦車をつくるにはどういうフローでやっていくかとか、エフェクトはどうするとか、キャラクターはどうするとか、背景はどうするとか、アニメーションのカットをつくるにはどうするとか、それぞれ大まかな線引きをしています。モデリングのほうは専門のスタッフのほうにある程度お任せして、上がりを更に詰める感じですね。
―― 作業量が膨大ですね。柳野さんご自身も現場に下りて直接やることが多いのでしょうか。
柳野
実際、現場もやらないと回っていかないので(笑)。大まかに言うと自分でカットをつくりますし、戦車のリグ(※3DCGの骨組み)も自分ひとりで入れてます。あとはそれぞれ上がってきたものに対して使いやすくなるように……たとえばエフェクトだったらフューム(※FumeFX:炎、煙、爆発のプラグイン)を今回大量に使っているんですが、それを使えないスタッフにも使いやすくなるように落とし込むとか、そうした作業の効率化ですね。
ほかには全体的なレイアウトと、アニメーションのチェック・監修ですね。言ってたら本当にキリがありません(笑)。
■ 人知れず取り組んだ戦車づくり
―― 戦車のリグは普通と違う特殊なつくりだとお聞きしたのですが、3DCGツール(Autodesk 3ds Max等)を使用する上で苦労や注意されたところはありますか。
柳野
実は始まる前に時間をみつけて勝手につくってたんですよね。そうでもしないと、リグはこうやりますと言ったところで、ないものに関して理解してもらえない部分もありましたから。
最初、戦車というので物理シミュレーションを試したんですが、これも難しいところがありました。履帯の動きやサスペンションの動きが自動化すればいいのかというと、そうじゃないと。要はそのアニメーションのレイアウトとモーションを一コマ単位で全部修正して、つけていくわけですから、そのためにはやっぱり全部手付けでコントロールができないといけないんですね。
それで基本的には手付けベースで、そのプラスアルファとしてそうした自動化されたものが乗せられるように設計で組んでました。
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Autodesk 3ds Maxの操作画面
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Autodesk 3ds Maxの操作画面
―― 戦車を丁寧に描くこと自体が、これまでのCGアニメにあまりないですよね。
柳野
そうですね。たとえば履帯の中に起動輪というものがあるんですけど、そのギアが肉抜きされた履帯を噛んでグルグル回るという表現一つも、わりといままでの3Dアニメではやってないはずなんですよ。それをTVベースの制作でやるということで、どのスタッフがやっても絶対にそこから外れない仕上がりにできる。単純なヘルパーをつけて「はい、やれ!」というのは簡単なんですが、アニメーターの負担が膨大になってしまい、絵としてのバランスが全部崩れてクオリティがバラバラになってしまう。それをある程度平均化するためには、入り口の段階にあたるリグで詰めておかないといけないんですね。
―― それが何カ所ぐらいあるんですか。
柳野
1輌に何カ所と言われても、数えたことがないくらい(笑)。だから見た目的にはコントロールできる場所が少なく見えるように表に出してあるのは極力減らし、裏にはいっぱい骨組みが入ったり、細かなヘルパーにスクリプトを突っ込んだのがうじゃうじゃと入ったりして、逆に誰がみてもわからないようなものになっています。上からみるとスーッと優雅に進む白鳥のようですが、水の下ではバチャバチャやってるというアレです(笑)。
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【後編につづく】
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1979年、東京都生まれ。演出家。株式会社グラフィニカ3DCG部所属。『ガールズ&パンツァー』(2012)並びに『ガールズ&パンツァー 劇場版』(2015)で3D監督を務める。主な参加作品に『ブラスレイター』(2008)、『ストライクウィッチーズ2』(2010)、PSP『戦場のヴァルキュリア3』(2011)、『劇場版マクロスF 恋離飛翼~サヨナラノツバサ~』(2011)、『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)などがある。
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