藤津亮太のアニメの門V 第5回アニメとTV・配信の関係から見える「変化の予兆」 | アニメ!アニメ!

藤津亮太のアニメの門V 第5回アニメとTV・配信の関係から見える「変化の予兆」

藤津亮太さんの連載「アニメの門V」第5回目は2015年におけるアニメの「変化の予兆」を説く。アニメとTV・配信の関係から「2016年クライシス」へ。毎月第1金曜日に更新。

連載
注目記事
2015年は「変化の予兆」の年だった。数年前からさまざまなところで起きてきた一見無関係に見える変化が、実は一体の出来事であることが今年ははっきりと見えてきたのだ。

ここ数年、イベント上映されるOVAが増えている。現状では固定ファンの見込める有名タイトルが中心で、クオリティ的には「TV以上映画未満」が想定されている(もちろんその振り幅は作品ごとにまちまちだが)。
この背景には2つのトピックが読み取れる。ひとつは「TVアニメの制作環境の厳しさ」であり、もうひとつは「アニメのTV離れ」だ。

まず制作環境について。
連載3回目でも触れたが、2014年の放送タイトル数は322本で、過去最高の制作本数だった。おそらく2015年もこれとそう大差のないタイトル数になるだろう。しかし、制作現場に十分な余裕はない。しかも求められるクオリティはどんどん高くなっている。

たとえば取材などでは、人材不足(ちゃんと描ける原画マンが少ない)を作画監督クラスの頑張りが支えているという話はしばしば出てくる。またスケジュールの遅れは常態化しており、コンテ撮でアフレコを行うのはもう驚くようなことでないし、最終的な納品状況も10年前より悪くなっていると聞く。
JAniCA(日本アニメーター・演出協会)が10月から「作画スケジュール実態調査2015」(http://www.janica.jp/survey/survey_schedule2.html)を始めたのも、こうした状況に危機感を感じているからだろう。

こういうギリギリのところで“TVアニメ制作戦線”は保たれている。1年ほど前から「2016年クライシス」という言葉も囁かれているが、これは来年あたりついに制作現場がキャパオーバーになるのではという危機感を表した言葉だ。今年とみに見かけた、TVシリーズの間に差し挟まれる「総集編」「特番」に「2016年クライシス」の影を感じたファンも少なくないはずだ。

これがOVAとなればスケジュール的にも予算的にも「TV以上映画未満」なので、根本的な解決ではないが、対処療法「よりまし」な環境ではある。であればTVでは物足りないファンでも納得できるクオリティーも出しやすくなる。
また流通という面から考えると、知名度が十分あればTV放送しなくても、ファンに作品がしっかり届く、というのは大きな意味を持つ。

TVは国内メディアの中で「ばらまく力」が一番強い。だから作品を知ってもらうには、TVで流すのが一番効率がよい。東名阪の3地域で放送するだけで、全世帯数の約5割をカバーすることができるのだ。ただこれには制作費だけでなく、番組を放送するための電波料も必要になる。もしTV放送よりも低いコストで作品を周知することができたら、ぐっとビジネスの確実性は増す。そもそもファースト・ウィンドが無料放送というのはビジネス的にはかなり難しい要素を孕んでいる。
だから、OVAのイベント上映は、電波料とイベント上映のための費用を比較した時、どちらが費用対効果が大きいか、ということも考えた上で選択されているのである。

こうして考えると、アニメの制作環境と流通の状況を変える一つの方策として、TVとの関係をどう見直していくのか、というポイントが浮上してくる。
ここで思い出すのは、2015年9月から日本でもサービス開始したNetflixの存在だ。『シドニアの騎士』は、日本でのサービスインに先だって、昨年夏から北米・中南米・ヨーロッパの各国のNetflixで配信された。TVでは放送するのにお金を払う必要があるが、こちらは作品の配信権を売っているはずだから、日本でTV放送するよりも大きなビジネスになっているのではないだろうか。

また、Netflixや2014年に日本テレビ傘下となったHuluはオリジナルコンテンツにも力を入れている。どちらもアニメの配信にも力を入れているから、今後はオリジナルアニメも登場するかもしれない。しかも配信であれば、毎週放送という縛りに囚われないリリーススタイルも可能だ。

これらのSVOD(定額制動画配信)サービスがTVの後釜になるかどうかは未知数ではある。ただ、これらのサービスはTV画面でも楽しむことができることに加えレコメンド機能もある。だから、遠くない将来SVODは、自分で編成したアニメだけでなく、好きそうな新作アニメを織り交ぜながら番組を流し続ける「自分だけのアニメ専門チャンネル」のような使い方へと進化することは十分考えられる。そうなると、配信が苦手だった「ばらまく力」も十分備えることになる。

その時、TV放送とパッケージ販売を軸とした、ここ20年ほどの間に主流だったアニメのビジネスモデルが終わることになる。そして現状の「2016年クライシス」を控えた制作環境は、そうした変化を求めていく大きな原動力たり得る。
「2016年クライシス」と「放送・配信メディアの未来」はそのように絡み合っているのだ。2015年は、それが誰にもわかるようにはっきりと示された年だった。そこで示された予兆は果たしてどのような変革の時へと結びついていくのだろうか。

[藤津 亮太(ふじつ・りょうた)]
1968年生まれ。静岡県出身。アニメ評論家。主な著書に『「アニメ評論家」宣言』、『チャンネルはいつもアニメ
ゼロ年代アニメ時評』がある。各種カルチャーセンターでアニメの講座を担当するほか、毎月第一金曜に「アニメの門チャンネル」(http://ch.nicovideo.jp/animenomon)で生配信を行っている。
《藤津亮太》
【注目の記事】[PR]

編集部おすすめの記事

特集