高瀬司(Merca)のアニメ時評宣言 第1回 「のんのんびより」と「シンデレラガールズ」を数える
高瀬司さんの新連載。様々なアニメを取り上げて、バッサバッサ論評します。毎月第3金曜日連載予定。宜しくお願いいたします。
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これはそこでも触れたことだが、しばしば観ていてまったりするアニメとして語られる『ひだまりスケッチ』はしかし、そのショット数だけを見れば400ショット超えは当たり前、エピソードによっては450ショットすら裕に超えるという、ロボットバトルもの以上に目まぐるしく画面が切り替わりつづける慌ただしい作品であるにもかかわらず、のんびりとしたアニメだと誤認させてしまう詐術的演出に彩られている。同様に、『ひだまりスケッチ×☆☆☆』(2010)のシリーズディレクターだった石倉賢一が監督を務めた、『きらら』系マンガ原作アニメ『桜Trick』(2014)の平均ショット数も、400近い数字を叩きだしていたことは記憶に新しい。
このことが意味するとおり、ショット数は、真っ先に関連性を思い浮かべそうな視聴時の体感速度と直結するものではなく、ゆえに当時は仮説として、視覚的なリズムを形成するもの、いわば音楽におけるBPMに類するパラメータである可能性を示唆するにとどめてもいた(たとえばショット数が少ないにもかかわらず速いと感じさせる『GA』とは、さながら「速いパッセージを多用するバラード」のようなものだと見なしたわけだ)。
また『ひだまり』シリーズとは対照的に、当時言及した作品に限っても、松尾衡監督作『紅』(2008)や山本寛監督作『かんなぎ』(2008)など、意欲的ないし意識の高い監督のコンテ回のなかには、ショット数200を切るものがまれに存在する。ここまで極端になると、もはやショットなどの表現装置の側に注目しないことのほうがむずかしいであろう、いわゆる作家性の強烈な作品となるが、もっと穏やかな構成でありながら、時に思わずショットそのものの存在に意識を奪われてしまう作品というものも存在するだろう。
現在放映中のアニメでいえば、川面真也監督の手がける『のんのんびより』シリーズはまさにそのような作品である。
とはいえ、『のんのんびより』の監督コンテ回においてはこれまでの例のように、そのショット数に特徴を見出だせるとは言いがたい。確かに第1期第1話「転校生が来た」は230ショット前後とかなり少なくはあるが、『のんのんびより』はそもそもアベレージが少なく、ほかにも250ショットを下回るだろうエピソードが複数あったようにも見受けられるからだ。だがその他方で、こと監督コンテ回においては、ショットが写し取るものの内実に特徴が見出だせるように思う。
たとえば第1期第1話のアバンタイトルを思い出そう。劇伴に重なる主人公・宮内れんげの吹く縦笛の音色をバックに2分30秒間、一切のセリフがないまま、フィックスでとらえられた田舎の光景が23ショットつづくあの挑戦的な演出。あるいは現在放映中の第2期『のんのんびより りぴーと』第1話「一年生になった」は第1期第1話の前日譚であるが、新タイトルどおりまるで1期をリピートするかのように、今度は入学式の開始から校歌斉唱をバックに約3分間、カメラは一切メインキャラクターへと視線を向けることがないまま、フィックスでとらえられた田舎の光景が31ショット持続することになる。
いま、その人物のいない風景という要素から、小津安二郎のフィルムに向けられた、ドナルド・リチーやデヴィッド・ボードウェルらによる議論を参照する必要はない。ここでうながしたいのは、具体的に風景をとらえるショットの数や時間の比率を示す具体的な数字の勘定にこだわりつづけてみることである【※注2】。
リピートという点では、川面監督コンテ回となる第1期第4話「夏休みがはじまった」と第2期第4話「てるてるぼうずを作った」でもそれぞれ、「川でカニ/田んぼでカブトエビ」をつかまえているシーンから開始されもすれば、れんげが「ねこじゃらしの歌/カエルの足の歌」を歌うという対比に気づくだろう。
あるいは第1期第4話における、夏休みに出会った同学年の女の子・ほのかが父親の急な都合で帰ってしまったことを知ったれんげが、立ち尽くしたまま、自分の悲しみを自覚し泣き出すまでの、約1分間にもわたりゆっくりとズームしていく1ショット【※注3】。そうして第2期における第4話のBパートでは、雨が降りしきるなか、カブトエビのお墓の前に無言でたたずむれんげの後ろ姿を約30秒間とらえつづけるフィックスショットが描かれることになる【※注4】。そしてこれらの忘れえぬショットは、キャラクターへの寄り添いをうながすとともに、カメラそのものを前景化させはじめる(そもそも第1期第4話はカメラをめぐるエピソードでもあっただろう)。