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舞台「東京喰種トーキョーグール」 はエピソードを凝縮、濃密さを強調した作品

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舞台「東京喰種トーキョーグール」 はエピソードを凝縮、濃密さを強調した作品
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■ 人間としての理性と喰種としての”本能”の狭間で揺れる金木、小越が振り切った演技で熱演

グレーを基調にした舞台セット。物語のダークな世界を醸し出す。プロローグは主人公・金木研の幼い頃のシーン。両親を早くに亡くし、孤独で1人ぽっちだったことを印象的に観客に提示。しかし読書で、己の世界・居場所を作っていた。大学に入るが、同級生には幼なじみの永近栄良がいた。明るい性格の栄良金木にとってはありがたい存在だ。
よく行く喫茶店・あんていくには、コーヒーを飲みながら本を読んでいる女性が頻繁に訪れていた。名前は利世、彼女が気になる金木、ある日、声をかけられ、外で会うことになった。ところが、利世は喰種だった。彼女に襲われたが、その瞬間、鉄骨が落下し利世は絶命、救急車で搬送された2人、金木は利世の臓器を移植され、一命を取り留める。

普通の、ちょっと奥手で引っ込み思案な金木が利世の臓器を移植されたことで半喰種化する。苦悩と戸惑い、恐怖、その変化を大きな振り幅で小越が熱演。
プロジェクションマッピングを多用し、様々なことを映像に語らせる。単なる背景だけでなく、喰種の特徴的なシーン、補食や赫子の場面は衝撃的ではあるが、時にはそこにいるキャラクター達の深層をもあぶり出して見せる。

喰種は人を喰うことでしか命を繋げない。そんな喰種を駆逐しようとする集団。”人を喰う=悪”という単純明快な図式、喰種は見た目は人間だが、最大の天敵である。人間中心の社会にあって喰種は異端であり、忌み嫌われる存在、敵意をむき出しにして執拗に追う亜門鋼太朗たち。彼らの正義は喰種を撲滅すること、彼らにとっては絶対的命題だ。
物語を彩るキャラクター、蓮示やウタ、なにやら訳ありな様子、薫香は複雑な感情をにじませ、時には金木に対して”爆発”、根底の切ない感情を舞台経験豊富な田畑が好演。

ファンタジーでありながらも登場人物たちが持つ負の感情は誰しもが持っているもの。「自分たちは喰種なのだ」という事実は彼らを苦しめる。金木は半喰種になり、人間の世界にも喰種の世界にも居場所がないと叫ぶ。
しかし、あんていくのマスター・芳村が「(君は)喰種の世界にも人間の世界にも居場所がある」と諭す。捉え方によってポシティヴにもなる。その言葉に金木は救われる。そして金木は”成長”するのである。

重い、深いテーマ性を持った作品、エピソードはほとんどはしょられていない。長い物語なので、ほんの”さわり”の部分を舞台化しているが、その分、濃密な表現をしている。
人間としての理性と喰種としての”本能”の狭間で揺れる金木、その時には彼の身体の一部と化した利世が現れて「食べれば楽になる」等とそそのかす。もちろん、コミックにはこのような表現は出てこない。ここは極めて演劇的だ。そこに映像をかけ合わせたりする。アナログな手法とハイテクな手法の融合である。こういった表現は技術の進歩で可能になった点だろう。

また、登場するキャラクターの感情や存在感も、原作よりはっきりと提示。ライブ、生身の人間がキャラクターを体現しているからこそ、の凝縮された見せ方をしている。
ドラマ性をはっきりと出し、『東京喰種』の世界がライブで目の前で展開、出来る限りの方法で観客に提示する。舞台表現としては極めて意欲的だ。

ラストはあんていくでコーヒーを入れる金木と芳村、穏やかなシーンだが、その後の物語を原作で把握していれば、それはいっときの静けさにしか過ぎないのは先刻承知だ。
しかし、一瞬でも安らぎを得る金木。そんなささやかな”平和”は愛おしい。設定自体はあり得ないが、その根底に流れるものは普遍的だ。
《高浩美》
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