オシャレな雰囲気、まるで映画のよう マンガ家・オノ・ナツメが伝える「無言のページ」 | アニメ!アニメ!

オシャレな雰囲気、まるで映画のよう マンガ家・オノ・ナツメが伝える「無言のページ」

レビュー

オノ・ナツメは2003年に『LA QUINTA CAMERA』でデビュー、2005年からはイタリアのリストランテを舞台にした群像劇『リストランテ・パラディーゾ』を発表し、老眼鏡紳士という新ジャンルを開拓。2009年にTVアニメも放送されたことで、オノ・ナツメの名は外国を舞台に軽妙で洒落た雰囲気の漂う作品を描く作家というイメージでその名は広まった。

それだけにとどまらず、『さらい屋 五葉』では時代劇を描いている。気弱だが剣の腕は立つ浪人・政は、偶然出会った遊び人風の男・弥一の用心棒を引き受けることに。
しかし弥一は拐かしを生業とする賊「五葉」の頭だった。最初は仕方なく手伝っていた政だが、次第に個性的な面々に惹かれていき、そして五葉の面々もまた政が加わることで変化していく。2010年にノイタミナでTVアニメも放送され、ここでさらに知名度を上げた。

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また、「ヒバナ」で連載中、WOWOWプライムで実写ドラマ、連続ドラマW化が放送予定の『ふたがしら』も江戸を舞台に活劇を描いている。『ふたがしら』の主人公である弁蔵と宗次は『さらい屋 五葉』にも登場し、五葉の物語は『ふたがしら』の後日譚としても楽しめる。
このほかにも、『ACCA13区監察課』では架空の国の統一組織ACCAを舞台に陰謀を暴き出す、いわゆる刑事ドラマを「ビッグガンガン」に連載中だ。リアルな頭身で描くこともあれば、『not simple』のように一見コミカルな3頭身のキャラクターを使って不条理で胸が苦しくなるようなドラマを描くこともある。

描き方も、描く物語も幅広く、しかもどれを見てもひと目で「ああ、これはオノ・ナツメの漫画だ」とわかる。その理由は独特の絵柄にもあるが、全作品を通して存在感を放つ“無言の時間”にあるのだ。

オノ・ナツメのどの作品を読んでも、コマの中に描かれる“間”をとても大切にしている。フキダシの中で語られることはあくまで表向き、物語を運ぶためのセリフ。根底に流れる、キャラクターの感情や話の根底にあるもの、さらには日常にある動きの音も、そのほとんどが無音で表現されている。

たとえば『ふたがしら』第一集。赤目一味の頭目の死の間際、弁蔵と宗次は頭目に「一味のこと、まかせた」と言われるが、あらかじめ残されていた遺言状により弟分の甚三郎が新たな頭目となる。これに納得のいかない弁蔵と宗次が赤目を抜ける場面は、静けさで全てを物語った場面だ。
姐さんの「文句のある奴は出ていきな」というセリフ以降は、「去るか残るか。どうするんだい?」という次のセリフまでまる1ページ、オノマトペもなく、動きを表す効果線も排除され、無音が続く。

その間描かれるのは緊張した面持ちの手下たち、顔を動かさず目だけでそれを見渡す姐さん。ごくりと息を飲む音が聞こえてきそうだが、このセリフ以外は静寂を印象づけている。続けていえば、このあと弁蔵と宗次が立ち上がり部屋から去る間も静かなまま。だからといって読者は物語ただ眺めるだけにはならない。どよめきや息を飲む音、畳の上を歩く音、衣擦れ音も、その場にいるようにありありと感じることになる。映画を見ていて、スクリーンの向こうに自分も存在しているような感覚になる。

江戸でも、イタリアのリストランテでも、その場の情景をより伝えたり登場人物の内面を細かく伝えようとすれば言葉数や音は多く、大きくなる。モノローグや描く線が増え、画面から静けさは失せていく。同時に、そこで何が起きているのか、語られようとしているのか、どんなドラマが繰り広げられているのかは伝わりやすくなる。
ところが、オノ・ナツメ作品を支えている独特の空気感、つまり無言の時間はこれをたやすく乗り越えていく。静けさを保ったまま豊かに読者に伝えることができるのがオノ・ナツメという作家の力だ。 「オシャレな雰囲気の漫画」「外国映画を見ているよう」と感じるのはその産物。手元にコミックがある人も、未読の人も、オノ・ナツメ漫画のページを開いたならぜひ「無言のページ」こそ、時間をかけて見てほしい。
[川俣綾加]

[オノ・ナツメの映像化作品に注目]

■ アニメ『さらい屋五葉』
6月12日(金)深夜1:00 全12話 一挙放送(第1話無料放送)

■ 連続ドラマW「ふたがしら」(全5話)
6月13日(土)夜10:00 スタート(第1話無料放送)

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《川俣綾加》
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