「アドルフに告ぐ」手塚治虫の伝えたかったことを提示、シンプル故に深淵なテーマが光る | アニメ!アニメ!

「アドルフに告ぐ」手塚治虫の伝えたかったことを提示、シンプル故に深淵なテーマが光る

高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義 ■ 「遠くの国での出来事も他人事ではなく、我々が抱えねばならない大事な問題です」(栗山民也)

連載・コラム
連載第123回
高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義  
[取材・構成: 高浩美]

■ 「遠くの国での出来事も他人事ではなく、我々が抱えねばならない大事な問題です」(栗山民也)

戦後70年、この節目の年に手塚の問題作『アドルフに告ぐ』が上演される。この作品は1983年~1985年まで『週刊文春』に連載された。手塚治虫が漫画誌ではない一般週刊誌に連載したのはこれが初だった。

第二次世界大戦前後のドイツ、ナチス興亡の時代を背景に”アドルフ”というファーストネームを持つ3人の男性が登場、”ヒトラーがユダヤ人の血を引く”という機密文書を巡って2人のアドルフ少年の友情と人生が大きな歴史のうねりに翻弄され、彼らに関わる人々の数奇な運命を描いている。
ベルリンオリンピック、ゾルゲ事件、第二次世界大戦、ドイツの敗退、日本の無条件降伏、イスラエル建国等、物語の人物たちは、こういった歴史的事件に関わる。史実と虚構が入り交じり、人間関係等を緻密に設定した手塚治虫後期の傑作と評されている。

今回の舞台演出は栗山民也。『火の鳥』(1994年、2008年)『ブッダ』(1998年、2013年)等手塚作品を数多く手掛けている。手塚作品に関して栗山民也は「手塚治虫さんのどの作品にも、“この世に不必要な人間など、誰ひとりいない”という手塚さんご本人の思想が織り込まれていて、そこに生きる物に対する熱い感情が感じられます。どんなに小さな生き物でも、ほんのちょっとした登場人物でも、必ずていねいに救い上げています。手塚さんが生み出したそんな生き物の物語は、だからこそいまの時代に強く響き合い、強い共感を感じることが出来るのでしょう。目線を一番低いところに置いて、小さな虫から見た世界を、手塚さんは描き続けました。虫というのはつまり民衆のことで、権力を見上げながら、確固たる意志を持って問題提起しているのです」と語る。

そして、『アドルフに告ぐ』に関しては「日本とドイツを往還するこの『アドルフに告ぐ』という物語は、人間の正気と狂気のありのままの姿を描いています。遠くの国での出来事も他人事ではなく、我々が抱えねばならない大事な問題です。日本人全体に歴史の記憶を決して忘れることなく、向かい合うことの意味を、手塚さんはわたしたちに語りかけているのでしょう。手塚さんが描いたこの物語の中から、『世界があって、そのそれぞれの国に多様な価値観があるということを認め合うことこそ、一番健康な世界のあり方なんだ』という言葉が、思い浮かんでくる気がします。作品の全体を通して、そういうことが手渡せたらいいなって思っています」とコメントしている。

昨年に引き続き、手塚作品の舞台化が増えているのは、こういった作者のメッセージがどんな時代になっても色褪せない普遍性があるからに他ならない。とりわけ、今年は戦後70年、こういった年に上演される、この『アドルフに告ぐ』は大きな意味を持って観客に語りかけてくれることだろう。
《高浩美》
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