連載第120回高浩美の アニメ×ステージ&ミュージカル談義 [取材・構成: 高浩美]■ 超長寿のマンガ連載、映画、ミュージカルと長年に渡って多角的に展開し、世界中で知られるようになった元気少女アニー誰もが知っているミュージカル『アニー』は1924年、新聞『ニューヨーク・デイリー・ニュース』で連載されたマンガ『小さな孤児アニー(ザ・リトル・オーファン・アニー)』が原作。作家はハロルド・グレイ(1894~1968)。ハロルドはシドニー・スミスの新聞マンガ『ガンブー一家』を手伝った後にこのマンガを描き、多くの新聞雑誌に配給されたのである。1930年にはラジオドラマが始まり、1932年にはトーキー映画『Little Orphan Annie』が公開されている。つまり、この時代の人気キャラクターだった訳である。連載自体はグレイは1924年から死去するまでおよそ45年間休むことなく描き続け、亡くなってからは5人の作家が連載を引き継いだ。70年代初頭に作詞家マーティン・チャーニンがこの作品に注目し、ミュージカル化を決意した。1977年にブロードウェイで初演され大ヒットを記録し、およそ6年間ロングラン、トニー賞では作品賞を始め7部門を独占したのである。また、ミュージカル『アニー』は近年では2012年にリバイバル上演されている。これだけの長寿コミック、ミュージカルや映画では出てこないエピソードも多く、いろいろな事件が起こるようである。また、ミュージカル等では語りきれないキャラクターの背景も描かれている。例えばアニーを引き取る大富豪・ウォーバックス氏は1894年生まれで父親はすぐに亡くなり、母親も病死する、というかなり不幸な生い立ち。働きづめの毎日を過ごし巨万の富を築いた。また、どうやら結婚もしていたらしく、離婚も経験していた様子である。アニーは孤児ではあるが前向きな少女。このマンガの連載が始まった頃のアメリカは好景気、いわゆる”バブル”な状態だった。それが1929年の大恐慌で一変する。当時の大統領は共和党のフーバーで無策を繰り返していたが、1932年に民主党のルーズベルトが大統領に当選する。そしてあの有名なニューディール政策を進める。アメリカ史上最も長く大統領の職に着いていたルーズベルト、1945年に死去するまで大統領であったのである。ミュージカル『アニー』の設定は1933年、時代背景は大恐慌の後。巨万の富を築いたウォーバックス氏、大統領やFBI等とは電話でつながっている、というのはさもありなんで、劇中でもニューディール政策が話題になり、『Tomorrow 』を歌う。ここは史実と虚構が上手く混ざり合っている点であろう。当時のアメリカの世相や世界情勢などを知っていると面白さは倍増する。またウォーバックスという名前だが、綴りは”Warbucks”。”War”は戦争、”Bucks”は牡鹿とか雄々しい雄などという意味があるが、別の意味もあり、俗語で”doller”、つまり”ドル”。第一次大戦で大儲けしたのかもしれない。また、ルックスもスキンヘッドでなんだか強そう、マンガでもスキンヘッド。マンガと上手くシンクロさせている。よく知られている映画版は1982年コロンビア映画の製作でヒットミュージカルに基づいた映画化である。そして1995年には続編となる『アニー2』が製作された。1999年にはディズニーによってテレビ映画としてリメイクされている。近年はウィル・グラッグ監督の『ANNIE/アニー』がアメリカで2014年に公開され、日本では2015年1月24日より全国公開。時代設定は1933年のニューヨークから現代に変更された。ウォーバックスはスタックスと名前を変え、携帯電話会社のCEOでニューヨーク市長候補。選挙キャンペーン中に車にはねられそうになったアニーを助ける、という設定になっている。スタックスは恵まれないアニーの境遇を選挙に利用しようと考え、一方のアニーは自分が有名になれば両親が名乗り出てくるのではないかと考える、かなり現代的な設定となっている。日本でもミュージカル『アニー』はよく知られている作品。日本初演は1978年、日生劇場で幕を開けた。主演のアニー役、現在は子役が演じているが、初演は宝塚歌劇団の愛田まち。身長がかなり低かったということでのキャスティングであった。ウォーバックスは若山富三郎。その後、1986年には日本テレビの制作で『日本信販ミュージカル』として上演、以後スポンサー(現在は丸美屋食品)は変わるが現在まで上演され続けている長寿ミュージカルとなった。アニー役のオーディションは毎年行われており、受験者数も相当数になる。今年の受験者は約9000名。書類選考やオーディションを経て28名(アニー役は2名)選ばれる。劇中でタップダンスを披露する”タップキッズ”以外の子役をダブルキャスト方式で『スマイル組』と『トゥモロー組』と分かれて出演している。そして『クリスマスコンサート』を最後に子役全員が”卒業”するシステムをとっている。連載開始から実に90年以上、本場アメリカではもちろん、日本においても絶え間なく、途切れることなく様々な形で『アニー』というコンテンツを存続、増幅させる。世界的ヒットコンテンツとなるのもうなずけるのである。
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