マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第1回「はじめにアニメありき」 3ページ目 | アニメ!アニメ!

マンガはなぜ赦されたのか -フランスにおける日本のマンガ- 第1回「はじめにアニメありき」

豊永真美氏[昭和女子大現代ビジネス研究所研究員]によるフランスの日本マンガの受容などに関する論文です。短期集中連載、全8日予定。

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人気が高まると、批判もまた高まる。クラブ・ドロテの批判の急先鋒となったのは、社会党の若き女性代議士セゴレーヌ・ロワイヤルであった。ロワイヤルは1989年に「ザッピングする赤ちゃんにはもう、うんざり(Le ras-le-bol des bebes zappeurs)」という著作をあらわし、日本のアニメは乱暴であり、日本でも、アニメに刺激され宮崎勤のような猟奇的な殺人犯が生まれていると糾弾した。

社会党のロワイヤルが本当に糾弾したかったのは、TF1とその背後にいる保守党勢力である。フランスではTF1誕生後、TF1は保守党支持、公共放送は社会党支持と支持政党が明確に分かれている。社会党の代表者であるロワイヤルはTF1の初代の社長のフランシス・ブイグがTF1を民営化する際、フランス製の子供番組を作るといったのにもかかわらず、日本アニメが多く放送されていることを問題視している。ロワイヤルの糾弾は「社会党と保守党」の代理戦争のコンテキストでもあり、事実、ロワイヤルは同じように日本のアニメを放送していたラ・サンクに対してはさほど糾弾していない。

これに対し、クラブ・ドロテ側は、番組中のコントでロワイヤルの著書をゴミ箱にいれるというコントを発表するなど、お互いが罵り合う展開となってしまった。さらに、ドロテは民放での自分の番組を擁護するためにインタビュー番組に登場した。1992年3月21日に放送された「Double jeu」と番組である。これはフランスの国立視聴覚研究所(*2)のデータベースで確認することができる(*3)。それによると、クラブ・ドロテは放送前に番組を心理学者のグループに見せ、問題がないことを確認していると語っている。その一方で、ドロテは人気の日本アニメが一部、放送できなくなったとき、「CSA(視聴覚高等評議会)(*4)が設定するクォーター制度(欧州・フランス製の番組の放送時間を一定以上確保すること)のために日本のアニメが放送できなくなったので、不満がある人はCSAに手紙を書いてほしい」と呼びかけたとされている。

しかし、クラブ・ドロテでは日本ですら子供にみせることを想定していない「おにいさまへ …」が放送されたこともあった。「おにいさまへ…」(*5)の放送は途中で打ち切りとなってしまい、クラブ・ドロテを批判する勢力の正しさが証明されてしまった。

そして、何より、クラブ・ドロテが高視聴率だからといって、毎日放送し、子供の休暇期間は1日8時間の放送という、ちょっと度を越した長時間放送だったことが批判を呼んだといえるだろう。

こうして、クラブ・ドロテは子供たちには絶大な人気を誇りながらも、批判を常に浴び続けた。そして、フランス人であれば、子供のない人でも、クラブ・ドロテという長時間放送される子供番組があり、それを批判する勢力がいるということを認知しているという不思議な状態が形成されていた。

クラブ・ドロテは1997年に放送終了となるが、その原因はクラブ・ドロテを製作していたABプロダクションが自社で衛星放送を始めるため、TF1とABプロダクションの間でうまくいかなくなったことが一番の要因であるという。

フランスのマンガの出版社は、テレビにおける日本アニメの人気と批判を踏まえたうえでフランスでの展開をしている。

フランスで沸き起こった日本アニメ批判は無視できないほど大きいものであり、TF1は大企業であったから持ちこたえた。またTF1は保守党政権が支持していたということも大きいだろう。ただ、放送局と比較して圧倒的に規模に劣る出版社では大きな批判を受けた時、その批判を受け止めることは難しい。マンガ出版社はこのような批判を踏まえたうえで、慎重に展開していった。

以下、フランスの主要なマンガ出版社が、フランス社会にマンガを根付かせるためにどのような戦略をとっていったかを紹介する。

*1 フランス語で「エブド」は週刊、「マンスエル」は月刊の意味
*2 フランスでは書籍が国立図書館に献本が義務付けられているのと同じように、テレビ番組は全てINAに納入することが定められている INAは1975年に設立された 放送の納入義務は1995年に地上波2000年にはケーブルと衛星放送、2005年には地上波デジタルに拡大されている なおINAがすべての放送局に番組の納入義務を課す前にも、 放送はアーカイブを持っており、INAはそれを引き継いでいる
*3 INAデータベース http://www.ina.fr/video/I08191959/dorothee-a-propos-des-programmes-de-son-emission-video.html (2015/03/04 閲覧)
*4 CSA(視聴覚高等評議会)とは放送局の放送内容が適切であるかどうか審査する機関 フランスでは放送番組にクォーター制度があり、フランスを含む欧州製の番組が放送枠の40%以上でなくてはいけない CSAについての詳しい説明はNHK「放送研究と調査」(2010年10月号)の中の「フランスCSA(視聴覚高等評議会) 」を参照のこと
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2010_10/101006.pdf (2015/03/04閲覧)
*5 「おにいさまへ…」は池田理代子原作の少女マンガをもとに1991年に製作されたアニメ。同性愛的な関係を取り上げている。日本ではBS-2で放送されていた。放送時間は夕刻と、日本でも子どもが視聴できる時間だったようだが、BSだったこともあるのか、日本では問題となったことはないようだ

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