■ スタイリッシュでかっこよく、程よくコミカルな味付け直線的なコリオ、凛々しく、熱く、ヴァンパイアたちが魅了するパイプオルガンの音色が響く。背景にカタカナの文字が浮かぶ。”マッシロ””ユキ”……今回のヒロイン・黒主優姫が一人、ぽつんとしゃがんでいる。それから吹雪の音。優姫は5歳以前の記憶がない。雪の降る日に玖蘭柩に助けられたのだった。そんな生い立ちを象徴的に、シンプルに見せる。それから一転して激しいロック音楽が鳴り響く。玖蘭柩の登場、スタイリッシュでかっこいい。そしてこの舞台のための楽曲を歌う。これから激しくも熱い物語が展開されるのだ、ということが即座にわかる。たたみかけるようなオープニングだ。原作のテイストを尊重しつつ、疾走感を持って作品世界を表現。全身黒ずくめのダンサーが激しく舞い、踊る。直線的で力強いコリオが世界観に輪郭を与える。振り付けの腕のみせどころ。そしてアニメ的な手法でスクリーンにキャラクターが次々と紹介され、タイトルロール。それから一転して学園風景。よくあるパターン、ルックスのいい男子学生とそれに憧れる女子学生。一見平和な光景だが、夜のイケメン学生は皆、ヴァンパイア。つまり昼の女子学生は”餌”。もちろん食べるのは御法度。人間とヴァンパイアの平和的関係を築くのが、この学園のコンセプトだ。ストーリーは原作通り。程よく”コミカルな場面”とそうでない、”ダーク”な場面、”ハードな場面”のバランスがよく観やすい。緩急つけてストーリーは進行する。主人公の優姫はどこにでもいそうな女の子。玖蘭柩に淡い恋心を抱いているが、叶わないことはよくわかっている。切ないが、思春期にありがちな気持ちで共感する。そんな優姫を若月佑美が好演。等身大で、いかにもいそうな雰囲気だ。優姫と同じ風紀委員の錐生零は優姫を大切に想う気持ちは誰にも負けないが、わざとそっけない態度を取ったりする。”いるいる、そういう男子”といった感じをルウトはさらりと表現。後半、苦悩するところでは心の機微を表現、戦う姿は一転して時には凛々しく、なかなかの芝居巧者。AKIRA演じる玖蘭柩はひたすらクールでかっこいい。そしてヴァンパイア純血種という設定、どこか品良く振る舞う姿はビジュアル的に美しく、かなり計算してるな、ということをうかがわせる。ダンサー陣のクオリティが高く、作品世界を時には妖しく、激しく輪郭をつける。無機質で、刹那的な雰囲気、ヴァンパイアモノにふさわしい。男装女性陣、AKIRA始め、流石のビジュアル。宝塚の男役スターの立ち振る舞いは長年の歴史に裏付けられた”型”で様式美が感じられるが、こちらはナチュラル。ちょっとした仕草もさらりとしており、一瞬、華奢な男性?と思う程だ。アクションもなかなかで皆、型がキマっていたのが印象的。歌唱法も自然で、さほど声を作っている訳でもないのに、男性っぽい。男装女子、人気を博しているのがよくわかる。柿丸美智恵 演じる理事長の黒主灰閻、ボケたりすべったり、期待通りのキャラ、若干おばさん臭な役作りが成功、観客の笑いを誘った。原作はまだまだあるが、舞台版は区切りのよいところで幕。それから再び幕が上がって、ちょっとしたショウタイム。再びAKIRAが登場し、冒頭で歌った舞台のためのオリジナル曲を熱唱、こういったサービスは観客にはうれしいおまけである。舞台と客席がほどよく近い博品館劇場、このくらいのキャパの劇場にふさわしい演目だ。脚本は徳尾浩司、演出・振付は本山新之助だ。
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