連載第100回 日本人以上に”MANGA”を愛したスタッフ、舞台「プルートゥ PLUTO」 2ページ目 | アニメ!アニメ!

連載第100回 日本人以上に”MANGA”を愛したスタッフ、舞台「プルートゥ PLUTO」

『プルートゥ PLUTO』が舞台化される。手塚治虫の『鉄腕アトム』に含まれる「地上最大のロボット」 の回を原作としている浦沢直樹の漫画だ。

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(C)浦沢直樹・スタジオ ナッツ 長崎尚志 手塚プロダクション / 小学館
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■ 原作の不穏な空気が劇場を支配する、アトムが竜巻に巻かれるシーンは圧巻、負のエネルギー、戦争や憎しみ、差別からは何も生まれない。

舞台セットは白と黒を基調にしたもの。舞台手前は青銅色のオブジェ、ロボットの手や足等、機械の残骸が……荒涼とした殺伐とした雰囲気を醸し出す。幕開きは吹きすさぶ風の音。スクリーンに浮かび上がる原画、それが”大きなうねり”で塗りつぶされる。金属音、どこか悲しげな音楽。これから始まる悲劇的な事件を予感させるに十分のオープニングだ。
ゲジヒトが逃げる相手を狙撃する。それからまるで漫画の一コマが抜け出たようなシーン、天馬博士とアトムが食事をしている。天馬博士の問いかけに素直に応じるアトム。しかし、天馬博士は突然不機嫌になる、「トビオはこの料理が嫌いなんだよ!!」。原作にもあるシーンだが、天馬博士の深い哀しみと苛立ちを如実に物語る。ロボットは人間ではない、しかし、アトムの瞳は哀しみでいっぱいだ。そんなやり取りを森山と柄本が的確にリアリティを込めて演じる。冒頭から、観客は『プルートゥ PLUTO』の世界に入る。

映像はいろいろな”装置”に変化する。脳内の”記憶”だったり、風景だったり、状況を説明したり、と様々に変化する。漫画は基本的に白黒であるが、スクリーンに映し出される原画が時折、血の部分が深紅に染められていたりする。そんな瞬間は2次元の原画が生々しく観客に迫ってくる。映像の使い方が巧みで、違和感なく舞台の俳優の動きや芝居とシンクロする。
俳優陣は主要キャストはもちろん、アンサンブルのパーフォーマンスもクオリティが高い。アンサンブルは白い衣装。時折、”ロボット達”の動きに合わせて動く。これが、どこか人形浄瑠璃のようで、その”無機質”感がいやおうなしに”この人たちは人間に見えるけど実はロボットなんだ”を認識させる。なんとも心憎い演出だ。
日本文化と日本の漫画が大好き、という演出家のテイストが伝わるステージング。物語はスピーディーに進行する。最初に殺されるモンブラン、その後、次々とロボットが惨殺されるが、台詞と原画映像で語られる。一見、そっけないように思われるが、そのロボット達の無念さがひしひしと伝わる悲しいシーンだ。

原作の不穏な空気が劇場を支配する。アトムが竜巻に巻かれるシーンは圧巻で、森山未來らしい難易度の高いパフォーマンスで表現。森山を取り巻くアンサンブルも激しいダンスでその白い衣装を翻す。ここは1幕最大の見せ場。原作よりもドラマチックなシーンに仕上がっており、ここは舞台ならでは。

基本的に原作に沿ったストーリー展開、1幕から緩急つけながらも一気にたたみかける。原作を読んだ観客なら結末は言わずもがな、である。芸達者揃いのキャスト、ロボットを演じる俳優はちょっとした台詞の言い方が重要となる。
人間に見えて実はロボット、「ロボットは忘れない」その台詞が妙に物悲しく響く。人間は都合の悪いことは忘れたり、時と場合に応じて嘘をついてみたりする。それでバランスを取って生きている。しかし、人口知能を持つロボットはそれが出来ない。”しょせん、自分たちはロボットにすぎないのだ”というニュアンス、人間のように見えるが、血も通っていない、自分たちを卑下しているようにも感じる。
天馬博士の「アトムは失敗作だ」と言う。完璧で優秀なロボット・アトム。それ故に「完璧だから失敗作なのだ」と天馬博士は続けていい放つ。人間の子供はわがままだったり、癇癪を起こしたりする。いや、それは子供に限らない。そういった”不完全さ”が人間なのである。そういう不完全さを持ったロボットが作れなかった天馬博士の悔しい、哀しい、そんないくつもの感情が重なり合った一言には計り知れない重みがある。

負のエネルギー、戦争や憎しみ、差別からは何も生まれない。手塚を、原作をリスペクトし、よく咀嚼し、噛み砕き、演出家のオリジナリティ溢れる手腕が光る。日本人以上に漫画をこよなく愛し、キャストもその心意気に答える。海外でも充分に通用する舞台作品、2015年1月、年明けから漫画由来の秀作、こういった作品は他の舞台にとって励みになる。累計発行部数850万部以上、20以上の言語で翻訳され、世界中に読者がいる作品、海外進出。決して不可能ではない。

鉄腕アトム「地上最大のロボット」より
『プルートゥ PLUTO』
2015年1月9日~2月1日 シアターコクーン
2015年2月6日~2月11日 森ノ宮ピロティホール
http://www.pluto-stage.jp
演出・振付: シディ・ラルビ・シェルカウイ
原作: 浦沢直樹×手塚治虫 長崎尚志プロデュース
監修: 手塚眞
協力: 手塚プロダクション

『プルートゥ PLUTO』
(C)浦沢直樹・スタジオ ナッツ 長崎尚志 手塚プロダクション / 小学館
《高浩美》
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