■ 映像部は発想次第で可能性が秘められた“部署”だと思うんです。 舞台『銀河英雄伝説』を語る上で欠かせないのが映像。舞台上に巨大な艦隊が現れたり、宇宙が出現したり……そこにおなじみの登場人物たちがその瞬間を映像と同時に生きる。映像と俳優が上手く“競演”し、劇場は『銀河英雄伝説』の世界に変わるのである。「常に作品が良くなればいいと思いながらやっています。当然ながらプロデューサーの意向もあり、演出家が変わる、脚本家も変わる。でも、自分は毎回変わらず映像を、担当しています。時々、演出したり脚本を書いたりもしていますが、映像に関してはありがたいことに一貫してずっとやらせてもらっているので、向上心を持って楽しんでやっています。チャレンジ出来るポジションかなと思っているんです」近年は舞台で映像を使う作品が増えている。とりわけ、アニメ、ゲーム、コミックを基にした舞台作品では映像を使う頻度が高い。ただ、この舞台『銀河英雄伝説』に関しては他の作品とは映像の使い方が異なるシーンが散見される。映像が“もう一人のキャスト”のごとくに雄弁にそのシーンを担うことがある。「舞台で映像がすごく使われるようになっていますが、発想次第で多くの可能性が秘められた“部署”だと思うんです。いろいろ失敗もあるし、批評もあるかもしれませんが、後々、今やっている映像演出が認められていくようになればいいなと思いながら、失敗を恐れずにチャレンジを重ねています。海外の舞台やミュージカルを観に行って“こういうこと、やっているんだ”とか、取り入れたいなとか思いながらも……シビアなことを言いますと向こうの劇場の機構では出来ても、こっちでは出来ないとか。いろいろありますが、やっぱりやらないことには始まらないし、やってみてわかることがいっぱいある。苦労もあるけど、観客の皆さんに楽しんでいただきたいという想いで、映像演出に携わっている、という感覚でしょうか。背景として映像を使うのはいいとは思いますが、映画との違い、ライブで映像を使うっていうことを考えながら……前回(9作目)はいろいろやりました。例えば、初音ミクのようなキャラクターを立体的に見せるのは自分はすごく賛成なんです。平面的にしか見る事が出来なかった好きなキャラクターが自分の目の前に立体的に現れたらファンはすごく感動しますよね。前回でいうと、キルヒアイスが息絶えるラインハルトの回想シーンを簡易的なホログラムで舞台上にラインハルトを二人存在させました。ただセピア色の平面映像とか(例えば)で見せるのももったいないなと思ったんですね。で、アポ無しである方に会いにいったんですよ、“ピンポーン”って。“今回の『銀河英雄伝説』でホログラム的なことをやりたいんですけど”って。そうしたら、その方がすごく演劇が好きな人で……でも、結局予算的に折り合いはつきませんでした。が、いろいろと親切にお知恵を頂き、あのシーンがうまれたんですね。でもこういうチャレンジってすごく大事だな~と。客席によっては上手く見える、見えないがあるんですが、思いっきりクレームが出ない限りは挑戦したい。戦艦のセットを作る訳にはいかない、じゃあ映像で作る、戦艦を見せるだけじゃつまらない……じゃあ、まるで戦艦の中に立っているように見せようとか、そういう発想から、毎回試行錯誤しています」単なる“背景”としての映像ではなく映像も舞台に“参加”する。ここが発想の転換である。「そういう(映像が舞台に参加する)概念はあります。発想を役者やスタッフに理解してもらって……“そんなの大変だから出来ないよ”っていうのを説得して(笑)、例えばオープニングのユリアンが出撃するコックピットのシーンも、何回も役者と映像部でタイミングの稽古をして……でも、上手くいったときは嬉しかったですね(笑)」舞台上での出撃シーン、映像と俳優のコラボレーションであたかもリアルに出撃したかのように見せる。クリエイター冥利に尽きるということなのだろう。一瞬のシーンに込められた映像の渾身の“演技”が物語を紡ぎ、世界を創造する。舞台『銀河英雄伝説』にはそんな瞬間がある。“これって本当に出来るの?”の連続の舞台であるが、映像技術は日々、進化する。不可能だった演出も可能になる。
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