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雨でも晴れでもいつでも”同じ色”をつくり出す―ニッカー絵具 数井浩子のアニメ社会科見学 第5回

数井浩子さんのアニメ社会科見学、シリーズ2回目はアニメ美術に欠かせない絵の具を取り上げる。ニッカー絵具を訪ねて、お話を伺った。

連載 数井浩子のアニメ社会科見学
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■ 伝説のアトムのブーツの色「テロップカラー3.5」

1950年(昭和25年)、文房堂から独立した伊藤一三氏は東京都北区十条に工場をつくる。「有限会社ニッカー絵具製造所」の誕生である。

当時はちょうど、白黒放送が始まろうとしていた時期である。いまではテレビ画面に出るテロップはデジタルであっという間に作成できるが、そのころは、ひとつひとつ、図案家とよばれるデザイナーがテロップを「描いて」いた。

ニッカー絵の具のポスターカラーのカラーチャートには、今でも「テロップカラー」という色がある。「T1(白)」から「T6(黒)」までの計7色である。「T2」から「T5」まではグレーのバリエーションだが、モノクロ映像で「本来の色味」をグレーのみで表現するのは難しい。
ある映画では「真っ赤な口紅」を表現するために墨を塗ったと聞いたことがあるが、「本来の色味」を感じてもらうための「逆算能力」が必要なのである。

ニッカー絵具は、絵の具の発色のよさ、混ぜても彩度が落ちないという点で評価が高いが、本当の強みは色の「逆算能力」にあるのではないか。

それは、テレビアニメ第一号『鉄腕アトム』(1958年制作)でも発揮される。原作者の手塚治虫氏は「アトムのブーツ」にこだわった。「T3とT4のちょうど中間のグレーが欲しいの」と。

アトムのブーツの色は「赤」である。つまり、原作者の手塚治虫さんは、あの「赤」が感じられるグレーを求めているのである。しかし、「あのブーツの赤」に感じられるようなグレーをつくるためには「T3」と「T4」を半々にすればいいという単純なハナシではない。何度も打合わせを重ね、ようやく完成したのが、伝説の「テロップカラー3.5」である。

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■ 手のかかる子ほどかわいい?―「絵の具は“生きもの”です」

「次は、アフリカのあの『空の色』をつくって欲しい」

『鉄腕アトム』の次に依頼されたものは、『ジャングル大帝』の空の色だった。青い顔彩で塗られた色見本を渡され、「真っ青な青ではなく、黄味の強い青が欲しい」と相談された。

このときにつくった色が「セルリアンブルー」である。今でも、ポスターカラー「21番」として、カラーチャートに残っている。最近では、ジブリ映画『風立ちぬ』にも使われた空色である。『ジャングル大帝』から『風立ちぬ』まで約半世紀。長い年月、アニメの空として愛されてきた「空色」なのだ。

50年近く「いつでも同じ色」をつくり続けるということ。これは、ある意味、奇跡である。絵の具の「色」をつくるための顔料は、産地や採取時期が少しずれるだけで色合いが微妙に異なるからだ。前回と「同じ番号」の顔料が前回と同じ「色」になるとは限らない。

「顔料は“生きもの”ですね」ニッカー絵具の製造部社員はそう言いながらも、とてもうれしそうだった。手のかかる子どもほどかわいいものだ。

毎日毎日、真剣に「色」と向き合い、600種類の絵の具をつくる製造部。まさに、ニッカー絵の具の「心臓部」だ。しかし、色を仕込み、練っているのは6人ほどだという。次回は、そんな「心臓部」のお話です。

■ 数井浩子 (かずい・ひろこ)
アニメーター・演出。アニメ歴30年。短大時代から仕事を始め,『忍たま乱太郎』『らんま1/2』『ケロロ軍曹』をはじめ、200作品以上のアニメのデザイン・作画・演出・脚本に携わる。自らデザインしたアニメキャラは、“子どもにも大人にもウケる萌えキャラ”と評判になりラッピングバスとして渋谷や練馬を運行。また、長年アニメを現場で制作するかたわら、42歳から認知心理学を東大大学院にて研究しつつ、文化庁若手アニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」においては評価・選定委員として現場の後進のために活動中。教育学修士。
《animeanime》
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