日本アニメの海外向け配信で知られるクランチロールが、日本の翻訳マンガにも進出する。その第1弾として、講談社と手を組んだ。2013年10月30日より、『進撃の巨人』、『宇宙兄弟』、『FAIRY TAIL』など講談社の人気作品を英語翻訳して配信を開始する。配信はアニメと同様、有料サービスと無料サービスのふたつが組み合わせられる。作品はまず英語翻訳されて日本の雑誌連載とほぼ同時期にサイトに掲載される。月4.99ドルを支払うと、サイトのマンガは読み放題となる。マンガ購読の定額課金に加えて、現在のアニメ視聴の定額課金サービスと組み合わせたメニューも導入される見込みだ。今後、マンガとアニメを連動させたサービスやプロモーションも可能になる。スタート当初は、講談社の12タイトルが提供される。講談社は今後も提供タイトルを追加し、来年夏までに50タイトル以上に増やす方針だ。一方、クランチロールは、今後、講談社以外の複数の出版社からも作品の提供を受ける。サービスタイトルは、年内だけで50タイトルを予定している。アニメと同様に、日本マンガの海外発信のハブを目指す。クランチロールは、日本アニメの海外向け配信で知られるベンチャー企業である。2009年から日本アニメに英語翻訳をつけ、日本での放映直後からインターネットを通じて世界配信をするビジネスモデルを導入、急成長を続けている。無料会員の視聴は広告がつけられ利用サービスを一部制限される。月7ドル程度の有料会員は、高品質で日本のアニメを楽しめる。有料会員は現在、全世界で20万人を超える。これまで同社のビジネスは、映像と関連物販の販売だったが、今回はこうしたビジネスモデルをマンガにも導入することになる。本格的なデジタルマンガへの進出である。やや意外に見えるクランチロールの電子マンガ進出だが、同社はシリコンバレーに拠点を持ち技術を中心としたIT企業の色合いが強い。インターネット向けの技術開発は得意とするところだ。同社は、2013年5月にサービスを終了した海外向けの日本マンガ配信のJMangaに技術面で協力していた。JMangaは、日本のマンガ出版社の団体であるデジタルコミック協議会が協力し、複数のマンガ出版の作品を英語で配信していた。サービスは1年あまりで終了したが、そのコンセプトをクランチロールが引き継ぐ面もある。海外向けの日本アニメ配信は、2000年代後半以降複数のサービスが急成長している。日本と時差の少ない配信は、インターネット上の違法配信対策にも大きな効果を発揮していると言われる。近年、不振とされてきた海外での日本アニメビジネスも、ネット配信に限れば大きく育ちつつある。一方、マンガ配信は、現在、英語に限っても十分でない。違法配信はかなり多く、日本のマンガ家、出版社は多くの利益機会を失っているとみられる。個別にAmazon Kindleやスマートファン向けのアプリで提供することは可能だが、ポータル機能が弱くビジネスが拡大しにくい。大手のサービスではVIZ Media(北米)やVIZ Mediaヨーロッパもあるが、小学館、集英社、小学館集英社プロダクションの資本のため他の大手出版社は作品を出し難い。今回、最初にクランチロールに作品を提供した講談社は、紙出版では『美少女戦士セーラームーン』新装版や『進撃の巨人』の英語翻訳版でヒットを飛ばしている。しかし、急成長する海外でのデジタル出版では後れをとっていた。そこでアニメで実績のあるクランチロールと手を組んだ。一方、かねてよりマンガ分野への進出を狙っていたクランチロールにとっては、講談社はビジネスをスタートするにあたり最強のパートナーと言えるだろう。[数土直志]
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