「ふーん。……それにしても、どうしてそんなに詳しいの?」質問しといて「ふーん」だけかよ、と思わないでもなかったが、そこを追求するのはやぶ蛇になりそうだったので僕は黙っていた。「学生時代にサークルに入ったら、うるさいH先輩って人がいてね、半可通なことを口にしようものなら、「おまえは、○○を見たことがあるのか」と突っ込まれて、徹底的に仕込まれたんだ。でもこうやって振り返ってみると、歴史の発展は必然だよなぁ」「それはどういうこと?」Nがまた突っ込みモードになってきた。めんどくさい雰囲気だ。「キスって結局……前戯じゃない。だからキスをちゃんと描くようになったら、ポルノにつながるのは必然だってこと。『銀河鉄道999』だって、'79年だったからキスで終わったけど、もう少し後の時代に作られていたら『夏への扉』みたいに、年上女性が年下男子を翻弄する“手ほどきもの”になっていてもおかしくなかったかも(笑)」そんな僕の軽口をムシしてNが言った。「……ちょっと待って。現実にキスが、その……前触れなのはそうだけど、だからって映像の中におけるキスシーンまで同じ扱いにするのは間違いじゃない? 私、この間『とらドラ!』っていうの見たけど、あれの竜児と大河のキスシーンってすごく……」「すごくエッチだったよねー。あれこそ、あのまま倒れ込んでもおかしくない雰囲気だ」「違う違う!」Nはすぐさま否定した。「私はすごくロマンチックだって言いたかったの! ……Sの考えてるキスって、なんだかずいぶんと日本的よね」何が日本的か知らないが……どうやらまた僕は、踏まなくてもいい地雷を踏んでしまったようだ。
庵野秀明監督はなぜ「シン・エヴァ」で“絵コンテ”をきらなかったのか?【藤津亮太のアニメの門V 第69回】 2021.4.2 Fri 18:15 アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第69回目は、庵…