藤津亮太の恋するアニメ 第9回 キスの記憶(前編)作・藤津亮太どうにも世間の常識に納得しづらいことにまたまた直面して、考え込んでいるところにNがやってきた。いつも向こうの“壁打ち”の相手になっている身だ。少々、質問してもバチはあたるまい。N自身も意見がありそうな話題だし。「あのさぁ、知り合いの結婚式に出たんだけれど、お約束で新郎新婦のキスがあってさ。あれって昔から苦手なんだよね。出生社への見世物としてはいいのかもしれないけど、どうなのかな? あれはうれしいものなの?」そんな質問をぶつけた僕に対するNの第一声は……「あれ、アニメの話題じゃないんだ」だった。いつもアニメの話題を振ってくるのはむしろNのほうなのだが、そんなことはすっかり忘れているようだ。「まあ、映画のワンシーンみたいなものじゃない? 本人たちは映画の主役気分。観客は当人たちのそのコスプレ風主役気分を楽しむ感じ。つまり、みんな楽しいんだから、そんなところをわざわざ気にする人が少数派ってこと」正しいのか正しいのかわからないが、歯切れだけはいい回答だ。「今聞かれてちょっと気になったことがあったんだけど」Nが続ける。「アニメでキスシーンっていつごろから登場してるの? 私が子供のころ見た『ママレード・ボーイ』ってわりとキスシーン多かったなぁって思ったんだけど」いきなりの無茶ぶりだが、ここで逃げるとNが二ヤリといやな笑いを浮かべるような気がする。サークルのH先輩に仕込まれた知識を総動員して、それなりの答えを用意しなくてはなるまい。
庵野秀明監督はなぜ「シン・エヴァ」で“絵コンテ”をきらなかったのか?【藤津亮太のアニメの門V 第69回】 2021.4.2 Fri 18:15 アニメ評論家・藤津亮太の連載「アニメの門V」。第69回目は、庵…