(インタビュー:2007年6月)■ 原恵一監督 (アニメ監督)1959年群馬県生まれ。PR映画会社を経て、1982年シンエイ動画に入社。テレビは『ドラえもん』の演出、『エスパー魔美』のチーフディレクター、『クレヨンしんちゃん』の演出を務める。『エスパー魔美 星空のダンシングドール』(88)で劇場用映画監督してデビュー。その後、『映画クレヨンしんちゃん』シリーズの『暗黒タマタマ大追跡』(97)から『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』(02)まで6本の脚本・監督を担当。『嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(01)では、子どもだけでなく、大人たちも感動させ、絶賛された。続く『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』にて第6回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞、第57回毎日映画コンクールアニメーション映画賞、東京国際アニメフェア2003監督賞等を受賞。今夏公開する『河童のクゥと夏休み』は、原監督5年ぶりの劇場新作として大きな注目を浴びている。 --------------------------------------------------------------------------------1. 『河童のクゥと夏休み』は一番やりたかった企画 アニメアニメ(以下AA) 最初に原作について伺いたいのですが、監督は先日開かれたシンポジウムで 『河童のクゥと夏休み』の原作を昔から大切にしていたと、いろいろなことが出来そうだからと話されていました。なぜこの原作を選ばれたのかからお話いただけませんか。原監督(以下敬称略) 原作を読んだ時に、アニメーションを作る際にこれを基に自分のやりたいことができるような気がしたんですよ。それは原作を利用するという意味ではなくて、刺激を受けたというか。その気持ちがずっとなくならなかったので。初めて原作を読んだのは20年ぐらい前の話ですけれどね。いつまでたっても何がやりたいかと言われたら、この原作をアニメにしたかったというのが一番だったんです。AA そのやりたいといった部分はクゥと康一の友情だったり、康一の思春期の少し突っ張った部分とかですか。原 そうそう。だから河童だけの物語でなくて、子供のこととか、家族のこととか、社会のこととかも一緒に描けるものにしたんです。出来るんじゃないかって。AA 今回映画が2時間18分とやや長めの内容になったのは、そうした全ての要素を入れるとこうした長さになるということでしょうか?原 それは今回よく言われてることなんです。きちんとシナリオを作らずに作業していたんです。自分なりのあらすじから絵コンテの作業に入ったんですよね。余裕のある作業で出来たので、とりあえずどれ位の長さになるか分からないけれど、一通り描いてしまおうと思ったんですよ。あとでここのシーンを止めようとかそういう作業をしようと思っていたんです。そこで一通り描いてみたら3時間になっていたんですよ。そのままでは駄目だろうと思ったので、自分で少しあきらめた部分もあるんですが、そこから今の長さに収まるにはものすごくいろんなことがあったんです。僕は、主にあきらめる作業ですね。まあ2時間18分が今のアニメーションの常識的な長さからは、長いことは当然わかっているのですけれど、僕には切って切ってようやくこの長さです。AA 映画においてメッセージというのはあるのでしょうか。メッセージ性というのは強く意識されましたか?原 あまり強いメッセージ性は持たさないように作っていましたね。AA 先日、世界環境デーということで映画と合わせてシンポジウムをやられました。でも、映画自体はそんなに環境を語るのでなく、河童の住めない現実を描きだしていて、それをこちらでさらりと感じ取るものなのかなと思いました。原 そう思って貰えれば一番。環境だけでないのですが、押しつけがましくなく様々なことが伝わるものにしたいと思っていました。AA 作品は現代でありながらファンタジーでもあるのですが、非常に現実的な舞台にファンタジーを入れるというバランス感はどのように考えていたのですか。原 僕は、それを一番注意しているんですけれどね。リアルなだけの話を作りたいわけではない。当然、今回もファンタジー的な要素があるわけです。でも、別世界にもしたくなかった。もっと身近な日常のなかのファンタジーを作りたかったし、個人的にもそういうのが好きだから。AA 映画を観た時に本当に河童が出てきたらもっともっと騒ぐかなと思ったのですけれど、わりとあるがままに流れて行きましたが。原 僕自身もそうだと思っているんですよね。本当だったらこんなものじゃないだろうと。そこは僕自身も描き切れなったという部分もあるんですけれど。ほかにもやらなければいけない部分があった映画なので、その描写だけに力を注ぐわけにいかなかったというのがある。AA 舞台が東久留米という都会でもないし、田舎でもないやや曖昧な場所になっていますが、あの場所を選んだのは。原 あれは、原作者の木暮正夫さんが東久留米在住だったからなんです。アニメ化をしたいという時に、木暮さんの住んでいる東久留米に行って、その待ち合わせの時に時間があって散歩して見た川が印象的だったのが発端ですね。ここを舞台にしていいかなって。絶対ここしかないと思ったわけではないんですよ。木暮さんの住んでいる場所というのが僕にとっては意味があった。AA それは何年ぐらい前ですか?原 それが10年ぐらい前ですよね。AA その頃はクレヨンしんちゃんでバリバリやられていた頃だと思うのですが、当時はどういうかたちで映画にしようという見込みは持たれていたのですか。原 その時はあるゲーム会社の募集するアニメ企画に参加しないかという話があって、じゃあ俺はこれがやりたんだってプロデューサーに話をして、じゃあいいんじゃないかと。原作があるものなので許可をもらうために、木暮さんとは初めてお会いしたんです。その時は映画を作るというのが決まっていたわけでないですね。AA 映画のなかで遠野が舞台になっていますが、取材にはかなり行かれたのですか。原 長いこと考えていた企画だったので、個人的には何度か行きました。何かいいアイディアが拾えるのじゃないかって。スタッフとも、もちろん行きましたけどね。AA 作中には沖縄でのシーンがありますが、沖縄についての強い思い入れはあるのですか?原 確かにあります。作っているうちに沖縄の良さを再発見したと思います。20年前は沖縄についてリゾートと米軍基地以外のことをよく知らなかったんです。僕は沖縄の人たちの人間以外の物への考え方を知ったときに、沖縄へより強く興味を感じるようになったんです。そんな中で沖縄の妖怪のキジムナーを知ったんです。最近、世の中で海のきれいさだけではなくて、沖縄文化へ目をむけることが増えました。それは僕は個人に的まずいなと思いましたね。沖縄イコール癒しの島、みたいなイメージがあまり安易に使われるのはまずいなぁと思いました。AA 今回の映画は背景美術が素晴らしかったのですが、これについては監督のほうからスタッフのかたに特に注文をつけたのでしょうか?原 両方ですね。あがって来て素晴らしいというのもあったし、何度かやり直しをお願いした部分もあったし。ただ、映画なのでシリーズものよりは時間の余裕があったので、美術の人たちも力を注げたのだと思います。
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