『河童のクゥと夏休み』 原恵一監督インタビュー 後編 原監督5年ぶりの新作 | アニメ!アニメ!

『河童のクゥと夏休み』 原恵一監督インタビュー 後編 原監督5年ぶりの新作

インタビュー

 
  •  
(インタビュー:2007年6月)


2.ジャンル分けをしない映画を考えた

アニメアニメ(以下AA)
前作を監督されてから5年という時間がありましたが、長いこと時間を持てたのはいいほうに回ったと考えていいのでしょうか?

原監督(以下敬称略)
結果的にですよね。5年ってよく言われるけれど5年間みっちり作っていたわけじゃないですよ。作れますという状態になるまでがものすごく時間がかかったので。結局、見切りでスタートして、ほとんど僕だけが一人で作業している時間が結構長かったんです。
今回の映画は、しんちゃんよりはたっぷり使えましたけど、それでも割と短い時間で作っているんです。作画スタッフはもっと作りこみたかったかもしれないですね。

今、アニメがこれだけ多いと、なかなかそういうわけにはいかないんですよ。主に原画ですけれど、優秀なスタッフはどこでも不足していて、アニメ大国とは言われていますが一部の優秀な人たちが方々で、それを支えているのが現実ですよね。優秀なスタッフが集められるかが一番心配な部分だったりします。

AA
その長い時間の作業で、最初に原作を読まれてから表現したかったものと、結果として出てきたものに変わったものはあったのでしょうか?


両方ですね。ずっと変わらずに、最初に思いついたものを使ったものもたくさんありますし、長い間に思いついたり、感じてつけ加えたものもありました。

AA  変わらなかったものにはどんなものがありますか?


最後のシーンは、かなり最初の頃に思いついたことです。
それと子供の思春期的な部分を描きたいというのもありましたよね。原作にはあまりない部分です。

AA  監督はこの映画を子供向けの映画に作ったと考えていいのでしょうか?

原 いや全然。そうは思っていないですね。

AA
それではこちらの認識が間違っていますね。子供向けなのに大人も楽しめるのはどうしてか聞こうと思ったのですが、そもそも誰にでも観られる映画というのが前提にあるわけですね。


誰でも観られる映画を目指したわけじゃないんです。そもそもそうしたジャンル分けをするのは止めようと思った。
何年も前に、『クレヨンしんちゃん』の映画を作っていた時に、やっと気がついたことなんです。そんな考えで作ったものはたいしたものじゃないんですよ。

ジャンル映画というのは、お金を出す人からしてみれば、こういう映画を作ればこういう人が観てくれるだろうと予想もつきやすいんでしょう。それが必ずしもあたるわけではないんですけれど、予想もつくじゃないですか。出来上がりもね。
そうして作られている映画がたくさんあるわけですよね。アニメにしても実写にしても。

AA  確かに多くの作品は、最初にターゲットがありきですね。


僕はある時、それはおかしいだろうと気づいたんですよ。お客さんに気づかせてもらったというのが大きいのですけれどね。しんちゃんの『オトナ帝国の逆襲』で。
あれは僕としては誰も受け入れてくれないだろうと思っていたんです。ただものすごく切実な気持ちで作ったので、個人的にはものすごく満足していたんです。ただしこれはみんなが喜ばないと。不快に思う人が多いんじゃないか。なんでそう思ったかというとジャンル映画でなかったからです。
それが口コミで大きく広がっていって評判になってくれた。自分で発見したわけではなく、そういう反応に気づかされたんです。

それで映画を作るのはジャンルやターゲットを定めて作るのはおかしいんだって思ったんです。そうでなくても何かを込めて作れば、何かが返ってくるんだということがわかった。それからは、なるべくそうした作り方をしようとなれたんです。

AA
『オトナ帝国の逆襲』のときにジャンル映画でなくしようとした時は、どんな気持ちから始めたのですか?


最初は困り果てていたんです。当時はもう何本も既に作っていて、次に何やるという時にやるものがなかった。実はいいかげんな気持ちでやり始めていたんです。
ところがやり始めてみるとあまりにもつかみどころのない作業になってしまい、そのなかで何とかしようという気持ちが生まれて、気持ちがどんどん変わっていった。僕にとってもものすごい大きな出来事だったんですよね。
いつもだったら、ある程度のパターン化したプランを作るんですが、そういうのが嫌になるくらい真剣になっていったんです。

AA
そういうときにしんちゃんのキャラクターの枠組みがある程度固まっていることに不自由は感じませんか?


両方あるんですよ。それが負担に思うときもあるし、ありがたいと思うときもあるんです。みんなが同じイメージを持っているキャラクターは、僕ら作り手も、このキャラクターならこうするだろう、こう言うだろうとかある程度しぼられてくるんです。

しんちゃんなら、ここでお尻を出すだろうと予測出来たりとか。限定されたキャラクターで何かすることは負担だとは思わない。そう思うこともあるんだけれど、それに助けられている部分もあるので。

AA
逆に、今回のキャラクターはかなり自由にできたと思うのですが、そのあたりの違いというのはあるのですか?


今回はそれがないところから始めたので思った以上に大変でしたね。絵コンテを描きながらキャラクターを育てていく必要があったので大変でした。この人は何を言ったらいんだろうとか、何したらいいんだろうと。

AA
先程、ジャンルを決めないという話があったのですが、監督はなぜアニメーションという手段を選ぶのでしょうか?アニメという表現はある意味、色眼鏡でみられている現実もあるのですが。


それしかできない、それしか知らないからですね。20何年間やってきましたから。
自分のやってきた蓄積を考えれば、当然アニメで作るというのがありました。何の疑問もありませんでしたね。

AA
今回の映画を観て驚いたのは、キャラクターが非常にリアルになっていたことです。
監督のこれまでの作品のキャラクターは、単純化された造形が多かったのですが、今回はリアルな造形を選ばれたのはなぜでしょうか?


今回はキャラクター作りもいちから自分で出来る仕事でした。長いことシンプルなキャラクターを仕事で使っていたので、そこから離れて今までやろうと思っても出来なかったキャラクターにしようとは思っていましたね。
逆に、リアルなキャラクターにすることによって制約をつけようと思ったこともあります。つまり、しんちゃんなら、大ジャンプや普通の人にはありえない動きをしてもいいんです。それは説得力があるわけです。今回はそういう言い訳をしたくなかったんです。

AA
冒頭に少し怖いシーンもあったのですが、子ども向けには躊躇はありませんでしたか?


確かにそうした指摘は周りからもありましたが、僕はそんなことを心配してもしょうがないと割り切っています。あのシーンはどうしても今回の映画に欠かせないシーンですから。
その後の人間と河童の関係について語られることをあのシーンで集約させたかったのです。あのエピソードも、初期に考えたものですね。

あのシーンを観た子どもが怖いと思ったら申し訳ないけれど、無理に幼児に観せようと思っていないので、これについては何の迷いもないですね。

AA
いろいろな人が観るアニメとしては、日本ではスタジオジブリの作品が代表的です。そうした作品を意識されることはありますか?



ライバル意識を燃やすほど僕は近くにいるとは思っていませんね。他の人を意識してもしょうがないわけですよ。
今も昔も思っているのですけれど、僕はあの人たちのようには出来ない。あの人たちほど、一生懸命にアニメーションは作れないと。だから僕は違う方向性に行くしかないとずっと思っていました。

AA
原監督の評価は世間ではとても高いのですが、そうしたことについてはどう感じられているのですか。


あまりないですよ。それが不愉快なわけでは全然ないですけれど、スタッフに話を聞いてもらえば分かると思いますが、僕があまりに怠け者なので、あきれていますよ(笑)
スタッフががんばるので、いつもなんとかなっている。

AA  みんなで協力するのがひとつのスタイルですか?


宮崎駿さんや高畑勲さんがすごいなと思うところは、スタッフに向き合う姿勢ですね。ものすごく高い要求で立ち向かうんですよ。僕にはその覚悟がない。
ある程度のところでスタッフ任せにするやり方を取っているので。それで作ったものを評価してくれる人がいれば、それが良かったということになるわけです。

AA  次回の予定はもう決まっていますか?


ありますけど、まだ何も言える状況じゃないし、何もしていませんね(笑)

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『河童のクゥと夏休み』
原作: 木暮正夫「かっぱ大さわぎ」「かっぱびっくり旅」より
脚本・監督: 原 恵一

【キャスト】
クゥ:      冨沢風斗
上原康一:  横川貴大
菊池紗代子: 植松夏希
上原保雄:   田中直樹(ココリコ)
上原友佳里: 西田尚美
クゥの父親:  なぎら健壱
キジムナー:  ゴリ(ガレッジセール)

【スタッフ】
キャラクターデザイン・作画監督/ 末吉裕一郎
美術監督/ 中村 隆
色彩設計/ 野中幸子
撮影監督/ 箭内光一
音楽/ 若草 恵
音響監督/大熊 昭
編集/小島俊彦
アニメーション制作/ シンエイ動画
題字/ 武田双雲
製作/ 「河童のクゥと夏休み」製作委員会
配給/ 松竹
(C)2007 木暮正夫/『河童のクゥと夏休み』製作委員会
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