1月7日、東京・全労災ホール/スペースゼロにて、ミュージカル『ニコニコ東方見聞録』の舞台が始まった。本作はニコニコ動画がプロデュースする「ニコニコミュージカル」の第2弾である。動画投稿・共有から始まり、いまや音楽アーティストのデビューの場、アニメの公式配信から経済・政治まであらゆる事象を飲み込みつつあるニコ動による異色の舞台公演だ。 第1弾はディケンズの『クリスマス・キャロル』を現代にアレンジし、ホリエモンこと元ライブドア社長の堀江貴文さんを主演とした異色作となった。強欲をテーマにした作品の主人公に敢えて堀江貴文さんを据えるニコ動特有の話題づくり満載の注目作となった。 第2作となった『ニコニコ東方見聞録』は、そのタイトルから判るようにミュージカルのテーマに「ニコニコ動画」を持ちこんだ。さらに現在ニコニコ動画で大きなムーブメントなっている「歌ってみた」から登場したカリスマ的な「歌い手」たちを出演に配置する。『クリスマス・キャロル』と同様、かなり話題づくりを意識していることが窺える。 ところが一旦舞台の幕があがると、本作がそうした戦略的なプロモーションと関わりなく、驚くほど骨太な物語であることに気づく。 主人公のポコタ(ぽこた)はイタリアに住むニコ厨(ニコニコ動画ファン)。彼の夢は日本に行きニコニコ大会議に参加すること。ところが天才科学者堀衛門(やまだん)に騙されてロケットで日本に到着すると、なぜか日本は100メートル四方しかない小さな島で、ポコタそっくりのハヤブサ(ぽこた二役)がニコニコ動画を乗っ取り独裁体制を敷いている。 ポコタと友人のダソク(蛇足)、繚乱(百花繚乱)は、それに対立するレジスタンス梅山トメ(野宮あゆみ)らとの戦いに巻き込まれる。やがて明らかになる真実とは・・・ ナンセスなストーリー、脈絡のない展開に、自虐ネタ、楽屋落ち、時事ネタとエンタテイメント満載だ。一方で、物語には明確なメッセージが盛り込まれ、最後にほろりとさせる落としどころも準備されている。ニコ動讃歌の側面が強いのは観ているとやや気恥しくも感じるが、そうした圧倒的なポジティブ志向が観て明るくなれるこの舞台の最大の持ち味なのだ。 そして、やはり見逃せないのが、ミュージカル音楽の魅力だ。公演は全部で7回、出演者も絞っており、ブロードウェイミュージカルのような予算があるわけでない。しかし、出演者たちの圧倒的な歌唱力は特筆ものだ。会員数1900万人のニコニコ動画の厳しい眼を経て頭角を現した「歌い手」たちのパワーに驚かされる。まさに、ニコニコ動画でしか出来ない舞台と言っていいだろう。 さらに、ニコニコ動画ならでは試みは、舞台のお客はシアターの観客だけでないことだ。本作はニコニコ動画を通じて有料配信もされている。劇中に設けられた様々な突っ込みどころが、ネットの向こうの観客も意識していることは間違いない。そして、視聴者によって書き込まれたコメントは、今度は舞台上部に設けられたスクリーンに映しだされる。単なる舞台でなく、中継でもない。シアターにいるのと、ネットで観るのと異なる経験が出来る。 ニコニコ動画は、今年1月に東京・原宿にライブエンタテイメントとその中継拠点ともなるニコニコ本社を立ち上げた。ネットの中で育ったカルチャーは、いまリアルの世界に飛び立とうとしている。それをまたネットにつなげることで、新しいかたちのエンタテイメントを作りだしている。『ニコニコ東方見聞録』は、そんなニコニコ動画の挑戦を象徴するような作品だ。『ニコニコ東方見聞録』 /http://info.nicovideo.jp/nicomu/tohokenbunroku/
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