クランチロールは海外アニメビジネスを変えるか(1)テレ東との提携の衝撃 | アニメ!アニメ!

クランチロールは海外アニメビジネスを変えるか(1)テレ東との提携の衝撃

レビュー そのほか

2009年スタートの国内海外同時配信は、コピー時代のアニメビジネスの救世主?

数土直志

■ テレビ東京とクランチロール提携の衝撃

 2009年1月8日から米国のアニメ動画共有サイトのクランチロール(Crunchyroll)は、日本で放映されたアニメ番組を番組放映終了後1時間で海外英語圏に有料で同時配信する。これはアニメ番組に強みをみせるテレビ東京との協業によるものである。
 同時配信のラインナップには現在『NARUTO 疾風伝』、『銀魂』、『スキッブビート』、『しゅごキャラ』、『続 夏目友人帳』などの人気作品が数多く含まれている。これまでも海外で日本のアニメの配信は行われているが、今回の日本での放映とほぼ同時というのは驚異的な早さである。

 こうした日本と海外での作品の同時リリースは、近年、今後の海外のアニメビジネスに不可欠と主張されてきたものだ。そして、必要だがなかなか難しいとも考えられてきた。それだけにアニメ業界での驚きは大きい。
 しかし、この試みには別の驚きもある。海外同時配信にテレビ東京が選んだパートナーが、クランチロールであることだ。もともと海外の同時配信の必要性は、海外アニメファンのニーズ以外に、正規の放送やDVD発売に先立って需要を先喰いするインターネット海賊版対策とされてきたからである。

 ところが、クランチロールは、テレビ東京との提携を発表するまで、自社動画サイトに権利者未許諾のアニメ番組投稿を容認してきた。権利者からの通報があれば削除するとの方針はとっていたが、実際にサイトのコンテンツの大半が、未許諾の日本アニメという状態が続いていた。
 1月8日からは権利者未許諾の投稿は全面停止すると発表したものの、インターネット海賊行為対策のためにインターネット海賊行為で成長した企業と手を組む奇妙な状況となっている。

 そうした事実が分かっていてさえ、テレビ東京、東映アニメーション、ポニーキャニオンといった日本の権利者の一部はクランチロールとの提携を決めた。
 それはクランチロールが現在、インターネットを通じてアニメ番組の配信を行い、より多くの海外アニメファンにアプローチ出来る数少ない手段を持つ企業だからである。同社が2008年に引き続き、2009年も海外で最も注目される企業のひとつであることは間違いないだろう。

■ ビジネスの鍵は『NARUTO』

 そうした関心もあり、アニメ!アニメ!では、2008年8月中旬と2008年11月の2回にわたり、クレンチロールのCEOであるガオ氏にインタビュー取材を行った。
 1回目の8月はクランチロールがまだ違法動画アップロードの容認を続け、投稿停止を表明していない時期である。また11月のインタビューは同社がテレビ東京との提携と違法動画のアップロードの停止を発表した直後である。

 この一回目のインタビューでは、ガオ氏にはかなり厳しい質問を行っている。アニメ!アニメ!の立場はこの時点で、クランチロールのビジネスモデルには全面反対であったから(*1)、同社の抱える権利問題については、かなり答え難い質問をしている。
 この際に違法動画の配信について、「出来るだけ早く、止めるべきではないか」との質問に、「問題は認識している。もう数ヶ月待って欲しい」とのことだった。そうした回答は得たものの、実際には数ヶ月以内という期間はあまり信じていなかった。

 この時点でクランチロールのビジネスモデルは、違法投稿のアニメ動画でアニメファンからのアクセスを得て、それをクランチロールが合法的にアップロードしたそれより人気のないコンテンツに誘導するものであったからだ。
 もし、違法動画を停止すればサイトのアクセスは激減し、クランチロールのビジネスの基盤となるアニメファンからの高いアクセスは維持できない。違法と分かりつつも、全面削除は出来ないというジレンマをクランチロールは抱えていたはずだ。
 
 結局、予想は良いほうに裏切られた。クランチロールは『NARUTO』という現在海外で最強の人気アニメの同時配信というコンテンツを得ることに成功した。どんな違法コンテンツよりも集客力のある合法コンテンツである。
 クランチロールは、これにより同社が抱えていたグレーな部分を取り除き、合法的なビジネスを行う企業となる。2回目のインタビューでガオ氏は、クランチロールのビジネスモデルは完全に変わったと説明した。動画投稿は最早クランチロールの主要事業ではなく、今後はライセンスを持つ番組の配信と同社が力を入れるネットコミュニティが中心になるという。
 クランチロールの変化は同社のことだけではなく、同社が変わることで海外のアニメビジネスにも変化が起きそうだ。過去数年盛んに主張されてきた海外ビジネスにおける日本と時差のない配信が、失速中とされる海外のアニメビジネスにどういった影響を与えるのかが確認出来るからだ。

/■ クランチロールの何が問題だったのか/■ アニメファンに送る誤ったメッセージ
/">■ ビジネスの矛盾が消えた後に何を目指すか/■ 有料配信の成果に注目

*当サイトでは違法配信を基盤にしたクランチロールのビジネスに全面反対の立場から、11月17日の違法投稿の全面停止の公表まで、同社から発表されたニュースリリースは扱ってこなかった。
《animeanime》
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