クランチロールは海外アニメビジネスを変えるか(2)何が問題だったのか | アニメ!アニメ!

クランチロールは海外アニメビジネスを変えるか(2)何が問題だったのか

2009年スタートの国内海外同時配信は、コピー時代のアニメビジネスの救世主?

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2009年スタートの国内海外同時配信は、コピー時代のアニメビジネスの救世主?

■ クランチロールの何が問題だったのか

 クランチロールは、2008年に海外のアニメ関連でもっとも話題を呼んだ企業であろう。そして、最も批判された企業である。これに対してネット上には違法な日本アニメのアップロードは他にあるとの反論がある。また、クランチロールは「著作者未許諾の動画アップロードはYouTubeやニコニコ動画も同じ、なぜ我々だけが非難されるのか」と反論していた。
 しかし、一番の問題は、クランチロールが違法コンテンツを基に企業化、ビジネス化を目指していたことである。特に同社が、シリコンバレーの名門ベンチャーキャピタル ベンロック(Venrock)(ロックフェラー系として知られる)から出資を受けたことが明らかになったことが大きかった。ベンチャーキャピタルからの出資の受け入れは、通常は株式上場を目指すもので、そうでなくても上場企業や大手企業に会社を売却する可能性が高い。
 つまり、クランチロールの創業者と社員は、違法コンテンツの積み重ねのうえに多額の利益を得る可能性が高くなった

 さらに産業界のそうした行動は、クランチロールが行っている違法な日本アニメのアップロード行為の容認を公に認めることになる。日本のアニメの権利者はあまり文句を言わないから、クレームがない限り何をやっても大丈夫との印象を残す。これは海外のアニメファンに間違ったメッセージを送ることになる。 
 現在多くのアニメビジネスの関係者が、インターネット上に違法にアップロードされるアニメを完全になくすことは出来ないことを理解している。しかし、それはあくまでも認められない行為というのを多くの人が認識していることが前提である。
 だからこそ企業は違法配信を利用しないでください、それは間違っています、正規に番組を視聴して下さいと言える。その前提が崩れれば、ビジネスは立ち行かなくなる。

■ アニメファンに送る誤ったメッセージ

 2000年代に入って英語圏の日本アニメの会社が一番頭を悩ませたのは、アニメファンが持つ違法コンテンツに対する誤った認識である。日本人の多くは驚くかもしれないが、海外のアニメファンの多くは自分たちが行う日本アニメの翻訳(ファンサブと呼ばれる)と違法なアップロードを日本企業が歓迎していると長く信じていた。
 そうした行為は日本のアニメの宣伝に役立つし、プレマーケティングに使える、単純にクリエイター達は作品をより多くの人に観てもらえればうれしいだろうとの主張である。

 こうした認識がファンサブの拡大の基盤となり、時には違法行為を訴える企業やクリエイター、個人に猛烈な批判が寄せられるなども起きた。過去数年で海外のアニメ企業は、自分達がこうしたことを望んでいないことを繰り返し主張することで、ファンの認識を変える努力を行ってきた。
 ところがクランチロールのサイトには、合法コンテンツ(初期にはGDH(GONZO)、2008年秋には東映アニメーションなどが提供)と違法コンテンツが同じサイトで視聴出来た。勿論、合法コンテンツに問題はない。しかし、そうしたコンテンツが違法コンテンツと並ぶことで、違法コンテンツまでもがあたかも正当であるかのように見えるのだ。
 
 そして、違法コンテンツが普通に存在するサイトに合法コンテンツが提供されることで、合法コンテンツを提供する企業が違法行為を容認しているとアニメファンが判断することは避けられない。
 一方で批判をしながら、やはり日本企業は、ファンサブを歓迎している、アニメファンはそう判断する。コンテンツの提供が、誤ったメッセージを発信していることになる。
 クランチロールは、一方で合法配信の新しいビジネスを創造しますと言いながら、違法投稿の容認で既存のアニメビジネスの基盤を破壊する矛盾した行動を取っていたともいえる。

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《animeanime》
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