夏休みになると、なぜか観たくなるアニメがある。青い空、照りつける太陽、蝉の声、夕暮れ時の少し寂しい空気――そんな「夏休み」の風景と一緒に思い出す作品のひとつが、『ひぐらしのなく頃に』だ。
竜騎士07/07th Expansionによる同人ゲームを原作とする『ひぐらしのなく頃に』は、昭和58年の夏を舞台に、山あいの集落・雛見沢村で起こる連続怪死事件を描いた作品。前半の穏やかでにぎやかな日常から一転、少しずつ不穏な空気が漂い始める独特の構成と、夏の田舎を舞台にしたホラーが大きな魅力だ。
特に印象的なのが、作品全体を包む「夏」の存在。蝉の声が響く昼間、古い家々が並ぶ集落、夕暮れの山道、そして夜になると一気に増す闇。明るく開放的なはずの夏休みが、ほんの少しの違和感によって恐ろしいものへと変わっていく。その感覚は、子どもの頃に夏休みを過ごした人なら、どこか懐かしく感じるのではないだろうか。
◆雛見沢”の風景を探して。白川郷への聖地巡礼

筆者自身、『ひぐらしのなく頃に』には少し特別な思い入れがある。というのも、アニメが放送されて間もない頃、作品の舞台・雛見沢村のモデルとなった岐阜県の白川郷を実際に訪れたことがあるのだ。
現地に着いてまず驚いたのは、画面の中で見ていた景色が、そのまま目の前に広がっていたこと。キャラクターたちが歩いていた道、暮らしていた家のモデル、そして作品を象徴する“あのシーン”が繰り広げられた場所……。アニメを観ながら何度も見た風景が、現実の世界に存在している。その不思議な感覚は、聖地巡礼ならではのものだった。

しかも当時、白川郷には自分と同じように『ひぐらしのなく頃に』を目当てに訪れているファンの姿もたくさんあった。劇中に登場する古手神社のモデルになった白川八幡神社を訪れると、絵馬にはキャラクターのイラストや作品へのメッセージが数多く描かれており、「私以外にもここまで『ひぐらし』が好きな人がいるんだ!」と喜びを感じたことを覚えている。当時はまだ作品の熱が冷めやらない時期だったこともあり、そんなファンの姿を見るのも楽しかった。アニメの中で見た景色を「ここだ!」と探しながら歩く時間そのものが、まるで自分も雛見沢を訪れているような特別な夏休みになった。

『ひぐらしのなく頃に』を観ていると、夏休みの楽しさだけでなく、子どもの頃には少し怖かった田舎の夜や、夕方になると急に心細くなるような感覚まで思い出す。だからこそ、暑い夏の日に観る『ひぐらしのなく頃に』は、今でもどこか特別なのだ。
◆田舎の夜に思い出す、“あの夏”の怖さ

ちなみに、このコラムを書いているのは、奇しくもお盆の真っただ中。私はいま、地元・石川県の実家にいる。石川県といっても金沢ではない。金沢から車で1時間ほど走った先にある、街灯もほとんどないようなド田舎だ。
夜になれば、外から聞こえてくるのは虫の鳴き声ばかり。家の明かりを消せば、窓の外は見事なまでの真っ暗闇になる。子どもの頃は当たり前だったこの景色も、大人になった今あらためて見ると、ちょっと怖い。
そんな暗闇のなかで、ひぐらしの声に耳を澄ませていると、ふと子どもの頃の夏がよみがえる。あの頃は、夕暮れまで外を走り回り、蝉の声を聞きながら家に帰った。怖いものなんて何も知らなかったはずなのに、夜の田舎には、どこか「何かが潜んでいそう」な気配があった。
そう考えると、『ひぐらしのなく頃に』が描いた“あの夏”は、決して遠い世界の話ではなかったのかもしれない。田舎の夏には、楽しかった思い出と同時に、子どもだからこそ感じ取っていた、説明のつかない怖さが確かにあったのだ。
そして2026年6月、TVアニメ20周年を記念した特番で、新作TVアニメーションが制作されることが発表された。前原圭一役の保志総一朗さん、竜宮レナ役の中原麻衣さんらメインキャストも続投し、アニメーション制作は初期シリーズを手がけたスタジオディーンが担当する。
20年の時を経ても、あの夏は終わらない。
今年の夏休みは、蝉の声を聞きながら、久しぶりに『ひぐらしのなく頃に』を観返してみてはいかがだろう。懐かしい夏の風景の向こう側に、きっともう一度、“雛見沢”が見えてくるはずだ。








