テレビアニメは年々その映像クオリティを高め、「劇場版のようだ」と評されることも少なくない。そんなハイクオリティ化が進む中でも、どの作品もこぞって力を入れているのが、毎週流れるOPとEDだろう。
ノンクレジット版がYouTubeにアップされ、PV同様に話題になりやすいOP・EDは、短尺ということもあり本編以上にクオリティが高い。また、ありきたりな構成を避けるためにコンセプトが重視され、演出家の作家性が出やすい場でもある。
今回はそんな“アニメの顔”とも言えるOP・EDについて、気鋭の演出家が手がける3作品をピックアップして紹介したい。
監督:ちな 『上伊那ぼたん、酔える姿は百合の花』OP「芽吹くとき」

若手演出家・ちなは、MV『でたらめな世界のメロドラマ』(音楽:クリープハイプ「凛と」)や『それを愛と呼ぶだけ』(音楽:まふまふ)などで4:3の映像表現を手がけ、また『薬屋のひとりごと』第2期第2クールOP「クスシキ」(音楽:Mrs. GREEN APPLE)では一人称視点(POV)を印象的に用いるなど、フォーマットや視点の実験的な映像構成で注目されてきた気鋭の演出家だ。
そうした試みの積み重ねが、本作『上伊那ぼたん、酔える姿は百合の花』(以下『上伊那ぼたん』)のOP「芽吹くとき」でひとつの形に結実している。
ひろしまアニメーションシーズンへのコンペ参加など、OP単独でも映画祭で評価されるほどの完成度を誇るこの映像は、8ミリフィルムのカメラで撮ったような質感を追求している。一般的なアニメで用いられる24fpsではなく18fpsを採用し、キャラクターがカメラを手に持って撮影したかのような手ブレが加えられている点も特徴的だ。
また、このOPにはテレビ放送で流れる通常版のほかに“完全版”が存在する。完全版ではアスペクト比が16:9ではなく4:3となっており、かつて普及したホームビデオ、8ミリフィルムに近い形が再現されている。『上伊那ぼたん』という作品自体が、酒やバンド、映画、旅行などカルチャーを愛好する女子大学生たちの姿を描くものであり、その延長としてこの8mm的映像表現は非常に自然な選択だと思われる。

さらにフィルムに直接傷をつけ、絵や文字を描線する“シネカリ”の手法も使われており、彼女たちの感性を映すような演出として機能している。TikTok風の自己撮影的映像は昨今よく見られるが、8mmテイストとシネカリ演出を組み合わせたOPは極めて珍しい。これは、8mmで自分たちを撮りそうなキャラクターたちが登場する『上伊那ぼたん』だからこそ成立した映像表現だと言える。

また、一見キャラクター視点で統一された“ホームビデオ”的映像だが、統一を崩さぬ範囲で演出的な技巧が仕込まれている。例えばサビの「ねえ」というシネカリの描き文字が歌詞とシンクロする箇所では、撮影技法もドリーズーム的な技巧がもちいられており、他のパートのような素人によるホームビデオ的な撮影とは違った印象を与える。全体の統一感から少しはみ出した演出を挟み込むことが、OPとしての鑑賞性と高揚感を生み出している。
キャラクター視点で統一された“ホームビデオ”的映像でありながら、統一を崩さぬ範囲で演出的な技巧が仕込まれているのも印象的だ。例えばサビの「ねえ」というシネカリの描き文字が歌詞とシンクロする箇所では、ドリーズーム的な撮影技法が使われ、他のパートの素朴な撮影とは異なる印象を生み出す。こうした“わずかな逸脱”が、OPとしての高揚感と映像的完成度を支えている。
◆オープニングテーマ
yonige「芽吹くとき」
作詞&作曲:牛丸ありさ
編曲:yonige
監督:山本健 『春夏秋冬代行者~春の舞~』OP「Petals feat. 夏背」

OP「Petals feat. 夏背」(以下「Petals」)は、本作の監督・山本健が自ら手がけた。山本は劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』で長編初監督を務めており、本作はテレビシリーズとしては初挑戦の作品となる。これまでに『86-エイティシックス』第2クール(以下『86』 音楽:amazarashi「境界線」)や『WIND BREAKER Season 2』(以下『ウィンブレ』 音楽:SixTONES「BOYZ」)などのOP演出を担当し、その構成力と映像表現で注目を集めてきた。またちなとも交流が深く、アニメファンタジスタジャパンのトークイベントで共演するなど、若手演出家の中でも特に注目される一人だ。
『Petals』においても、山本氏の特徴的な“後ろ姿の演出”が際立つ。『86』や『ウィンブレ』でも見られたように、風になびく髪や衣服を描きながら背中越しにキャラクターを捉え、表情を見せずに“立ち向かう姿”を印象づける。それによって、初めて表情が映るカットで感情の爆発を最大化する効果を生む。

OPが物語のテーマを象徴的に示す映像としても機能している点も秀逸だ。主人公の雛菊が“自分自身に手を伸ばす”カットは、誘拐事件を経て人格的に断絶した彼女の内面を象徴している。雛菊が雛菊へと手を伸ばしかける瞬間でカットが切り替わり、次に雛菊と従者・桜が手を繋ぐ場面へとつながる。この流れによって“二つの雛菊”の融和の可能性と、雛菊と桜の関係性をOPの中で明確に提示しているのである。
◆オープニングテーマ
Orangestar「Petals feat. 夏背」
作詞・作曲 : Orangestar
編曲:TAKU INOUE, 永山ひろなお, Orangestar
絵コンテ・演出:もああん『NEEDY GIRL OVERDOSE』ED「れびてーしょん」

もああんの演出による『NEEDY GIRL OVERDOSE』(以下、『ニディガ』)のED「れびてーしょん」(音楽:キタニタツヤ)。もああんは『明日ちゃんのセーラー服』第7話や『ブルーアーカイブ The Animation』ED(音楽:アビドス高等学校対策委員会)の絵コンテ・演出などを手がけた実績を持つ。さらに、『上伊那ぼたん』OPのちなと原画・作監として共演するなど、業界内でのつながりも深い。
アニメーターとしては繊細な日常芝居で評価される一方、演出家としては“窃視的アングル”と“主観的アングル”を併用した緻密な映像構成が持ち味だ。隠しカメラと目線カメラで作品を構成するという細田守の演出にも似た端正な演出は、『ニディガ』EDに驚くほどマッチしている。

OPは作中で「お前らみたいなドパガキはアップテンポな音楽のショート動画を流し見続けることで効率よく人生を楽しめよな」と自虐的かつ露悪的に言及するほどにアップテンポでハイテンションな曲だが、EDは対照的に驚くほど都市的な静寂さに焦点を当てる。

綿密にロケハンされたであろう無機質な街並みは、実写と見紛うほど写実的。そこに描かれるキャラクターの存在が、まるで実写映像に2Dキャラを合成したかのような違和感と美しさを生み出している。この手法は近年の『負けヒロインが多すぎる』ED「LOVE2000」(音楽:八奈見杏菜 (CV.遠野ひかる))や『サンフェーデッド』(音楽:初星学園)MVなどにも通じる映像トレンドだが、『ニディガ』EDでは背景をあくまで“描画”として処理することで、その融合を独自に成立させている。
彩度を抑え明度によって構成することでモノクロ実写映像に近づけた色彩や、手ブレとズームを多用し実際に撮影した映像を使っているように感じさせるカメラワークが、これらの実写映画的な質感を実現しているのだろう。
『上伊那ぼたん』が「キャラクターによる撮影感」をアニメで実現していたのに対し、『ニディガ』EDは「実際に撮られた映像にキャラクターが張り込まれている2Dと実写を組み合わせた映像」のような質感をアニメーションとして再現しており、技術的にもコンセプト的にも興味深い。
1分半という短い尺の中で、演出家の作家性が凝縮されるOP・EDは、今や本編と並び語られるべき表現領域だ。ちな氏、山本健監督、もああん氏らは実力派でありながらまだ若手で、今後さらに多方面での活躍が期待される。彼らが次にどんな表現を見せてくれるのか――今回紹介したこれらのOP・EDは、やがてその“作家性の原点”として語られる日が来るかもしれない。









