劇場版「呪術廻戦」揺るがぬ信念をつらぬく夏油の妖しい眩しさ | アニメ!アニメ!

劇場版「呪術廻戦」揺るがぬ信念をつらぬく夏油の妖しい眩しさ

敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第18弾は、『呪術廻戦』よりの魅力に迫ります。

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    アニメやマンガ作品において、キャラクター人気や話題は、主人公サイドやヒーローに偏りがち。でも、「光」が明るく輝いて見えるのは「影」の存在があってこそ。
    敵キャラにスポットを当てる「敵キャラ列伝 ~彼らの美学はどこにある?」第18弾は、『呪術廻戦』より夏油傑の魅力に迫ります。

信頼できる人と、善人はイコールではない。

『劇場版 呪術廻戦 0』で主人公たちに立ちはだかる敵役、夏油傑を見ているとそう思う。

夏油は危険人物だ。しかし、信頼に値する人物でもある。少なくとも彼は自分の信念に嘘はつかない。かつて呪術師として、五条悟とともに人々を守る立場にあった夏油は、100人以上の非術師(一般人)を殺し、呪術高専を追放された。非術師を「猿」と読んで蔑み、呪術師という強者だけの世界を作ろうとする夏油は、強い呪術師にはたとえ敵であっても敬意を持って接する。一言で言えば「弱肉強食」の価値観を彼は信じている。

なぜ、彼は強く自分を貫くことができるのだろうか。それは、彼は自分の生き方を、自らの意思で選んだという強い自覚があるからだ。

※以下、ネタバレがありますのでご注意ください。

『劇場版 呪術廻戦 0』キービジュアル(C)2021 「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会 (C)芥見下々/集英社

強者は弱者を守るものという正論

夏油傑は、かつては呪術高専の同級生、五条悟とともに、弱い者のために戦う人だった。「弱い奴等に気を使うのは疲れる」と愚痴をこぼす五条に対して、夏油は「弱気を助け強気を挫く」ために呪術はあるんだと言う。「大いなる力には大いなる責任が伴う」と、あるヒーロー関係者は言ったが、夏油はまさにそれを生真面目に信じていたのだ。

しかし、とある事件をきっかけに、夏油の弱者に対する考えが揺らいでいく。夏油は極端にピュアな性格ではなく、弱者には醜い部分もあると知っていた。知った上で彼は弱い者を助けるために戦うことを良しとしていた。

だが、わかっていても耐えられない時はある。想像を超える醜さを目の当たりにして、彼の醜さの許容限度を超えてしまったのだ。

それでも夏油は、一足飛びに道を踏み外したわけではない。「弱者故の尊さ、弱者故の醜さ。その分別と受容ができなくなってしまっている。非術師を見下す自分、それを否定する自分」との間に揺れ動き続ける。自己否定を含む悩みを抱えるのは苦しいことだ。それでも彼はその苦しみを正面から受け止めるような真面目な人間なのだ。

真面目であるが故に、夏油は、どうすればこの世界から呪いがなくなるのかも真剣に考えてしまう。

「呪術廻戦」第11話先行カット(C)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会

『呪術廻戦』の世界では、呪いは人の負の感情から生まれる。呪いが集まって呪霊となり、またさらに人を苦しめるといった形で、負の感情は連鎖していく。術師は呪いをコントロールできるので呪いを外に漏らさずにすむため、全人類が術師になれば呪いは発生しないと聞いた夏油は、非術師を皆殺しにすれば呪いがない世界が実現できると知ってしまう。

呪術高専でせっせと呪いから人を助けても、一握りの者しか救えないし、弱者がいる限り負の感情は生まれ続けるので、いつまで経っても本当の救いは訪れない。ならば、本当に人々の救済を考えるなら、そういう状況そのものを変えなくてはおかしいではないか。

こうして、彼は非術師を殺し呪術師だけの世界を作ることを目指すようになる。

夏油の考えの変化は、典型的な「闇堕ち」に感じられるかもしれない。しかし、夏油からすれば「堕ち」てなどいない。

なぜなら、彼は、このような考えを、熟考したうえで自ら選択したのだ。呪いが生まれる世界をなんとか改善させようと彼なりに結論であり、堕ちたどころか前進しているのである。それは、いささか極端な前進だったが、少なくとも、いつまでも呪いが生まれ続ける世界の構造そのものを彼は憂いているのだ。

『劇場版 呪術廻戦 0』夏油傑(C)2021「劇場版 呪術廻戦 0」製作委員会(C)芥見下々/集英社

夏油の特筆すべきダブルスタンダードのなさ

夏油の言動はとても一貫性がある。彼の思想はイカれたものに見えるかもしれないが、強烈な信念に基づいているため、損得勘定だけでは動かないし、自己保身にも走らない。

夏油の目的は呪術師だけの世界を作ることなので、たとえ敵だろうと呪術師をむやみに殺さない。そして、非術師は、たとえ自分の肉親であっても例外とせずに殺す。彼の言動には驚くほどダブルスタンダードがない。

彼には揺るがぬ信念がある。そして、その信念は自らが選んだという自負がある。だから、彼はブレないでいられるのだ。

夏油は、不幸な体験を目の当たりにしたことで、弱者を守ることの正当性に疑問を持ってしまった。だが、彼は決してそれを自らの境遇のせいなどにはしない。

夏油は、『劇場版 呪術廻戦 0』の主人公、乙骨に対して「自己肯定は生きていく上で大事なこと」だと言う。彼は自分の決めたことはイカれたことだと十分わかったうえで、その結論に達した自分を肯定している。それが自分の生き方だと自負できるようになるまで考え抜いて決めたのだ。

自分で体験し、悩み、苦しみ、考え抜いて己の生き方を決めた人の生き様は、どこか眩しく見える。周りに流されて善人をやっている人間よりも、自らの信念を貫く悪人の方が信頼できることもあるのだ。

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《杉本穂高》

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