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『八男』は、貧乏貴族の八男・ヴェンデリン(ヴェル)として異世界に転生してしまった元サラリーマンが活躍するファンタジー。貴族社会のしがらみやお家騒動などに巻き込まれながらも、自力で人生を切り開いていく物語が見どころだ。
ヴェル役の榎木淳弥はアフレコを振り返り「最終回も含め、あえて意気込まなかった」と語る。貧乏貴族の八男から自立をしていく役どころは、やもすると肩に力が入ってしまいそうだが、なぜ自然体で演じきることを選んだのだろうか。
その背景には榎木のアフレコに対する姿勢や、ヴェルならではの価値観があった。
本稿では榎木とともにTVシリーズを振り返りつつ『八男』で印象深かったエピソードや、役との向き合い方をうかがった。
[取材・文=ハシビロコ、撮影=Fujita Ayumi]
■特別な意気込みはあえて持たない
――『八男』の収録は、第1話放送前にすでに全話録り終えていたそうですね。けっこう前になりますが、さかのぼって今でも忘れられないアフレコのエピソードはありますか?
榎木:『八男』のアフレコは2019年末に終わりましたが、西明日香さん(エリーゼ役)と三村ゆうなさん(ルイーゼ役)の元気さは今でも印象に残っています。
とくに西さんが演じているエリーゼは清楚なキャラクターなので、本人の元気さと良い意味でギャップがありました。
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ガヤの収録では、2人が男性役を演じることもあって、下野紘さん(エルヴィン役)が少し離れた場所からツッコミを入れていたんです。休憩中も、作中でヴェルたちが組んでいるパーティのような賑やかな雰囲気がただよっていました。
――最終回のアフレコは、いよいよクライマックスということで普段とはまた違った意気込みで臨みましたか?
榎木:特に変わらず、最終回のアフレコも「リラックスして臨もう」といつも通り演じていました。
『八男』に限らず、アフレコにはいつも特別な意気込みを持ちこまないようにしているんです。僕自身の感情は、役を演じるうえでは関係ない。
むしろ意気込むと今までの演技と変わってしまいますし、役は普段通りなのに僕だけが気合を入れてしまうのは少し違う気がします。
とくにヴェルは余計な力が入っていないキャラクターなので、作り過ぎず、自然体で演じようと思っていました。
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――たしかにヴェルが戸惑ったり空回ったりしていたのは異世界に来たばかりの頃だけでしたね。
榎木:異世界に来たばかりのヴェルは、現代世界の尺度で物事を考えていました。でも転生後を幼年期から過ごしていたので、現代の人間よりも異世界の人間の価値観に近づいていったのかもしれません。(注:幼年期のヴェルを演じたのは石上静香さん。榎木さんは転生前のサラリーマン・一宮信吾と12歳以降のヴェルを演じる)
もしヴェルのように自分の見た目が若返ったら、精神も身体に合わせて若くなってしまうと思うんです。お芝居で衣装を変えて別の人になりきるように、普段とは別の側面が出てくる。
現代の記憶や価値観も意識しつつ、「見た目が変わったことで新しい人間として生まれ変わっているのかもしれない」と想像して演じていました。
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たまに現代人らしくない反応を見せるのも、精神を異世界の身体に合わせた結果なのだと思います。
――榎木さんも衣装によって、その日の気分や仕事への意識が変わるときはありますか?
榎木:そうですね。だからヴェルも、あれだけ見た目や衣服が変わればずっと現代と同じ精神ではいられないと思いました。
ちなみに今日の衣装は、このあとすぐ配信を控えている『声優と夜あそび』の雰囲気に合わせて、あえてチャラそうな服を選んでみました。これは私服で、普段使いづらい服で着る機会がまったくなかったのですが、今回ようやく着ることができました(笑)。
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