シリーズ20周年記念作品となる本作を手がけたのは、自身もデジモン世代である田口智久監督。
「自分が今デジモンを作るのであればこれがベスト」と語る田口監督。本作に込めた想いや、予告映像公開とともに話題となったTVサイズの「Butter-Fly」オリジナル版起用の理由をうかがった。
[取材=江崎大、ハシビロコ/文=ハシビロコ]
■太一たちを動かすことにプレッシャーを感じた
――まずはデジモンシリーズの原体験からお聞かせください。
田口:『デジモンアドベンチャー』と『02』は中学時代にリアルタイムで見ていました。
とくに『02』は僕自身が思春期だったため、子どもたちのリアルな悩みが描かれていてハッとさせられるエピソードが多かったです。
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田口智久監督
『tri.』はアニメ業界に入ってから見た作品なので、ファン目線というよりはクリエイター視点で見ていました。高校生の太一を描くなどチャレンジングな内容が詰まっていましたね。
中でもキャラクターデザインを手掛けた宇木(敦哉)さんの絵が印象に残っています。2010年代のアニメとしてデジモンをアップデートするうえで最適な絵柄だと感じました。
――『tri.』第6章のラストでアグモンが「劇場でまた会おう」と言っており、を期待するファンも多かったと思いますが、満を持して公開される『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』ですが、企画自体はいつごろから動いていたのでしょうか。
田口:木下陽介プロデューサーの話によると、『tri.』第5章の制作時にはすでに企画が動き始めていいたようです。第6章の完成前に僕やシナリオの大和屋暁さんに声がかかりました。
――監督自身もデジモンファンとのことですが、本作には“監督の見たかったデジモン”が詰まっているのでしょうか。
田口:ファンとしての自分が見たかったデジモンというよりは、『tri.』も踏まえて自分が監督として今デジモンを作るのであれば、これがベストな物語だったと感じています。
それにしても20年後に太一たちを自分の手で動かすことになるとは……。別のキャラクターだったら、ここまでプレッシャーは感じていなかったと思います。
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■ただ命の危機を描いてもピンチにはならない
――監督として『デジモンアドベンチャー』シリーズを見返すと、以前とは見方が変わりましたか?
田口:太一たちが歩む人生を考えるための手がかりを、歴代シリーズから探りました。なにしろ20年の重みがあるキャラクターたちなので、『02』の最終回で描かれる未来に至るまでの過程をきちんと考えなければなりません。
スーパーバイザーとして『デジモンアドベンチャー』初代プロデューサーの関弘美さんに入っていただけたのは心強かったです。「太一は大きくなったらこうなっているに違いない」など、キャラクターの人生をかなり詳細にまとめてくださいました。
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それでも物語を組み立てるときに苦労した点もあって……。太一たちが夢をかなえるまでには、きっと事件であったり悩みであったりさまざまなことがあると思います。
ただ、どんな物語にしてもファンは『02』の最終回を思い浮かべてしまうので、たとえば太一が命の危機にさらされる展開を描いたとしても「どうせ生き残るから大丈夫」と危機感がそがれてしまう可能性がありました。
僕が子どもの頃にくり返し見ていた『ドラえもん』の映画もそうですが、キャラクターが生き残ることがわかっている作品は、ピンチをピンチとして見せるのがとても難しい。
大和屋さんとシナリオについて話しているときも「何をやっても彼らは平気だからなあ……」と頭を悩ませました。
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だからこそ、戦い以外のところに重きを置こうと。大人になった太一たちのどのような側面を描けば映画として成立するかを考えました。
ただ単に悪いヤツを倒して事件を解決する展開にした場合、大人になった彼らが立ち向かう状況としてはリアリティーに欠けてしまうし、小学生の頃にやっていたことをぶり返しても、映画として作る意味はあまりない。
そこで、デジモンがいる生活を送ってきた彼らが自分自身と向き合い、そこから未来に向かっていくような話であれば描く意味があるだろう、と方向性を決めました。
――本作にはオリジナルキャラクターや新たなデジモンも登場しています。設定でこだわった部分はありますか?
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メノア・ベルッチ
オリジナルキャラクターのメノアは、太一との対比を意識して作りました。
未知のデジモンであるエオスモンも明確なモチーフを決めて作っていきましたが、あまり語るとネタバレになってしまうのでぜひ本編で確かめてほしいです。
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