「他人が好きなものをディスらない」でオタク文化はより豊かに。宇垣美里×荻上チキ【インタビュー】 2ページ目 | アニメ!アニメ!

「他人が好きなものをディスらない」でオタク文化はより豊かに。宇垣美里×荻上チキ【インタビュー】

アニメ好きが高じてTV番組でコスプレを披露し話題を集めたアナウンサーの宇垣美里さん、アメコミをはじめとするオタク文化に詳しい荻上チキさんにインタビュー。サブカルチャーに対する理解と今後の展望について語っていただきました。

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■“地雷を踏まない”がオタクの礼儀作法に?


――お仕事上、おふたりは趣味の話を求められる場面も多いと思います。趣味を語るときに弊害を感じるようなシーンはありますか?

宇垣:弊害とまでは感じていませんが、自分の趣味を言いたくない人はいますね。アニメのことも私のことも理解しないまま、「とりあえずオタクなんでしょ?」と雑な理解でコミュニケーションを図ろうとしてくる人に対しては、どうしたらいいのか分からなくなります。
そういう人には、もうわざわざ言わないようにしています。


荻上:「オタクはこうだ」と勝手なステレオタイプをぶつけてくる人がいますが、アプローチとしてかなり悪手ですよね。アニメだけでなく、これはどんなカルチャーにも起こり得る現象です。
僕の番組にも毎回ゲストが来てカルチャートークをしてくださりますが、相手の良さを引き出すために丁寧に話を聞くことを心がけています。

けれど同じ趣味を持つオタク同士の会話というのは、その対極にあるようなコミュニケーションで、「あの映画を見た?」「見たよ……!」とこれだけで分かり合える。これはコンテンツがコミュニケーションのコネクタの役割を果たしている。

宇垣:一方で、同じ趣味でなくても、相手が好きなものを嬉しそうにしゃべっているのを楽しく聞けることもあります。それはオタク要素を持つ者同士であれば分かるんじゃないかなと。

荻上:たしかに、その人が熱く語っている姿そのものが面白くて、そこから作品に興味を持つことも多いですよね。

僕のペンネームはマンガ『げんしけん』に登場するキャラクターの荻上千佳から取っているのですが、この作品には「オタクだから、恋をした」というキャッチコピーがついていたんです。
オタクが集まる大学サークル「げんしけん」は、荻上の加入を機に雰囲気がどんどん変わっていきます。古典アニメのセリフを引用しながら、非コミュ・非モテなコミュニケーションするグループが、ネットに長けていき、恋愛も当たり前にするようになり、就職もし、旅行なども楽しむようになる。

「オタクと恋」という、縁遠いとされてきたものの壁が作中で取っ払われたように、各個人が別々のカルチャーを持ち寄るコミュニケーションが当たり前になっていく過渡期を描いたわけです。

相手のカルチャーを楽しめるということは、見方を変えると、その人はストレスのリスクを負ってでも一緒にいたいと思える相手ではないですか?


宇垣:そうですね。むしろ私は、「そうじゃない人とは、関わる必要ってあるの?」とすら思ってしまう。それは個人を否定しているわけではなくて、人間同士だからこそ、合わない対象やタイミングがあるのは当たり前なんですよ。

荻上:その通りです。

今Netflixで見られる『ストレンジャー・シングス』というドラマがあって、80年代のアメリカのNerd(ナード)、いわゆるオタクたちのストーリーなんですね。

この作中で、オタクたちはそれぞれにカルチャーを楽しんできたけれど、同じようなオタク、つまり仲間がいたと知ったとき、会話が溢れ出てくるんです。
それまで一人で、もしかしたら孤独を感じながらコンテンツを摂取してきたのかもしれません。黙々と蓄積してきた視聴体験が、ようやく強いコネクタとして機能した瞬間だったんです。

それは、そとから見たら不気味で一方的なコミュニケーションに見えるけれど、当人たちは作品で通じ合う。作品に居場所を見出した人たちの共振が根底にはあると分かるから、ちょっとしたサインやオマージュに、余計に視聴者はグッときてしまうんですよね。


――現代はSNSの台頭もあり、コンテンツを共有するのは容易になりましたよね。もちろんアプローチの仕方はきちんと考えるべきですが、少なくとも選択肢には溢れています。

荻上:そうですね。なので、もしコンテンツを語る相手の少なさに生きづらさを感じていても、そこを苦に感じる必要はないと思っています。
いずれ仲間に出会える可能性は切り拓けるんです。

けれども、開放的なコミュニケーションが苦手な、いわゆる「ウェーイ」できないタイプの人は自分も含めてたくさんいるし、SNSひとつとっても特長は様々です。
息苦しく感じる理由が何かによって、共有の方法を選択したいですよね。

――そういった自分が好きなコンテンツを他者と共有するときに、気をつけるべきことはありますか?

荻上コンテンツの共有を楽しむときに気をつけたいのが、相手のコンテンツ、つまり「相手の生きづらさ」に無理解になってしまうこと
自分に好きなコンテンツがあるように、相手にも好きなコンテンツがあって、同時に踏んでほしくない地雷もあるんです。

踏まれるのは嫌だから自分も踏まないようにするという、相手を尊重する“踏まないセンサー”みたいなものは持っておきたいですね。

■コスプレすることで価値観の壁が壊れた


――宇垣さんはお仕事を介して初めてコスプレをされたんですよね。やってみてどんな発見がありましたか?

KATEのオリジナルキャラクター「黒の魔女 Obsidian -オブシディアン-」に扮する宇垣さん

宇垣:そもそもコスプレという嗜好は、私のこれまでの人生になかったんです。偏見があったとかではなく、単純にその発想がなかった。

荻上:楽しみ方のレパートリーが違ったと。

宇垣:でもやってみたら楽しかったし、やる人の気持ちも分かりました。「こうやって愛情を表現する人が、私の知らなかったところにたくさんいたんだ!」と気づきました。

荻上:やってみると想定外の理解が得られることってありますよね。そこには固定概念や価値観の壁が壊れる体験があります。

僕も最近コスプレをはじめたんです。「スパイダーマン・ノワール」というアメコミヒーローの衣装をつくったんですけど、すごく学びが多かったです。

荻上さんのスパイダーマン・ノワールのコスプレ姿

荻上:着こなし、動きやすさ、着たら匂うということ……誰にも言えない状況でスーツを洗濯して、自分で干しているスパイダーマンの気持ちが実感できました(笑)。

コスプレがキャラクターを理解するためのツールになるというのは、僕にとって新しい発見でしたね。


→次のページ:大人になってから出会えた「解釈する楽しみ」や「理解できる喜び」
《奥村ひとみ》
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