脚本を書いている段階から、ぼんやりと役者のイメージがあったという中島。その中島の提案で、「独特のリズム感を持つ中島脚本に慣れている人に演じてもらいたい」と、キャスティングを決定した今石監督。
アニメ!アニメ!では、クレイ・フォーサイト役の堺雅人、今石洋之監督、中島かずきの3人による鼎談インタビューを実施。堺は内なる炎を秘めたクレイをどう演じたのか? そして今石監督、中島が語る「芝居の圧に心震わせた」という壮絶なアフレコ現場の模様とは――。
[取材・構成=中村美奈子/写真= HitomiKamata]
■知性と暴力性を両立させる、堺雅人の役者力
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――中島さんは前回のインタビューで、脚本を書いている段階で、クレイのイメージが堺さんになったと発言しています。具体的に堺さんのどんな部分がクレイのイメージと合致したのでしょうか?
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中島:クレイはすごく理知的な人物に見えるけれど、内にものすごい狂気を抱えているという芝居を想像したんです。そのときに、抑制が効いてクールで理知的な振る舞いから、ポンと弾けて感情が吹き出すテンションまでの芝居が、堺くんらしいなというイメージがありました。
――今石さんは、役者としての堺さんにどんな印象を抱いていましたか?
今石:劇団☆新感線の『蛮幽鬼』で堺さんが演じたサジを観て、すごくアニメっぽいなと思いました。キャラクター設定も含めて。
中島:「常に笑いながら、人を殺す人」というのを体現しているよね。
今石:「喜び」と「殺意」というまったく別の感情が、ひとりの人間の心に同時にあり続けているというキャラクターは、マンガやアニメの中ではわりとあるのかもしれませんが、生身の人間がそれをやるには、どうしても感情が途切れてしまうだろうから、実現させるのは難しいと思っていたんです。
ところが、堺さんのサジは見事にそれをやってのけたうえに、説得力を持って存在し続けていて。「アニメが人間になった! 堺さんってすごいな」と思いました。
だから中島さんのキャスト案に賛成でしたね。ただ、本当に実現するかわからなかったので、とりあえずオファーをしたら、快諾していただけたので「ヒャッホー♪」でした。
堺:僕は、かずきさんが「堺で」とおっしゃったと伺ったので、うれしくてついやっちゃいました(笑)。
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――オファーを受けた決め手はなんでしたか?
堺:『蛮幽鬼』の舞台に出ていたときに、お客さんが喜んでくださっているのがすごくよくわかったんです。舞台に立つと、作品が放つパワーがお客さんにひしひしと染みこんでいくというか、突き刺さっていくのが、伝わってくるんです。
しかも、僕が台本を読んだときや稽古でやったときよりも、もっともっと強く突き刺さっている。それは、僕の理解を超えた“なにか”なので、そんな現象を起こしてしまうかずきさんはすごい人なんですよ。
だから作品どうこうではなく、「この人の遊びに混ぜてもらえたら、お客さんに喜んでもらえるんじゃないか」という確信が、僕の中で勝手にあって。『プロメア』にもきっと、僕がわからない“なにか”があるだろうから、「やります」と即答しました。
中島:それは光栄だな。
――堺さんは、『天元突破グレンラガン』や『キルラキル』など、おふたりのアニメをご覧になったことはありますか?
堺:ないです。あえて観ないでいこうかなと思って。
中島:アニメ自体も観ないよね?
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堺:観ないです。アニメもドラマも、フィクションが苦手なんです。
中島:フィクションが苦手なのに、なんで役者になろうと思ったの?
堺:以前、中学時代の自由研究で、誰が何を研究してたか、調べたことがあるんです。なんとなくみんな現在の職業と似たようなテーマを選んでて、おもしろかったんだけど、僕はいろいろな昆虫の巣作りを観察してた。多分僕は、演技というよりも、与えられた状況のなかで“巣を作る”作業がすきんなんじゃないかと最近思っています。そこに“根を張る”行為というか。
役者の仕事は、監督や脚本家が作った作品世界の中で、自分の役の居場所をつくり、生きていく作業のような気がします。虫の巣作りに似た感じがして好きなんです。
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――声だけの芝居になると、実写や舞台と違って表現の幅がある程度決められてしまうということはありませんか?
堺:その「幅」がよくわかっていなくて。『プロメア』は、「そういえばこれ、声だけなんだ」と途中で気がついたくらい(笑)。
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