アニメ評論家・藤津亮太が語る“インタビューの極意” 質問や事前準備も「シミュレーションが大事」 2ページ目 | アニメ!アニメ!

アニメ評論家・藤津亮太が語る“インタビューの極意” 質問や事前準備も「シミュレーションが大事」

アニメ評論家として数々の実績を持つ、藤津亮太さんに「インタビューの極意」について伺った。知ることでインタビュー記事がもっと面白くなるプロのテクニックとマインドとは?

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■インタビューとは「共同作業で作り出す会話」


――それでは続いて、実際にインタビューをするうえでのお話を教えてください。当日はどのようにインタビューに臨まれるんですか?

藤津:インタビューする30分くらい前に事前準備した情報を元に質問項目を5、6個にまとめたインタビューメモを作り、頭の中でインタビューの流れをシミュレーションしています。
最初の質問は何にするか、とかですね。

――最初の質問を何にするかは悩むポイントですよね。今回の声優インタビューではどうされていましたか?

藤津:普通に考えると第一声は「声優になったきっかけは?」ですが、これはありきたりだし相手も何度も聞かれているはずです。
でも読者の中には初めてその話を知る方もいますから、記事には必要な情報です。また、既によく知られているエピソードであっても、インタビューで聞いていないことを書くわけにはいきません。

――相手は話したくないけど、インタビュアーとしては聞く必要がある。難しい状況ですね。実際どうされたんですか?

藤津:これは小黒祐一郎(「アニメスタイル」編集長)さんが使われていたテクニックなんですが、一般的に知られていることや語り尽くされていることは「○◯さんのデビュー作は◯◯で、その時こういうエピソードがあったんですよね」というふうに自分から言って確認してしまうことです。

――なるほど、それなら一歩先の地点から話ができますし、前段の基本的なことも記事に書けますよね。

藤津:このように、相手の気持ちや立場を考えて「こういう風に話を切り出せば相手は面倒くさくないだろうな」「話が弾むだろうな」とシミュレーションをして、それを質問項目メモとして書き出しておく。

時系列に沿って話を聞くのは聞かれる方も思い出しやすいのでいいんですが、ありきたりになってしまいがちです。最初からありきたりだと、相手も「またこの話をしなきゃいけないんだ……」と飽きてしまったり、不安になってしまったりするかもしれません。

今回のインタビューでは最初に直近の作品やエピソードについて伺い、その後に過去にさかのぼって時系列に戻すという流れを意識しました。
この過去にさかのぼる時に、「何を起点としてさかのぼるか?」という部分にもシミュレーションが必要です。

――話をどう展開して次の話題に進むかを考えるわけですね。

藤津:「話は過去にさかのぼりますが……」と一旦話を切ってしまってもいいんですが、できれば流れはあったほうが話は弾みます。
この後「音響監督の話にいくか? それとも一気に過去にさかのぼるか? それならその間に何を聞いておくべきか?」などを考えます。

記事にするうえで最低限必要なことはインタビューメモとして手元に置いてあるので、もし流れを見失った場合はメモの質問に戻ればいいわけです。

――今回の声優さんへのインタビューでも、そういった工夫が活きた場面はありましたか?

藤津大谷育江さん(『ポケットモンスター』ピカチュウ役や『名探偵コナン』円谷光彦役など)のインタビューの時、最初に対面した時「新鮮な話ができるかしら……」とご不安を持たれていたようなんですよね。
ですがシミュレーションを元に流れを工夫したことで、終わった時には「楽しかった」と言っていただけました。

――確かに、大谷さんには誰もがピカチュウや光彦の話を聞いてしまうと思います。どういった工夫をされたんですか?

藤津:大谷さんは海外ドラマの『フルハウス』の吹き替えでステファニーという主要人物をずっと担当されているので、聞かれたことが少なそうなそういった役についてお話を伺いました。
また、時系列に沿って話すのは何度もされているだろうから、今回はキャラクターごとにお話を伺うようにしました。

ピカチュウや光彦についてももちろんお話を聞く必要があるわけですが、単にそれぞれ聞くのではなく「ピカチュウは長く演じられている役ですが、同じく長く演じられているキャラクターといえば光彦もありますよね」といった風に、”長く演じている”という共通点でブリッジをかけるようにしました。
そうすると単に光彦について、ではなく、ピカチュウとの共通点や相違点なども話すイメージができますし、内容も自然と膨らみますよね。それが会話だと思うんです。

――単にキャラクターごとに切り分けて聞くより自然な会話になりますね。

藤津時系列に聞けばこういったブリッジを作りやすいのでやはり基本ではあるんですが、要はトピックとトピックの間に流れがあればいいので、必ずしも時系列である必要はないんです。
逆に時系列に聞くにしてもブリッジがないと「では、次の作品について話してください」と、尋問みたいな雰囲気になってしまいます。
学生インタビューなどではよくやってしまうのですが、これでは会話ではありませんよね。
「どうすれば会話になるのか?」を考えるのがシミュレーションなんです。



――藤津さんの考えるインタビューとは会話であり、相手のことを考えること、なんですね。

藤津:そうだと思います。
「インタビューは勝負だ」という考え方もありますし実際そういう現場もあるのですが、アニメ記事のインタビューであれば、多くの場合、インタビューは会話を紡ぐための共同作業であるべきだと思います。
相手の方はそう思っていないこともあるかもしれませんが、少なくともインタビューする側は一緒に作り上げていくようにすべきだと思います。一方的な共同作業、ですね。

――共同作業という点で、そのほか意識していることはありますか?

藤津:今回の声優さんへのインタビューであれば、僕はその人の人生の一貫性や芝居において大事にされているコンセプトなどが最後に浮かび上がってくるようなものになればいいな、と思ってお話を聞くわけです。
こういったことはインタビューの前には口にしませんが、会話を通じてご本人も「あ、自分はこういうことを大事にしてきたんだな」と思えてくる。それを一緒に作ることがインタビューの目指すべきゴールだと思うんです。

インタビューという限られた時間の中で「つまらなかった」ではなく「楽しくこれまでを振り返ることができたな」「発見があったな」と思ってもらうことを目指して会話をしていく。それが理想のイメージです。


■話者の論理を整え、読者が飽きない設計をする


――インタビューを終えたら、次は実際に記事として執筆する段になります。原稿を書くうえで藤津さんが意識されていることは何ですか?

藤津:大別するとふたつあって、ひとつは話者の趣旨を間違えないように論理を追うことです。インタビューで話をしている最中は、矛盾していることや少しズレたことを普通に話すものなんですね。

たとえば「赤が大事なんです」と言った後に「青が大事です」と言った、ということがあったとします。
そこで“場合分け”という作業を行います。上記の例では「通常であれば、赤が大事です」「でもこういったケースであれば、青が大事です」という風に、赤のパートと青のパートを切り分け、それぞれ補足することで相手の真意が伝わるように構成し直すんです。

――人が口に出していることとその人が伝えたいことが同じとは限らない、という前提があるわけですね。

藤津:むしろ口に出した言葉は真意とは少しズレていることのほうが多いんです。
相手が話したことを一字一句そのまま文章にすると、逆に趣旨が伝わりにくかったり誤解を生んでしまったりすることさえあり得ます。たとえば、富野監督なんかは発言と発言の間にかなり距離がある方ですね。

――たしかに富野監督は、ワンセンテンス毎におっしゃることがバラバラなように感じることもありますね。

藤津:でも富野監督は真摯に何かを伝えようと話をされる方ですから、飛躍しているように思える発言でも必ず間に思考が挟まっていて関連があるんです。すごい速さで次の事を考えているから、発言だけ切り取ると飛躍しているように思えるんですね。その発言と発言の間にあるものをどうやって見つけるか、それが難しいんです。

富野監督は顕著な例ですが、こういった一見飛躍に思える会話は誰にでもあります。それを見つけてつなぐのが、論理を追うということです。

――ということは、その前提となる相手の真意を正しく理解することが特に重要になりますね。

藤津:そうです。それはもう考えて考えて考え抜きますね。
もうひとつ大事なことは、読んでいる方を飽きさせずに最後まで読んでもらうようにするということです。特に途中でダレないようにすることが重要だと思っています。

今回の本ではひとつのインタビューが大体12,000字くらいなんですが、最初の6,000字までに最初の代表作の話は入れるようにしました。
その他つかみとなる話題を盛り込んでいくと大体前半の6,000字が埋まって、後半6,000字では前半に盛り込めなかったみんなが聞きたいキャラクターの話、という構成にしています。
結果的には全てのケースでこの形になったわけではありませんが、基本としてはこういう形をイメージしていました。

――確かに最初に知っている作品やキャラクターの話があると読みやすいですし、読んでいて飽きないように後半にもそれが散りばめられるようにしているんですね。

藤津:最初に余談も含めてジワジワとくるものがあって、その後トントントントン! とテンションが上っていくと楽しく読めるだろうな、というような、割と擬音で表現できるようなイメージなんですよね。

そのリズムを作るために、僕はテキストエディターを20字詰めにしてあって、行数でトピックを管理しています。20字詰めで6,000字であれば300行目までに最初の代表作の話が入っていないとダメで、400行目になったら、トップヘビーな原稿になって、ちょっともったりしている印象になる。。その場合、前半に面白い話を盛り込んでいたとしても、前半を削ります。

――映画監督も観客の感情の変化やテンションのアップダウンを考えてシーンを作っていくと聞きますが、それと似ていますね。

藤津記事を読むという行為でも時間が経過するので、読み手の気持ちをタイムラインに即して考えるという意味では同じですね。適切なタイミングで新鮮な情報が入ってくれば、その度にテンションを上げながらダレずに読めますよね。特に長い原稿は起こるべきイベントが起こるべき行にまとまっている必要があると思います。

――インタビューと執筆、それぞれかけるパワーのバランスはどのようにお考えですか?

藤津:取材と執筆の力のかけ方は半々くらいですね。ただ、インタビューがシミュレーションどおりにうまくいっていれば流れができているわけですから、執筆の負担は減ります。
逆に話が弾んだ場合などは、それを論理的な流れに整理して読み物として面白くなるよう起伏をつける必要が生まれるので、それは執筆段階での作業になります。そういう意味では、取材は実写映画の撮影と同じですね。

――現場でいろんな映像を撮っておいて、編集段階で流れのある一連の映像作品にする、ということですね。

藤津:そのとおりです。

――リズムや流れを作っていった上で、やはりオチは重要だと思うのですが、記事のオチの部分で重視されていることはありますか?

藤津:これもケースバイケースですが、インタビューの中でオチになりそうないいフレーズが出てくることがあるんです。今回の本では平田広明さん(『ワンピース』サンジ役や『TIGER & BUNNY』鏑木・T・虎徹役など)のインタビューの中で「一生懸命やるのが大事だ」「でもこの歳だから一生懸命やってるなんて言わないんですよ」という会話の後に「今充実していますか? 楽しいですか?」と聞いたところ「楽しいですよ。でもつまらなさそうにやりますけど」と。

――カッコいいですね!

藤津:平田さんの含羞というか「肩に力を入れてがんばってます! なんて人に見せるのはカッコ悪いんだ」というカッコよさが出ていますよね。だから、このお話をいただいた時には、即「この話題で終わろう!」と思いました。

――読み物として綺麗に終われるところをオチに持ってくるんですね。

藤津:特に本や雑誌のインタビュー記事であれば、それが理想ですよね。宣伝媒体やWeb記事などメディアが違えば、また違った形でもいいと思います。

■若手ライターが成長できる環境を


――藤津さんのお話から、インタビューとは会話を通じた共同作業であり、執筆はインタビュー相手と読み手の気持ちを考えて構成するもの、ということが見えてきました。最後に、これからインタビューを始めようという方に期待することなどはありますか?

藤津:若手ライターやこれから目指す方には、失敗を恐れずチャレンジしていただけたらなと思います。インタビューは失敗すればするだけ上手くなれるので。

また、そのためには編集部が論理的なフィードバックをする必要があります。「なんかつまんないんだよね」ではなく、「この箇所は論理が飛躍しています」「ここではもっと面白いお話がありましたよね?」という具体的な指摘です。

――ライターは編集部とのチームワークの中で成長するということですね。

藤津:僕自身、「SPA!」時代にはそれがあまりできていなくて反省も込めてそう思っています。

フリーになって以降は、若手に仕事をお願いした時は必ず自分がゲートキーパーとしてチェックをしますし、修正した箇所に理由を添えてフィードバックをするようにしています。沖本さん(同席していたアニメ!アニメ!編集部員)にもしましたっけ?

編集部沖本:はい、フリーライター時代、『名探偵ホームズ』の友永和秀さんのインタビュー記事のときに。

(その記事はコチラ>「名探偵ホームズ」友永和秀氏(作画監督・原画)インタビュー前編 みんなで新しいアニメを目指していた

自分が書いた原稿の文字数の1.5倍くらいのロジカルな修正とコメントをいただきました……その節はありがとうございました!


藤津さんによるフィードバック原稿。赤字の密度から手厚い指導のほどを感じ取っていただきたい。

――結論としては、若者は失敗を恐れずチャレンジし、各編集部はきちんとフィードバックをして若手の成長を促してほしい、ということですね。

藤津:そういうことですね。アニメ!アニメ!編集部もぜひスケジュールに余裕を作って、ライターにもきちんと論理的なフィードバックをしてあげてほしいです。

編集部沖本:はい、肝に命じます! 本日はありがとうございました!

◆ ◆ ◆

今回、インタビューの極意を伺うという目的で藤津さんのお話を伺いました。ですが、「論理の筋道を分かりやすく整理する」「相手や読者はどう思うだろうということをシミュレーションする」「若手はチャレンジし、大人はその成長を促す」という藤津さんの考えやノウハウは、実はインタビューに限らず仕事全般や日々のコミュニケーションにも活かせるものだと感じました。
これからインタビューをしてみようという方はもちろん、いい文章を書きたい、人とよりよい会話をしたいとお考えの方も、ぜひノウハウの実践編として『プロフェッショナル13人が語る わたしの声優道』を手に取って藤津さんのノウハウを活用してみてください。
《いしじまえいわ》
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