英霊や神霊をサーヴァントとして従えて戦うスマートフォン向けRPG『Fate/Grand Order(以下、FGO)』の第2部第3章「人智統合真国 シン 紅の月下美人」が11月27日に配信。中国異聞帯を舞台としていたため、史実に連なる中国の偉人が多く登場し、同時にFateシリーズの醍醐味である史実のアレンジが多く見られました。
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男性と伝わる人物の女体化に始まる史実の拡大解釈が、エンターテインメントとしての面白さを生み出している『FGO』。第2部第3章も様々なアレンジが加えられていました。クリア後に史実ではどう伝わっているのだろう?と時代背景が気になる方も多いと思いますので、まとめてみました。
1.李白の詩を読む荊軻
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汎人類史側のサーヴァントにして、反逆三銃士が一騎・荊軻が登場。中国異聞帯の王として始皇帝が君臨していたので、二人の絡みに大きな期待を寄せられたのではないでしょうか。中国の戦国時代にして7大国が覇を競い合った春秋時代は、始皇帝の秦が史上初めて中国を統一しましたが、統一に邁進する始皇帝をあと一歩のところで暗殺できたのが燕の刺客・荊軻でした。紀元前227年くらいに活躍した人物です。
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『FGO』劇中では荊軻が詩を詠む場面が出てきます。「花間、一壺の酒、独り酌んで相親しむもの無し。杯を挙げて明月を迎え、影に対して三人と成る」という詩は李白という詩人のものです。この李白は紀元700年代である盛唐時代に活躍し、同時代の杜甫と並んで中国詩歌史上最高の詩人と称えられています。
お気づきでしょうか。李白より先に生まれた荊軻が、李白の詩を詠むことに対して、違和感を抱いた人もいたかと思います。ただ、英霊として召喚された時に必要な世の中の知識を与えられますし、主人公と一緒にずっと旅をしてきた荊軻ですから、後年の中国書物を読んでいてもおかしくはないです。こちらの場面は個人的にまるで時を超えたコラボレーションのようで印象深かったです。
2.始皇帝が肉体を機械化することで不老不死に
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史実において始皇帝は晩年、不老不死の薬を探し求めたと伝えられています。始皇帝のために3000人の若い男女や多くの技術者を連れて東方に不老不死の霊薬を探す旅に出た徐福の伝承は日本にも伝わっているほどです。中国では仙界、不老不死である仙人の存在が信じられていました。
しかし、『FGO』劇中の始皇帝は自分の身体を機械化することで不老不死を得ることに成功しました。それによって得た人知を越えた演算能力により、高度な技術革新を成して異聞帯において世界を統一したのです。また、終盤では、真祖である虞美人の協力を得て仙人(すなわち真人)の肉体の仕組みを解き明かすことに成功。培養した真人の肉体を持った人間として立ち塞がりました。
3.項羽と虞美人が人間じゃない
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史実では、始皇帝亡き後の秦を滅ぼした覇王・項羽(項籍)は、圧倒的な魅力で人々を惹きつけて漢王朝を起こした劉邦と戦い敗れました。そんな項羽の愛人だったと伝えられるのが虞美人で、劉邦との最後の戦いで追い詰められて四面楚歌となった項羽は自身の最後を悟り、「虞や虞や、汝を如何せん」と彼女のことを詩に詠んだと言います。
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『FGO』劇中では項羽がなんと、始皇帝が創った人型の個体として登場します。さらには、虞美人も真祖と呼ばれる吸血鬼だったというから二重の驚きです。Fateシリーズにおける真祖とは、生まれた時からの吸血鬼であり、星が生み出した自然霊を指しています。物語の構成から見るに、項羽の設定は虞美人ありきで定められたような気がします。
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