現在、セル画の購買者は海外が7割?
――時代の流れ、致し方ないところですね。ところで、先ほど話題に少し出た、海外ファンからのセル画需要についても教えてください。
平
海外からの需要は、私の知る限り80年代中頃からありました。
個人的に『となりのトトロ』のセル画を売ってくれ、とアメリカ人からよく相談が来たのを覚えています。
先ほどお話したとおり、当時のアニメファンの主なセル画調達方法はトレードだったので、その文化が分からない海外ファンの目には非常にやりにくい市場に映ったようです。
言語やその辺の知識に長けた日本人や外国人がバイヤーとなって国内で買い、海外に売る、ということは80年代後半からあったようです。
――海外ではどんな作品が人気だったのでしょうか?
平
『トトロ』などのジブリ作品の他には、『バブルガムクライシス』『ガルフォース』などの園田健一さんの作品は好評だったようですね。
『メガゾーン23』のパート1と2や、大友克洋さんの『AKIRA』『メモリーズ』、高橋留美子先生の『らんま1/2』『うる星やつら』『めぞん一刻』なんかも人気でした。
国内の10倍の値段がつくこともよくありました。
90年代に入るとフランスなどのファンも増え『(美少女戦士)セーラームーン』や『ドラゴンボール』などのセル画が人気を博しました。
アラブのある資産家が『ドラゴンボール』の悟空のセル画だけを集中的に集めていたことがあり、その頃は悟空のセル画が1枚30万円にまで上がった、なんてこともありました。
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――最近の動向はいかがでしょう?
平
リーマンショックや震災の影響で円が不安定だった頃は、買い控えが起きていたようですが、最近は円安で安定しているので、ベトナムなど東南アジアや、アラブなどのファンがまた買うようになっています。
ネットの普及でアニメが日本とほぼ同時に見られているので、セル画の人気も地域差は減り、日本で人気のあるものが海外でも人気、というトレンドになっています。
現在、購買者の7割が海外、3割が国内ってところだと思います。
――えっ、そんなに海外比率が高いのですか?
平
セル画に限らず、生活家電や車でもそうじゃないでしょうか。
さらにいうと、一見海外の方に見える方が7割というだけなので、日本人が買って海外の人に流すこともあると考えれば、8割海外と言ってもいいのかもしれません。
――日本国内での購買が落ちる一方、海外ニーズは非常に伸びているのですね。
平
そうだと思います。
「セル画の技術文化を後世に残していきたい」
――それでは最後に、セル画の今後に向けて、平さんのお気持ちやお考えを教えてください。
平
店舗の閉店という意味では、誰でもセル画に触れられ、クリーンなものを安価で買うことができる、という役割は終えたのかな、と思っています。
今後はWeb販売や催事場での対面販売などに機会を移したいと思います。ただ、閉店までまだ時間があるので、セル画というものに関心を持たれた方は、ぜひ最後に足を運んでいただけたらと思います。
一方、セル画の技術を文化として後世に残すという意味では、まだやれることがあるのではと思います。
例えば、『名探偵コナン』など海外でも有名な長期作品であれば、リレイズセル画の販売はビジネスとして極めて有効なモデルが作れると思います。
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平
クールジャパン戦略などの助成の中で、セル画販売で外貨獲得という旗印が立つのであれば、そこに知恵や経験を使いたいなとも思います。まだセル画を作れる職人さんの協力が仰げるうちにすべきことだと思います。
――その中でも最重要で抑えておく必要があるのが、塗料の技術ですね。
平
そうです。塗料の技術とレシピは、セル画の技術を後世に残すためには不可欠です。
――本日は貴重なお話、ありがとうございました。
【2018年8月東京都中野区、中野ブロードェイにて】