“90年代的作家性の強いアニメを目指した”「UNDER THE DOG Jumbled」から見るクラファンの可能性 2ページ目 | アニメ!アニメ!

“90年代的作家性の強いアニメを目指した”「UNDER THE DOG Jumbled」から見るクラファンの可能性

6月23日より2週間限定で上映される映画『UNDER THE DOG Jumbled』より、原作・イシイジロウ氏にインタビュー。既存のTVアニメでは実現しにくい複雑かつ重厚な設定と世界観で観る者を圧倒する本作はいかにして生まれたのか訊いた

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  • イシイジロウ氏
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■本当は大変なクラウドファンディング


――集めたお金を実際に作品に落とし込む時に、通常の資金を使う時に比べて難しい面はありましたか。

イシイ
僕らが参加した時は、クラウドファンディング自体が初期の頃でしたから。ルール作りがまだ出来てない状態だったんです。僕自身も参加していて、税金の問題も含めてちゃんと計算できているのか不安な状況でした。

流通にいくらかかりますとか、手数料はいくらとか公表したんですが、バッカーさんたち(キックスターターの支援者)にしてみれば「出したお金全部フィルムにしてくれるんでしょ?」とイメージしますよね。
でも他にもいろいろな経費がかかるわけです。配送費やパッケージ制作費とか。そういうのを全て後追いで説明していかなくてはならなかった。発送先も日本だけではないわけで。

森本
配送料が意外とかなりかかるんですよね……。

イシイ
そう、送料も例えば「ブラジルに送る場合はいくらかかる」とか、そういう細かいルール決めを後追いで大急ぎで整備していきました。そこが一番のポイントでしたね
先払いでお金をもらって、全世界にパッケージを発送することは、正直どこのビデオメーカーもやったことないことだと思うんですよね。それを個人ベースの企画でやれてしまうというもがキックスターターの凄さというか恐ろしさというか。

森本
そのへんのルールをしっかり作れる人がプロジェクトにいないと成立しないですよね。そうじゃないと後追いでそういう雑事にばかり手間暇かかってしまって作品作りに集中できなくなりますから。製作委員会の良い点は、そういう雑事は全部メーカーがやってくれるということです。

イシイ
ユーザーとクリエイターが直接繋がってモノを作るって理想的な言葉ですけど、ふたを開けてみるとメーカーがやっていたことの偉大さを突きつけられたというか(笑)。

森本
大企業に務めてた人が独立した後に、「ああ、総務部って素晴らしいな」と感じるのと一緒ですよね(笑)。

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――実際、普通のお客さんの立場からすると、お金を払うとすぐに商品が手に入る感覚がありますが、クラウドファンディングはお金払ってから製作がスタートするから手に入るのは何年も先になります。このあたりでバッカーさんとの意識がズレるようなことはありませんでしたか。

イシイ
これもまた難しくて、本来クラウドファンディングって、ユーザーとコミュニケーションしながらモノを作っていくものだと思うんですよね。クリエイターが一方的に押し付けるのではなく、「どんなものがいいと思いますか?」と聞きながら意見を取り入れて作っていく。

でも今回は、みんな90年代的な作家主義のアニメが欲しいんです。作家主義をみんなでこねても欲しいものは手に入らないので、「僕たちはこういうのを作ります、だから待っててくださいね」と言うしかない。
そのことをちゃんと共有していくのが特殊でした。他のプロジェクトを見ていると、みんなで相談しながら作っているものもありますから。


■クラウドファンディングで作家性の高い作品を作れるか


――そうした作家性のあるものを作るとなったときに、既存の製作委員会システムなどと比較して、クラウドファンディングを使う利点はありますか。

イシイ
製作委員会にも2種類あって、作家性の高い製作委員会作品もあります。作家ありきの製作委員会なら作家性は発揮できるんですが、最近はそういうタイプの作品が市場で勝てなくなってきてる気がするんですよね。
今のTVアニメの市場はそれほど強い作家性を求めずにどちらかと言うと、ユーザーが求めることに対してチューニングしていく方がヒットしやすいんだと思います。
そういう意味では製作委員会がどうこうというより、テレビ作品ではないということで、『UNDER THE DOG』が一度出たことによって、作家性の高いモノをクラウドファンディングでもできるんだという道ができればいいなと思いますね。


――イシイさんは別のインタビューでも既存のアニメ製作はB to Bで、クラウドファンディングは本当の意味でB to Cを実現できるかもしれないという期待を語っていらっしゃいました。実際そのB to Cで作ってみて、既存のやり方とは違った感覚で作れたという実感はありますか。

イシイ
そうですね。みんなで好きなものを突っ込んでいけるという感覚はありましたね。もちろん最終的な判断は監督にしてもらうんですけど、誰かの顔色を伺う必要はなかったので。
フィルムとしての作家性はすごく出ていて、B to Cの作品として、直接ユーザーさんにぶつけるという発想の作品にはなっていると思うんですよね。

ただ、今回やってみて生まれたものがもう一つあって、自分もクリエイターとして、アニメの原作をどう生み出すかというのはずっと考えているんですが、一つのヒントになるかもしれないと思いました。
近年、僕は舞台の原作を手がけていて、それをコミカライズやアニメ化できないか考えていたり、ボードゲームなどジャンル隔てなくいろんなものに挑戦していますが、それは新しい原作のマーケティングの仕方を探っているんです。

原作がどういうユーザーに届いたかという実績がないと、製作委員会に持ち込んでも原作者は結局アイデア屋でしかないんですね。そこで「これだけお客さんいますよ」と言えれば反応も違ってくるので。
原作をクラウドファンディングで直接ユーザーにぶつけてみて、その答えを持って製作委員会などにぶつけていく。そういうクリエイター主導の原作の作り方のヒントになるかなと。

――ファンがついているというエビデンスになるということですよね。

森本
そうです。これだけの人がお金を出してくれてこれだけ満足していますと説得できる。

――非常にセンセーショナルな設定だし、クラウドファンディングの最高額ということで当時はかなり話題になりましたが、内容面でも十分話題になるポテンシャルはあると思うんですよね。

イシイ
僕自身は『UNDER THE DOG』についてはもっと話題になってほしいと思っています。今まではクローズドなところでの流通だったので、今回の劇場版で色々な反応が出てきてほしいですね。
相当に尖った設定のフィルムになっているという自負はあって、それに対しての議論はたくさん出てきてほしい。

――では最後に、本作をこれから劇場で観るファンに向けひと言お願いします。

イシイ
製作時や完成した時は「ちゃんとお客さんに届けなくては!」という気持ちでいっぱいでしたが、いま客観的に作品を見てみると、やはりすごく尖ったフィルムになっていると思います。
テレビではできない、クラウドファンディングならではの作品になっていますので、ぜひともご覧ください。
《杉本穂高》
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