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縦画面で見るアプリ「タテアニメ」の革新性―プロダクションI.Gがアプリで作る新たなメディアの狙いを訊く

6月、「タテアニメ」というスマートフォン向けアプリが公開された。その名の通り、縦画面用に制作された新作アニメを毎日配信し、しかもすべてが新作で基本的に無料で観られるという大胆な試みだ。

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6月、「タテアニメ」というスマートフォン向けアプリが公開された。その名の通り、縦画面用に制作された新作アニメを毎日配信し、しかもすべてが新作で基本的に無料で観られるという大胆な試みだ。
スマートフォンの普及により動画画面のスタイルはタテ型に変化した。大手SNSや動画サービスも軒並みタテ型に対応し、動画配信の潮流は今やタテ型にあるといえる。
こうした時代の波に乗って生み出されたのが「タテアニメ」だ。本アプリのプラットフォーム構築から、配信される作品のアニメ制作までを一手に手がけ、プロデュースしていくのは大手アニメーション制作会社のプロダクション I.G。これまでであれば、TVや劇場といったメディアに合わせてアニメ制作する形だったが、自らプラットフォームを立ち上げてビジネスモデルとして展開するのには一体どのような目的があるのか。そしてその勝算は? プロダクションI.Gの大塚裕司氏、大久保圭氏に話をうかがうと、現在のアニメビジネスに本当に求められている次の一手が見えてきた。
[取材・構成=日詰明嘉]

――まず「タテアニメ」という企画はいつ、どのように動き出したのでしょうか?

大塚
企画を立ち上げたのは、約1年ほど前になります。前提となるお話から始めますと、あるIT系の大型カンファレンスに出席したのですが、そこで示されたデータによるとすでにユーザーのファーストディスプレイは、TV画面でもPC画面でもなくスマートフォンになっており、検索利用でもスマホ対PCが7対3という割合で圧倒的にスマートフォンの利用にシフトしている。そして国内の広告ビジネスも、スマートフォンでの広告取り扱いが年間約5000億円前後まで伸びてきている。これは、地上波のTVCMの3分の1に迫る勢いです。つまり、ユーザーの利用形態の変化が、広告ビジネスを変え、急激にスマートフォンにシフトしつつあるといえます。私自身、入社以来アニメ作品のポータルサイト構築とアプリの仕事をしてきましたが、スマートフォンアプリビジネスは、キャラクター系の版権事業として捉えられており、媒体としてのビジネス活用はまだだと感じていました。一方、ゲーム業界や出版業界はスマートフォンに対しIP資産を活かした新しいビジネスを展開しています。アニメ業界も新しいプラットフォームに対しきちんと向き合うべきだと思いますし、そのなかで「タテアニメ」は、ひとつの媒体として成り立つのではないかと考えたというわけです。

――現在の一般アニメユーザーの視聴状況やその環境についてはどのような認識をお持ちですか?

大塚
総体としてアニメの本数は増えていますが、アニメファンはより細分化されてきたことによって、ヒットが出る確率もそれによって大きく変化してきているのではないかと感じております。放送枠の一部は縮小され、TVや劇場向けアニメ作品のDVD/BDのパッケージ市場は近年、かなりの規模で縮小しつつあります。それに変わって台頭してきているのが自動公衆送信ですが、市場は拡大の一途をたどっております。そういう意味では固定されたハードに依存の大きいパッケージ商材ではなく、ユーザーのニーズに沿ったデバイスで自由に見ることができる配信市場へユーザーの趣向がシフトし市場が拡大していることから、手軽に持ち運べるスマートフォンに特化し視聴できるタテアニメは、よりユーザーに選んでもらいやすい商材になるのではないかと考えております。今後、作品作りも、デバイスにあわせた作り方が一般的になるのではないかと思われます。TVや劇場向けの作品は、より作りこんだ長尺な作品に、逆に小さな画面向けの作品は、生活のすきまの時間での視聴に合わせて、作品の尺はどんどん短くなっていくだろうと予想します。ユーザーがどのデバイスを使ってアニメーションを楽しむかを想定しながら、企画を立案する形になっていくのではないでしょうか。


――「タテアニメ」の収益モデルに関してはどのようにお考えでしょうか?

大塚
基本的には、既に大市場を形成している無料マンガアプリに準じております。コンテンツ視聴の対価に広告をご覧いただくビジネスモデルです。3分の新作アニメが毎日配信され、アプリを起動するごとにログインポイントが付きます。お客様は毎日アプリを起動していただければ、新作をずっと無料でご覧いただけます。作品を見逃したり、過去作品をまとめてご覧になりたい場合は有料のポイントを購入して、見て頂く形になります。なので、一部有料メニューありとなっております。

――広告と作品のマッチングはどのようにされていますか?

大塚
通常のアプリの場合、アドサーバーは基本1社なのですが、「タテアニメ」については複数社のシステムを実装しております。広告在庫の中から、予めセグメント設定をした広告が自動に掲出されます。運営ポリシーに合わないクライアントの広告は、事前設定ですべて排除されます。
「タテアニメ」の媒体としてのブランド感などを考慮し、内規で定めた広告出稿基準で決めております。

――「タテアニメ」は現在、3分×10話のフォーマットで制作をしているとのことですが、ターゲットは先ほど挙がったマンガアプリを利用するようなカジュアルな層とその市場ということでしょうか。

大塚
そうですね。現在は、マンガアプリも大手出版社自らサービスを提供する形にシフトしつつあります。それらのマンガアプリとの協業が、新しい市場を開拓するのではないかと考えております。例えば「タテアニメ」では、集英社様のマンガアプリ「ジャンプ+(プラス)」の中で、1、2を争う人気作の『カラダ探し』をタテアニメ化し、共同でプロモーションを行います。
人気作をきっかけにタテアニメのユーザーになり、それらの方に他の出版社様の作品をオファーしていく、他の作品の楽しさや素晴らしさについて気づいていただく場を提供していきたいと思います。個々の作品のファンを別の作品にも誘導することで出版―タテアニメという形で盛り上げていきたいという狙いがあります。またすでに人気が確立した作品だけではなく、これから人気が出そうな作品を「タテアニメ」でアニメ化する計画も動いております。

■タテ型動画がスマホに向いている理由と展開上のメリット

――通常のアニメ作品と比べ、「タテアニメ」でアニメ化することの特徴はいかがでしょう?

大塚
何と言ってもスピード感です。TVアニメを製作すると、たとえ1クールであっても準備に約1年以上、予算も数億円とかかってしまいます。ユーザーのコンテンツ消費スピードがどんどん早くなっていく昨今、盛り上がりつつあるマンガをタイムリーにアニメ化してさらにヒットのスパイラルにのせるのは至難の業です。それが「タテアニメ」であれば、スマホ向けに割り切った画面サイズ、さらに制作手法もフルデジタルで工程の見直しを行うことで、企画から配信までを3ヵ月から半年ほどのスピード感で対応が可能です。そうすることで、イチオシの作品の「新刊発行のタイミング」など、出版のプロモーションスケジュールとあわせて「タテアニメ」と「書店店頭プロモ」で、一気に盛り上げることができます。今回『残念女幹部ブラックジェネラルさん』も新刊のタイミングで作品配信をしています。書店などでは作品を知らない初見のお客様に対し「アニメ化決定」はかなり有効なキャッチコピーとなり、販促効果は増します。また、タテアニメがプロモーションビデオに成りえます。さらに、弊社としては「タテアニメ」でヒット作品が出れば、主戦場のTVや劇場向けアニメでのより大きな展開も期待できます。タテアニメは、作品のテストマーケティング的な活用も出来るのではないかと思います。

――タテアニメ化する原作はどのような基準で選ばれていますか?

大久保
今の話に続けて申し上げると、新しくて勢いがあるけれどもまだ原作の単行本が出版されていないような作品は積極的にタテアニメ化していきたいと考えております。ジャンルや傾向について、特に向いているのは twitterなどSNS上で口コミが拡がることによって人気となりやすいショートギャグ作品だと思います。また熱烈な固定ファンを持つ作品をアニメ化することで、ファンを「タテアニメ」に流入させたいという狙いもあります。ローンチタイトルとしては『てぃ先生』のようなほのぼのとした作品から『残念女幹部ブラックジェネラルさん』のような従来のアニメファン向けに近い作品など、幅広く取り揃えています。サービスを開始してデータを取りはじめると意外な結果が表れるところもあり、それらを反映しつつラインナップの強化を図っていきます。そして、ゆくゆくは「タテアニメ」発のオリジナルアニメ作品を生み出すことも視野に入れております。


――原作選定におけるマーケティングはどのようにされていますか?

大塚
アプリ上でアニメを配信するという点で、やはりSNSでの拡散が重要となります。ネットで話題になっていたり、コアなファンを抱えていたりなど、それらを中心に選んでいます。基本的には発行部数については主眼に置いておりません。先ほどのような例ですとそもそもまだ発売されていないような作品のケースもありますから。数字的には後付けになりますが、作家のフォロワー数なども指標としては考えられます。

――アニメ制作において縦長のアニメというのは珍しく、まだまだ模索中だと思いますが、実際に制作現場からの反応はいかがでしょうか?

大久保

参加スタッフの誰にとっても初の試みですので、試行錯誤をしている最中ではあります。絵コンテ用紙ももともと横長前提で作られているので90度傾けて使ったりするなど、各クリエーターともまずそこからですね。また、縦で制作する場合は各カットでの絵の収まりが全く変わってきます。たとえば一人のキャラの全身を見せる場合、従来であれば縦にパンをする必要がありましたが、タテアニメならひとつの画面に収まります。逆に横に何人も並んでいるカットの場合は演出を工夫する必要があります。また、『ルナたん』のように元々地面を下に掘り進むスマホゲームが原作の場合、「タテアニメ」ならば原作に忠実な形でアニメ化できるので、それはメリットのひとつです。

大塚
LINE LIVEも縦画面になりましたし、Instagramも縦型動画に対応するようになりました。スマホが縦型に設計されている以上、やっぱり縦型の方が見やすいですよね。面白い実験結果がありまして、I.Gの実写部門にいる木村好克監督が自作の5分程度の作品を左右マスキングして9:16の縦長にしたところ、縦で見た人も横で見た人もストーリーの認知度はほとんど変わらないという結果が出ました。作品の内容や、構成、ストーリーによる部分はありますが、縦型でも十分なストーリーテリングができると考えます。
また、最近は駅の柱などのデジタルサイネージが盛んです。縦型が増えてきたのはサイネージのスペース的な理由だけではなく、人間は自身も動きながら、動くもの、動画などを見る時は、横画面よりも縦画面の方が、瞬間の認知度が高いそうです。「人間の目は横に付いているので縦画面では難しいのでは」というご意見もありましたが、視野の範囲内では実は縦の方が理解しやすいといえます。こういった研究や世界的な潮流からして、今年から来年にかけて縦長の動画・広告はますます増えてくると思います。

――デジタルサイネージとタテアニメの連動といったプランもあり得るのでしょうか?

大塚
新江ノ島水族館の「えのしまんず」というクラゲのキャラクターと連動する作品が現在タテアニメで配信中です。水族館のサイネージで展開する館内案内やストーリー作品として発表していきます。水族館を訪れて「えのしまんず」を好きになってくれた方に対して、ご自宅でも「タテアニメ」で「えのしまんず」に会えます。またアプリの機能としてプッシュ通知で水族館の新情報を流すこともできます。「えのしまんず」を中心に、施設とファンが常にリレーションを取ることが出来るのです。
全国の自治体や商業施設にはこうした独自のキャラクターが沢山いますので、「タテアニメ」と協業することで、さまざまな可能性が考えられます。従来ですと放送枠、制作費、スケジュールとアニメーション制作は非常にハードルが高いものでしたが、「タテアニメ」ならば、それらの課題に対して対応できます。

えのしまんず

■「タテアニメ」はアニメ制作業界に新たなチャンネルを提示する

――そのほか、本プロジェクトの参加にメリットがありそうな業種は?

大塚
一番メリットがあるのは、全国にあるアニメーション制作会社ではないでしょうか。タテアニメの制作ラインにご参加いただくために、沢山の制作会社様に伺いご説明をさせていただきました。制作ライン協力のお願いの後で、いろいろなお話が出て参りました。そこでは、その制作会社様が温めている、オリジナルの企画が沢山ありまして、「これはタテアニメにどうかな?」とか、非常に前向きで楽しいご提案を頂きました。こんなのもあるのだけど?いつかはオリジナルで実現したいなど、この場、この時こそクリエイティブの瞬間だなと非常に感動いたしました。もともと、自分でオリジナルを作りたいからアニメ制作会社を経営されている方が多いので、素晴らしいアイディア、キャラデザイン、シナリオ、設定などは既にお持ちの場合が多いのです。ただ、実現に至らない理由は、予算的なものであったり、既に入っている仕事のスケジュールであったり、人的なリソースであったりするわけです。
そのような状況で、3分×10話、10話以下でもいい、「実質30分ものを作るとしたら、可能性はないですか?」と聞くと、「なんか出来そうだな、空いている時間で……」となります。もちろん、権利も制作会社様のものになりますので、自社作品として、ヒットのあかつきには大きなビジネス展開も可能で、制作費も回収できるのでないかと思うのです。実際には「タテアニメ」で作品のテストマーケティングをやってみたいというニーズもあり、当社製作以外の作品も増えていきます。タテアニメは、アニメ業界のプラットフォームとして企画していますのでそれらの協業も大歓迎です。既に「タテアニメ」はIGポートグループの範囲のみならず、パブリックなメディアとしての運用を行っております。作品の発表の場としてだけではなく広告や課金のシステムも備わっていますので、マネタイズプラットフォームとしても各制作会社にぜひとも活用していただき、ヒットが出た場合は、製作委員会の組成などお手伝いが出来ればと思います。我々としましても企画に参加頂ける制作会社様に積極的にお声がけして参りますし、今回「アニメ!アニメ!ビズ」の記事でご興味を持っていただき、一緒に「タテアニメ」を作りたいという方が現れたら非常に嬉しいです。

――「タテアニメ」は一つのチャンネルを目指しているわけですね。

大塚
はい。制作会社さん以外にも個人のクリエーターにも「タテアニメ」を使っていただきたいと思います。専門学校の先生のお話を聞くと、今の学生さんは、デジタルソフトを活用し、お一人で作品を作られていたり、少人数のチームで制作に取り組んでいらっしゃるそうです。実は、IGポート10周年を記念して、クリエーター発掘コンテスト「プロジェクトBIGSHIP」を開催中で、その中でタテアニメ部門の募集を行っております。優秀な作品には賞金に加え、副賞としてタテアニメでの配信をさせていただきますので、ぜひ幅広いクリエーターの皆さんにご応募いただき、作品発表の場として使ってもらいたいです。


――今後の目標、または具体的な数字については何か掲げられていますか?

大塚
1年で100万ダウンロードを目指しています。タイトルは初年度では30本前後の作品の配信を考えております。
また、コンテンツメーカー、配信事業、広告など様々な関連企業様にご参加いただいておりますので、1社では難しいような、それぞれのネットワークや得意分野を活かした複合的な展開を目指しています。スマートフォンアプリの良いところは世界展開が可能なところです。企画にあたって既に世界展開されているアプリプラットフォーム会社にお話を伺ったところ、とりわけアジア地域では日本のアニメもディスクメディアではなく、スマートフォンの画面で観られているそうです。日本のアニメは海外で期待されているところも大きいので、できるだけ早めに海外展開を図りたいと考えております。是非、皆様タテアニメをダウンロード頂き、新しいアニメーションのスタイルを体感ください。本日はありがとうございました。

「タテアニメ」を知った人はまず縦画面という目新しさに目が行くことだろう。ただ、それはこのアプリにおける革新性の一端にすぎない。デジタル制作スタイルを駆使し、小回りの効く企画に最適化したこのビジネスモデルは今後、作品をテストマーケティングする場としても、今後のメディア展開を大きく変える可能性を秘めている。また、インタビューの最後に話題に上った各制作会社が取り組もうとしているさまざまな新規企画は、一般ユーザーとしても注目すべき次なるプラットフォームで開花する可能性があるといえよう。まずは「タテアニメ」のアプリをインストールし、タテ画面の動画にはどんな可能性があるのか、実際に体験することで今後のアニメ新時代の先端に触れることができるだろう。


「タテアニメ」公式サイト

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IGポート10周年記念コンテスト「プロジェクトBIGSHIP」

[アニメ!アニメ!/animeanime.jpより転載記事]
《日詰明嘉》
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