本作は原作小説を手がける川原 礫書き下ろしの完全新作オリジナルストーリーをアニメ化したもの。AR(拡張現実)ウェアラブルデバイス《オーグマー》によって現実世界をフィールドにして遊ぶARMMORPG《オーディナル・スケール》を主軸に物語が描かれる。
監督を務めるのはTVシリーズと同じく伊藤智彦だ。同氏にとってこれが初の劇場版監督作品となる。
今回はそんな伊藤監督にインタビューを実施。劇場版ならではの作り方、さらにTVシリーズとの違った魅力について伺った。
[取材・構成:ユマ]
『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』
2月18日(土)全国公開
http://sao-movie.net/
■近未来的なARで展開する新たな戦い
――TVアニメシリーズから2年以上の期間を経て公開される本作ですが、どのような経緯で企画がスタートしたのでしょう。
伊藤智彦監督(以下、伊藤)
ありがたいことにTVシリーズは第1期、第2期ともにヒットしまして、それが足がかりとなって劇場版を制作することになりました。そのときは劇場版でどんな物語を描くかまったく決まっておらず、漠然と「完全オリジナルがいいのでは」という考えがあるくらいでしたね。
――伊藤さんが劇場版の監督を務めるのは今回が初めてですよね。
伊藤
そうですね。TVシリーズと比べると作画する紙も大きくて、尺の使い方も違うため苦労することもありました。ワンカットに収める情報量はどのくらいが適切なのか、音楽を使うタイミングはどこがベストなのかなど、盛り上がる場面へ持っていく方法には神経を尖らせていました。
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――スタッフクレジットを見ると、伊藤さんの名前は脚本にもあります。具体的にはどのように関わっていたのでしょうか。
伊藤
川原さん(原作者・川原 礫)と連名になっていて、最初のプロットを川原さんに書いていただき、それを俺がシナリオ形式にしていきます。そして再び川原さんにキャラクターのセリフや細部の修正をお願いしました。
――ということは、ARのゲームを題材にするのもプロットを作成した川原さんの案だったのですか?
伊藤
そうですね。TVシリーズはいずれもVRゲームが題材になっており、同じものばかりでは代わり映えしないと川原さんは考えていたようです。もし劇場版でもVRだと、TVシリーズの派生にしかなりません。そこでより近未来的なARが題材に選ばれたのです。それにARだと生身の人間がゲームをすることになり、超人的な動きはできません。動きが制限されることも、TVシリーズとの良い違いになると考えたようです。もっとも、動きが少なくなるのはアニメとしては難しかったですけどね(笑)。
――結果的には現実を侵食していく、より未来的な映像になっていますよね。そういった表現の違いという点で、特に意識した箇所はありますか?
伊藤
派手なアクションを入れづらくなったぶん、MMORPGにおけるチーム戦に近い、多くの人物が入り乱れるバトルを意識しました。加えてモンスターはこれまで通り自由に動かせるので、効果的に使っていきましたね。例えば盾を持ったタンクがモンスターの強力な攻撃を受け止め、弾いた隙にアタッカーが攻撃を仕掛けるといった具合に、モンスターを含めた複数のキャラクターが淀みなく動くシーンを入れています。
――現実の世界ではARを使ったゲームは少ないですが、なにか参考にしたものはあるのですか?
伊藤
ARだけではありませんが、やはり『ポケモンGO』と、その前身である『Ingress』は大いに参考にしました。映画の企画が始まったときにちょうど『Ingress』が盛り上がりを見せていて、俺もプレイしてみたんです。当時から『Ingress』はリアルイベントを積極的に行っていましたし、『ポケモンGO』ではさらに多くの人を巻き込む力を見せつけられました。
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――確かに、劇中でも街のどこかに多くのプレイヤーが集まってゲームを楽しむ姿が描かれているのが印象的でした。今回は実在する街並みも多く登場しますが、描く際に注意したポイントはありますか?
伊藤
そこは難しいところでしたね。一応本作はTVシリーズの第1作目から数年後という設定ですが、第2期のラストから数えると数週間しか経っていないのです。なので未来的な建物ばかりでも違和感が生まれてしまい、極端に変えないほうが視聴者もとっつきやすいと考えました。同様にゲームを遊ぶためのガジェット、今回で言えば《オーグマー》もあまり突飛な未来的なデザインにはしていません。
――普段からよく見る東京の街が出てくるのも新鮮でした。
伊藤
川原さんのプロットにも東京が舞台になることは書かれていたので、それを忠実に再現した格好です。俺としてもイメージしやすかったですし、見ている人にとってもアニメの中でなにが起こっているのかを想像しやすくなっていると思います。
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